本書は Jay Belsky, Avshalom Caspi, Terrie E. Moffitt, & Richie Poulton の共著による近刊だ.きっと,この数年でなされた最重要にして最良の研究だと認められることだろう.想像してみてほしい.ニュージーランドのダニーディンに住む人々 1,000人余りの人生を出生から38歳まで追跡して多岐にわたるデータを記録し,さらに,15カ所でイギリス人の双子たちを20歳まで,アメリカ人の子供たちを15歳まで同じように追跡調査していくなんて,いったいどれほどのことがわかるだろう.想像できるかな.
とにかく買うべし.さて,研究結果をほんの一部だけ紹介しよう.
幼児期の「自制の不足」や「内気・引っ込み思案」という性質は,18歳になるまでずっと持続する見込みがいちばん高い.自制の不足は,危険の追求や衝動性をもたらしがちだ.その同じ個人が,32歳ではギャンブル依存症になる見込みがいちばん高くなる.他方で,自制が不足した女の子たちは,男の子たちよりものちに危険に出くわすことがずっと少ない.これはギャンブルでも同様だ.
「40歳までに蓄積した社会的・経済的な富は,子供時代の自制に関連していることが判明している.」 これは,子供時代の社会的階層に含めていろんな条件で統制したうえでの話だ.
子供時代に正式に ADHD と診断されることは,成人になってからそう診断されることと統計的に関連がない.ところが,子供時代に ADHD と診断されることは,成人後に「多動性,注意欠陥,衝動性」の水準が高くなることを予測していた.概念的には関連していても診断ではうまく反映されにくいんじゃないかと思う.ところで,数十年後に,親たちの4分の3は,我が子が ADHD だと診断されていたことや,ADHD の徴候を示していたことを覚えてすらいなかったそうだ(!).
子育てのスタイルを,母親は世代をまたいで継承するのに対して,父親では継承されない.
著者たちは1事例では DNA 検査をもとに比較していて,それでも,子育てスタイルが子供の発達に影響しているのを見出している (p.104).
託児所の効果はどうかと言うと,どうやら,母親と子供の関係にとって重要なのは,母親が子供の世話をするのに費やす時間の量であって,質ではないようだ (p.166).他方で,子供の知的発達では,量ではなく質がものをいう.4歳半までに,託児所で過ごす時間が多くなるほど,子供は言うことを聞かず攻撃的になっていた.少なくとも平均で見ると,こうした問題は10代まで持続している.いい知らせもある.生育した家庭環境の質の方が託児所よりも重要だ.
でも本書に登場するネタはまだまだ尽きない.いまの話は,この刺激的な本をチラ見した程度でしかない.たとえば,ご近所さんが子供に及ぼす影響については,ここでは明かさないでおこう.他にも話題や問題はたくさん登場する.いじめは? マリファナを小さいうちから長期的に使用したらどうなる?(ええっ) 多遺伝子リスクスコアと職業的な成功についてはなにがわかる? 双子が被った虐待のちがいを比較すると後成的遺伝学についてどんなことが明らかにできる? 幼少期のどんな要因が,のちのテロメア浸食を予測するだろう?
本書の書きぶりは「明快かつ事実に即す」タイプだけど,わくわくさせる書き方ではない.
予約はこちらでできる.「今年の収穫」の一冊になるのはもちろん,ここ数年でも指折りの本になりそうだ.ぜひ一読してほしい.