タイラー・コーエン 「ピーター・ナヴァロ ~経済方面における『トランプ大統領』の一番の指南役?~」(2016年8月1日、9月27日)

●Tyler Cowen, “The economist whose ideas guide Trump the most”(Marginal Revolution, August 1, 2016)


「トランプの考えに最も強い影響を及ぼしている経済学者は誰か?」と尋ねられたら、それはピーター・ナヴァロ(Peter Navarro)だというのが私の答えだ。ナヴァロは、カリフォルニア大学アーバイン校に籍を置いている経済学者だ。ブルームバーグに寄稿したばかりのコラムで、彼について掘り下げて論じておいた。その一部を引用しておこう。

トランプは、ナヴァロが書いた [1] … Continue readingだけでなく、彼が製作しているドキュメンタリー映像賞賛している。どちらも中国に批判的な内容だ。二人はこれまでに(2016年8月の段階では)一度も会ったことがないようだが、ナヴァロ本人の説明によると、「トランプ陣営とは、経済、貿易、中国、アジアにおける外交政策といったテーマで密に協力」しているとのことだ。ナヴァロは、今年の3月にトランプを支持する記事を書いていて、トランプの擁護に回っている。アカデミズムの世界にはトランプを支持している経済学者はほとんどいないことを踏まえると、ナヴァロは「トランプ政権」で重要なポストに就く可能性がある有力候補の一人と考えてもよさそうだ。

・・・(略)・・・ナヴァロが中国について書いている他の記事にしてもやはり同じだが、理性的で冷静な分析が加えられているかと思うと、感情的で過激なコメントが火を噴くといった具合に、論調が極端にあちこちに振れて慌ただしい。とは言え、その言わんとするところを要約するなら、次のようになるだろう。アメリカは、中国との通商交渉でタフな(強硬な)姿勢を貫け。中国による知的財産権の侵害を厳しく取り締まれ。中国からの輸入品には高い関税を課せ。中国の重商主義に真っ向から立ち向かえ。アメリカに職を取り戻せ。そして何より、「偉大なアメリカ」を取り戻せ [2] 訳注;「『偉大なアメリカ』を取り戻せ」(“Make America great again”)というのは、トランプ陣営が大統領選挙で掲げたスローガン。。トランプの中国観を知りたければ、ナヴァロがどんなことを書いているかを読むといい。

ブルームバーグに寄稿したコラムでは、他にも色んな話題を取り上げている。ナヴァロの学者としての経歴(シカゴ学派的と呼べる研究、「公共選択論」、「法と経済学」の方面で優れた業績を数多く残している)。資産運用に関する彼独自のアドバイス(眉唾物で誇大広告なところがある)。中国に対する共和党の姿勢を一変させる――親中派が優勢だった党から、反中派(中国懐疑派)が優勢な党へと様変わりさせる――上で彼が果たした役割等々。ナヴァロという名前を耳にしても、今のところは世間では「誰それ?」状態だが、「トランプ政権」が誕生した暁には、ナヴァロが経済方面で指導的なポジション(役職)の一つに就くだろうことは容易に想像できる。「トランプ政権」が誕生する未来がもしかしたらやってくるかもしれない――30%くらいの確率でやってくるかもしれない――のだから、それに備えて全文に目を通していただけたら幸いだ。

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●Tyler Cowen, “Peter Navarro outlines the Trump economic plan”(Marginal Revolution, September 27, 2016)


トランプ陣営の経済政策プランの輪郭が示された。執筆者の一人は、ピーター・ナヴァロだ。

貿易赤字の削減に伴ってどれくらいの便益が生まれるかを見積もるためには、複雑なコンピュータモデルに頼る必要はない。貿易赤字が削減されたとしたら、税収がどれだけ増えて、設備投資がどれだけ増えるかを単に足し合わせるだけでいいのだ。ただし、以下の試算では、貿易赤字の削減によって生まれる便益のすべてが考慮されているわけではない。貿易赤字の削減が(企業が手にする)利潤と(労働者が手にする)賃金に及ぼす効果だけが考慮されていて、景気が刺激されることで生じるその他のプラス効果は考慮に入れていない。

トランプは、「輸出の増加」と「輸入の削減」の組み合わせを通じて、5000億ドルに上る貿易赤字を帳消しにすることを提案している。労働者が受け取る賃金所得が名目GDPに占める割合(労働分配率)が44%という前提で話を進めると、貿易赤字が5000億ドル分削減されたら [3] 訳注;貿易赤字が5000億ドル分削減されると、名目GDPが同じ額だけ(=5000億ドル)増えると想定されている。、賃金所得が2200億ドル(=5000億ドル×0.44)増える計算になる。賃金所得に課せられる実効税率が28%だとすると、税収が616億ドル(=2200億ドル×0.28)増える計算になる。

さらには、利益率が低めに見積もって15%だと仮定すると、貿易赤字が5000億ドル分削減されたら、企業部門が手にする税引き前の利益(利潤)は750億ドル(=5000億ドル×0.15)増える計算になる。トランプの提案通りに法人税率が(現行の35%から)15%へと引き下げられるようなら、税引き前の利益(利潤)が750億ドル増えるのに伴って、法人税収が112億5千万ドル(=750億ドル×0.15)増える計算になる。

ゴシック体による強調は、私が加えたものだ。

全文はこちら(pdf)。ナヴァロの経歴については、ブルームバーグに寄稿したコラムで取り上げたことがある。情報を寄せてくれた(ニューヨーク・タイムズ紙の敏腕記者である)ビンヤミン・アッペルバウム(Binyamin Appelbaum)に感謝。

(追記)スコット・サムナーが批判を加えている。あわせて参照されたい。

References

References
1 訳注;リンク先の本の邦訳は、つい先日刊行されたばかり。ナヴァロは同様のテーマで他にも何冊か物していて、そのうちの一冊は邦訳されているようだ。
2 訳注;「『偉大なアメリカ』を取り戻せ」(“Make America great again”)というのは、トランプ陣営が大統領選挙で掲げたスローガン。
3 訳注;貿易赤字が5000億ドル分削減されると、名目GDPが同じ額だけ(=5000億ドル)増えると想定されている。
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