タイラー・コーエン 「経済学者 vs. 徴兵制」(2004年10月13日)/「ウォルター・オイの貢献を駆け足で振り返る」(2013年12月26日)

●Tyler Cowen, “The man who killed the draft”(Marginal Revolution, October 13, 2004)/“Walter Oi has passed away”(Marginal Revolution, December 26, 2013)


(アメリカにおいて)徴兵制の廃止を後押しした経済学者としてはミルトン・フリードマンが有名だが、フリードマン以上に重要な役割を演じたと思われる経済学者が他にいることをご存知だろうか? その人物とは、ウィリアム・メックリング(William Meckling)。詳しくは、デイヴィッド・ヘンダーソン(David Henderson)の論説(“Thank You, William H. Meckling(pdf)”)を参照してもらいたいが [1] … Continue reading、メックリングと言えば、マイケル・ジェンセン(Michael Jensen)との共同研究を通じて、負債と自己資本(株式)との間の最適資本構成(最適な資金調達の方法)の問題に重要な貢献を果たした [2]訳注;例えば、次の論文がそれ。 ●Michael C. Jensen and William H. Meckling(1976), “Theory of the Firm: Managerial Behavior, Agency Costs and Ownership Structure”(Journal of … Continue readingことでも有名だ。

ヘンダーソンの論説の一部を以下に引用しておこう。

徴兵制が1973年以降も続いていたとしたら、多くの人は今ほど財を成すことはできていなかったことだろう。例えば、ビル・ゲイツのケースを考えてみるといい。彼は、1975年にハーバード大学を中退してマイクロソフト社を立ち上げたわけだが、徴兵の声が掛かる可能性が最も高いのは、彼のように大学を中退した若者たちだ。コンピュータープログラマーをはじめとしたIT分野のプロたちは、若い頃に最高の仕事を残す傾向にあるが、彼らの中には、高収入でやりがいのある仕事に魅力を感じて大学を中退したというケースが多い。しかしながら、徴兵制が続いていたとしたら、そのような道 [3] 訳注;大学を中退して、すぐにIT関連の仕事に就くという選択肢 は閉ざされていたことだろう。

「近頃の20歳そこらの若者たちは起業家精神が旺盛だが、それはどうしてなのだろう?」と不思議がる声をたまに耳にするが、その理由の一つは、徴兵のことで頭を悩ますこともなく青春を過ごすことができるからに違いないと思われるのだ。

ヘンダーソンの論説を教えてくれたブライアン・カプラン(Bryan Caplan)に感謝。

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つい先日(2013年12月24日)のことだが、経済学者のウォルター・オイ(Walter Oi)が亡くなった。オイの詳しい功績については、デイヴィッド・ヘンダーソン(David Henderson)と、スティーブン・ランズバーグ(Steven Landsburg)のエントリーを参照されたい。

オイは、ロチェスター大学の経済学部を支える大黒柱のような存在だった。アメリカで徴兵制が廃止される上で彼が果たした貢献 [4] … Continue readingは決して無視できない。二部料金制の経済分析についての論文 [5] 訳注;“A Disneyland Dilemma: Two-Part Tariffs for a Mickey Mouse Monopoly”(pdf)は言うまでもなく、労働の「固定的な生産要素」としての側面が(景気変動に伴う)雇用の短期的な変動に対してどのような意味合いを持っているかを分析した論文 [6] 訳注;“Labor as a Quasi-Fixed Factor”(pdf) もまた、彼の偉大な功績だ。盲目というハンデを背負いながらも、華々しいまでのキャリアを残した事実も特筆すべきだろう。Google Scholarでのオイについての検索結果は、こちらを参照されたい。

References

References
1 訳注;アメリカで徴兵制が廃止されたのは、リチャード・ニクソンが大統領を務めていた1973年。ニクソンは、大統領選挙期間中から徴兵制の廃止(志願制への移行)を訴えており、徴兵制の廃止の是非を検討する調査委員会(President’s Commission on an All-Volunteer Force)を大統領就任直後に設置している。この委員会は、15名のメンバーから構成されていたが(その中には、ミルトン・フリードマンやアラン・グリーンスパンらも含まれていた)、当初のうちは徴兵制を廃止すべきかどうかを巡ってメンバーの間で意見はバラバラに割れていた。しかし、最終的に報告書が取り纏められる頃には、15名のメンバー全員が徴兵制の廃止に賛成の立場をとるようになっていたが(ちなみに、その報告書はこちら(pdf))、そのようにメンバー全員の意見を一致させる上で大きな役割を果たしたのが、この委員会のエグゼクティブ・ディレクターを務めていたメックリングであったとされている。詳しくは、本文中で言及されているヘンダーソンの論説と、次の論文を参照されたい。 ●David R. Henderson, “The Role of Economists in Ending the Draft
2 訳注;例えば、次の論文がそれ。 ●Michael C. Jensen and William H. Meckling(1976), “Theory of the Firm: Managerial Behavior, Agency Costs and Ownership Structure”(Journal of Financial Economics, Vol.3, No.4, pp.305–360). この論文は、企業を「契約の束」として捉えるエージェンシー理論のはしりとして知られているが、その応用の一つとして、エージェンシー・コストの概念に基づいて(最適資本構成に関する)モジリアーニ=ミラー定理に修正が加えられている。
3 訳注;大学を中退して、すぐにIT関連の仕事に就くという選択肢
4 訳注;ヘンダーソンのエントリーの中から、関連する箇所を以下に訳しておく。「徴兵制ならびに徴兵制廃止の問題を、経済学的・実証的な観点から分析した最初の試みの一つは、ウォルター・オイによってなされた(Oi 1967a, 1967b)。オイは、『The Draft: A Handbook of Facts and Alternatives』の中に収録された論文(Oi 1967b)の中で、兵隊の募集に伴うコストを、政府予算上のコストと経済的なコスト(economic cost)の2通りに分けて区別している。兵隊を強制的に徴発できる場合――すなわち、徴兵制を採用している場合――には、政府予算上のコストはそうではない場合(志願制)よりも低く抑えられることになるが(訳者注;志願制の場合だと、それなりに高い給与を支払わないと必要な人員が集まらない可能性があるが、徴兵制の場合だと、強制的に徴発できるため給与を低く抑えることができる)、徴兵制には隠れたコスト(=経済的なコスト)が存在するとオイは指摘する。そのコストとは、仕方なく徴兵に応じた人々が被る精神的な苦痛である。オイは、当時からすると高度に洗練された手法を用いて、精神的な苦痛に伴うコストの推計を試みている。その推計結果によると、コストの大きさは、8億2600万ドル~11億3400万ドルに達すると結論付けられている。この数値は、一見するとそれほど高くはないように感じられるかもしれないが、この推計が行われたのは1960年代半ばのことである。2005年時点の貨幣価値に換算すると、48億ドル~66億ドルに値するのだ。」
5 訳注;“A Disneyland Dilemma: Two-Part Tariffs for a Mickey Mouse Monopoly”(pdf)
6 訳注;“Labor as a Quasi-Fixed Factor”(pdf)
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