タイラー・コーエン 「アメリカは第二次世界大戦の戦費をいかにして調達したか?」(2010年9月7日)

●Tyler Cowen, “How did America pay for World War II?”(Marginal Revolution, September 7, 2010)


Interfluidity経由で知ったのだが、ピーター・シフ(Peter Schiff)が興味深い事実に言及している。

しかしながら、第二次世界大戦と同様のインパクトを引き起こそうとすれば相当の努力が必要となることだろう。1940年代初頭に連邦政府の歳出額は6倍増を記録したわけだが、今現在の話に置き換えると現状の6倍増の歳出ということになるとその額はおよそ20兆ドル。国民一人あたり6万7000ドルの政府支出が行われる計算だ。それだけの規模の財政出動が講じられたとしたらGDPも凄まじい勢いで上向いて「大不況」から抜け出すのもお茶の子さいさいだろう。

それではアメリカは第二次世界大戦の戦費をどのようにして調達したのだろうか? 多くの人はいくらか驚かれるかもしれないが、戦費の大部分は増税と個人貯蓄の吸収を通じて賄われたのである。いずれの手段にしても現状では1941年当時ほどには当てになりそうにない。現状の税負担は第二次世界大戦が始まる前の段階と比べるとずっと重く、それゆえ増税を実施するために越えねばならないハードルは1941年当時よりもずっと高い。1942年に施行されたいわゆる「勝利税」(”Victory Tax”)では所得税率が大幅に引き上げられたが、それと同時にアメリカの歴史上で初めて所得税が源泉徴収されることにもなった。所得税率の引き上げはあくまでも一時的な措置という触れ込みだったが、もちろんと言うべきか、その措置(所得税率の引き上げ)は当初の予定をはるかに越えて続けられることになったのであった。話を今に移すと、仮にアメリカがいずれかの国と交戦することになったとしてもアメリカ国民が戦費を賄うために増税に応じる可能性は低いであろう。交戦中の場合でさえそうだとすれば、まさかの有事に備えてとなると国民から増税への同意を取り付けるのはなおさら難しそうだ。

となると、残された頼みの綱は貯蓄(個人貯蓄)ということになる。個人貯蓄は第二次世界大戦の戦費を賄った財源の中でも一番重要な資金源だった。第二次世界大戦中にアメリカ国民はおよそ1860億ドルに上る戦時国債を購入した。1941年から1945年までの連邦政府の歳出総額のおよそ4分の3近くの資金が戦時国債を通じて調達されたわけだ。翻って今はどうかというと、貯蓄は現状でさえも連邦政府の歳出を賄いきれていない。歳出がさらに増えるとなると国内の貯蓄だけでは賄いきれないであろうことは言うまでもなかろう。中国を説得して(現状の1兆ドルの融資に加えて)20兆ドルのうちのかなりの部分を(国債の購入というかたちで)融資してもらえたとしても、その借金をどうやって返済したらいいものだろうか?

ロバート・ヒッグス(Robert Higgs)が詳しく論じているように、第二次世界大戦中には貯蓄が奨励されるのに伴って消費の節約が強いられたわけだが、アメリカ国民は現状においてそのような消費の節約を受け入れるだろうかという点も問題になってくるだろう。

「現状における大規模な財政出動を正当化するために第二次世界大戦を持ち出すのは不適当。その理由とは?」と命名されたフォルダにまた一つ追加っと。

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  1. 予算調書をお調べなされればいかがでしょうか。予算枠を一般予算(会計)だけでなく、NY連銀の与信にともないその借方(金融資産)として通貨発行益が積み上がっている、その取崩があります。それは特別調書(予算)として取り出されている。そこからは政府債務(国債)の元本償還原資も取り充てられていた。コーエン氏は、そこをスルーされている。

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