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タイラー・コーエン 「タイタニック号の沈没事故において一体何が生死を分ける要因となったのか? ~『婦女子を優先せよ!』~」(2009年1月21日)/「海難事故において人の生死を分ける重要な要因、それは船長の行動だ」(2012年8月9日)

●Tyler Cowen, “Who survived the Titanic and why?”(Marginal Revolution, January 21, 2009)


ブルーノ・フライ(Bruno Frey)&デイビッド・サベージ(David Savage)&ベノ・トーグラー(Benno Torgler)の3人がタイタニック号の沈没事故をテーマに興味深い論文を執筆している(“Noblesse Oblige? Determinants of Survival in a Life and Death Situation”)。

予想外の外的なショックが原因で生きるか死ぬかの瀬戸際に追い込まれた時に、一体何が人の生死を分ける要因となるのだろうか? 本稿では、そのような極限的な状況において向社会的な(pro-social)行動が重要な役割を果たすのかどうかに検討を加える。具体的には、生きるか死ぬかの極限的な状況における人々の行動について非常に稀な証拠を提供している準自然実験の一つである「タイタニック号の沈没事故」に焦点を合わせる。本稿で得られた実証的な分析結果によると、生きるか死ぬかの極限的な状況においても、「婦女子(女性と子供)を優先せよ!」(“women and children first”)1との社会規範が守られたようであることが判明した。さらには、女性の中でも出産可能年齢期の女性の生存確率が特に高いとの結果が得られた。それに加えて、情報や資源(例.  救命ボート)へのアクセスの面で有利な立場にあった乗組員たちの生存確率も高いことがわかった。他にも、乗客の等級の違い(一等船客/二等船客/三等船客)、年齢、国籍、複数人で連れ立っての旅だったかどうかも、生死を分ける上で重要な役割を果たしたことが明らかとなった。

著者の一人であるサベージがこちらの記事でもう少しラフな仮説を語っている。

イギリス人の乗客は、救命ボートに乗り込む際に、列を作っておとなしく自分の順番が来るのを待ったが、アメリカ人の乗客は、我先にと他人を押しのけて進んだ。タイタニック号の沈没事故で不釣り合いなほど多くのイギリス人乗客が命を落とした理由はそのためではないかという。

クイーンズランド工科大学で行動経済学を研究するデイビッド・サベージは、生きるか死ぬかの瀬戸際で人々がどのように行動するかを探るために、20世紀に発生した4件の海難事故の分析に乗り出した。そして、生きるか死ぬかの極限的な状況においても、人々は利他的に振る舞ったり社会規範の影響を受ける――「適者生存」のメンタリティが支配的となるわけではない――との結論に辿り着いたという。それに加えて、タイタニック号の沈没事故においては、アメリカ人の乗客は他の国籍の乗客よりも生存確率が8.5%ポイント高い一方で、イギリス人の乗客は他の国籍の乗客よりも生存確率が7%ポイント低いとの結果も得られたという。

サベージは次のように語る。「そのような違いが生まれたのはどうしてなのか? 三等船室に乗り込んでいたアメリカ人乗客がごく少数だったこと。イギリス人乗客は大変礼儀正しくて、救命ボートに乗り込む際も列を作っておとなしく自分の順番が来るのを待った可能性があること。私なりに思い付く理由はこれくらいです」(救命ボートが設置されているデッキに一番近かったのは一等船室であり、三等船室はそこから一番遠かった)。

サベージも認めているように、アメリカ人乗客の行動に関しては直接的な証拠があるわけではないようだ。

情報を寄せてくれたLeonardo Monasterio――本ブログの熱心な読者の一人――に感謝。

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●Tyler Cowen, “More data on survival during maritime disasters”(Marginal Revolution, August 9, 2012)


海難事故において一体何が人の生死を分けるのだろうか? ミカエル・エリンダー(Mikael Elinder)&オスカー・エリクソン(Oscar Erixson)の二人がこの疑問に切り込んでいる(“Gender, social norms, and survival in maritime disasters”;米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された最終稿はこちら)。

タイタニック号の沈没事故の詳細な分析結果が主たる根拠となって、海難事故においては婦女子の命が優先して救われるとの説が流布している。しかしながら、エストニア(MS Estonia)号の沈没事故――第二次世界大戦が終結して以降に北半球で発生した海難事故の中でも被害が最も大きかった事故の一つ――のデータを細かく分析してみると、異なる構図が浮かび上がってくる。バルト海で発生したエストニア号の沈没事故では、137名が無事生還し、852名が死亡した。エストニア号には男性と女性がほぼ同数乗り込んでいたが、生還した男性の数は111名で、生還した女性の数はわずか26名だった。この数字だけからでも「婦女子を優先せよ」との社会規範が守られたのかどうかに疑問符が付くが、海難事故における性別ごとの生還率に関する計量経済学的な分析の結果に照らしても、乗客や乗組員の行動は「婦女子を優先せよ」との社会規範に明らかに反していると言える。タイタニック号の沈没事故も含めて、数々の海難事故において一体何が人の生死を分ける要因となったのだろうか? 船長の行動が重要な鍵を握っているというのが本稿の主張である。船長が「婦女子を優先せよ」と命令を下し、暴力に訴えてでもその命令に従わせるつもりである場合に限って女性が生還する見通しは高まることになるが、それ以外の場合においては女性が生還する見通しは男性よりも低いのである。

  1. 訳注;婦女子を優先的に救命ボートに乗せる []

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