タイラー・コーエン 「羊肉のバーベキューの起源」(2010年4月27日)

●Tyler Cowen, “The origins of mutton barbecue”(Marginal Revolution, April 27, 2010)


まずは、こちらの説明からご覧いただこう。

身近にあった肉を使ったというのが、バーべキューをめぐる真実の一つということになりそうだ。テキサスで身近にあったのは、牛肉。カロライナで身近にあったのは、豚肉。そして、ウェスタンケンタッキー(ケンタッキー州西部)で身近にあったのは、羊肉だった。1816年の関税法のおかげで [1] 訳注;輸入されてくる羊毛に関税がかけられるようになった結果として、アメリカ国内でとれる羊毛の価格競争力が高まった、という意味。羊毛が儲けを生むようになり、当時のアメリカ西部で突如として大量の羊がそこら中に溢れる結果になったのである。

バーベキューの起源に関するどんな説でも、あまりに固くて噛み切れないせいで売り物にならない肉のエピソードがついてまわる。羊肉のバーベキューの起源にしても例外ではない。良質の羊毛の供給源としての役割を終えた年老いた羊も、その肉に着目するなら無尽蔵の資源である。しかしながら、羊の肉は、固い上に臭みが強くて、そのままでは無価値だ。そこで、その有効性が実証されている調理法が試された。低温でのスロークッキングである。羊丸々一頭を長い時間をかけて弱火で丸焼きにする。焼けた表面に塩水を塗る。そして、酢と唐辛子が原料のディップソースに絡めて、パンに挟んで食べるというのが当初の定番だった。酢と唐辛子が原料のディップソースは、ケンタッキーでは「ディップ」という呼び名で通用している。あるいは、「マトン・ディップ」とも、「ビネガー・ディップ」とも呼ばれている。

「バーべキューの起源に関する保護主義理論」(+「履歴効果」をいくらか加えるか差し引くかするといい)とでも呼べるだろう。私が見たり聞いたりしたことがある範囲で言うと、バーべキューで羊の肉を焼いているのは、ケンタッキー州ぐらい――それも、ケンタッキー州ならどこでもというわけではなく、ケンタッキー州の南西部やレキシントンの一部ぐらい――のはずだ。北アフリカとか中東とかでもバーベキューで羊の肉が焼かれてたりするのだろうか? ともあれ、一風変わったバーベキューの慣行が特定の地域だけで長らく続いているのはなぜなのかという疑問は未解決のままと言えそうだ。

次に、ニューヨーカーの記事をご覧いただこう。先程とは別の説明が加えられている。

「このあたりでしか羊肉のバーべキューにお目にかかれないのは、どうしてなんでしょうか?」 (ケンタッキー州にある)オーエンズボロで商店を営んでいる親切な店主――コインパーキングに車を停めるために硬貨が必要になって、両替をお願いしたら親切にもそれに応じてくれたのだ――にふと尋ねてみると、次のような答えが返ってきた.

「このあたりにはカトリック教徒がたくさんいるからじゃないでしょうかね」。

無知な奴だと思われたくなかったので、「なるほど。やはりそう思われますか」と応じておいた。

ローマカトリックの儀式と、羊肉を食べること。その二つの間に何かつながりでもあったろうかと記憶を辿っていると、その店主が説明を続けてくれた。この町には大きなカトリック教会があって、大勢が参加するピクニックを昔から取り仕切っているという。そのピクニックでは、バーベキューとバーグー――バーグーというのは、オーエンズボロにあるバーベキューレストランで食べられる郷土料理で、シチューの一種だ。私なりにちょっとした理由があって、バーグーは南イリノイとつながりがある料理とずっと思い込んでいた――が振る舞われるのが恒例になっているという。ピクニックが行われるようになってからまだ間もない頃は、バーベキューで焼かれていたのはヤギの肉だったようだ。消去法を繰り返して、最終的に辿り着いたのが羊肉というのが真相なのかもしれない。というのも、オーエンズボロの住人たちにとっては、バーベキューで焼く肉は哺乳類の肉であれば何だっていいみたいだからだ。ウェスタンケンタッキーにあるバーベキューレストランでは、「オーダーメイド料理」を提供しているのが普通だ。自宅にバーベキュー・ピット(バーベキュー用のかまど)がない客が肉を持参してくれば、店でそれを焼いてくれるのだ。(ケンタッキー州西部にあるヘンダーソン市で店を構えているバーベキューレストランの)Posh & Pat’s では、アライグマの肉も焼いてくれる。オーエンズボロで最も名の知れたバーベキューレストランの一つである Shady Rest では、次のような言葉が額に入れて飾られている。「バーベキュー・ピットに収まるなら、何でも焼きます」。オーエンズボロの住人たちにとって、最終的に辿り着いたご当地グルメが羊肉のバーベキューだったのは幸運だったと言えるかもしれない。というのも、かつてこの地ではビーバーやシマスカンクも食されていたのだから。

言い換えると、「理由はわからない」ということだ。ロビン・ハンソンなら、「料理の本質は、食べることにはない」とでも言うだろうか?

情報を寄せてくれた Brandon Sheridan に感謝。

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1 訳注;輸入されてくる羊毛に関税がかけられるようになった結果として、アメリカ国内でとれる羊毛の価格競争力が高まった、という意味。
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