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トルスロヴ,ウィアー,ザックマン「失われし諸国民の利益」

Thomas Tørsløv, Ludvig Wier, Gabriel Zucman “The missing profits of nationsVOX.EU, July 23, 2018

1985年から2018年にかけ,法定法人税率の世界平均は半分以上も低下した。本稿では,新たなマクロ経済データを用い,利益移転がこの低下の主要な原動力であることを示す。2015年には,40%近くの多国間での利益が人為的にタックスヘイブンに移転され,この膨大な租税回避,そしてその抑制の失敗によってますます多くの国々が多国籍企業に対する課税を諦めることにつながっている。


過去数十年間での世界中の租税政策におけるもっとも際立った変化は,おそらく法人税率の低下だろう。1985年から2018年にかけ,法定法人税率の世界平均は49%から24%へと半分以上も低下した。

なぜ法人税率は低下しているのだろうか。標準的な説明は,グローバル化によって生産的資本を巡る各国の競争が激化しているというものだ。自国の税率を切り下げることで,各国はより多くの機械,工場,設備を呼び込むことができ,これにより労働者はより生産的になり,彼らの賃金も上昇する。この理論は政策決定者の間でとりわけ人気が高く,租税政策に関する多くの議論に浸透している。一例を挙げれば,法人税率を35%から21%に切り下げるという2018年のアメリカの決定がそれだ(e.g. Council of Economic Advisors 2017)。

しかしこれには十分な実証的基礎があるのだろうか。今日の巨大多国籍企業は,多くの実物資本を税率の低い場所へ移しているようには見えないどころか,そもそも多くの実物資本を持ち合わせてすらいない。その代わり,彼らは会計上の利益を移転することで租税回避を行っている。例えば2016年,Google Alphabetはバミューダ諸島で192億ドルの利益を上げたが,大西洋に浮かぶこの小さな島に同社に雇用されている労働者や同社の所有する実物資産はほとんどなく,この島の法人税は0%だ。

世界のどこで利益が計上されているかを地図化

最近の論文(Tørsløv et al. 2018)で,私たちは利益移転が法人所得税の低下の主要な原動力であると主張している。私たちの推計では,2015年には40%近くの多国間利益が人為的にタックスヘイブンへ移転された。この膨大な租税回避,そしてその抑制の失敗こそがますます多くの国々が多国籍企業に対する課税を諦めることにつながっている。法人税率の低下は高税率の国々における誤った政策の結果であり,グローバル化の必然的な副作用ではないのだ。

40%の多国間利益がタックスヘイブンに移転されているという私たちの推計は,外資子会社統計(foreign affiliates statistics)と呼ばれる新たなマクロ経済データに基づいている。こうした統計は,国外の多国籍企業の子会社が支払った賃金やそうした子会社が得た利益の量を記録している。つまり,これにより国民経済計算(企業によって支払われた賃金,企業の営業利益等)を「自国企業」と「外資企業」に分解できる。私たちはこうした統計を参照し,各国における利益を自国企業と外資企業に分けたデータベースを作り上げた。これにより,世界のどこで利益が計上されているかを示す初の包括的地図ができた。

このデータベースを用い,私たちはある単純なマクロ統計の構築・分析を行った。すなわち,課税前企業利益と賃金の比率だ。私たちの論文で開発された新たなデータのおかげで,各国におけるこの比率を外資企業と自国企業に分けて計算することができる。私たちの調査によって,驚くべき結果が明らかになった。

非タックスヘイブン国では,外資企業は自国企業と比べて一貫して利益率が低い。タックスヘイブンではそれと対照的に,外資企業は一貫して利益率が高い。それも圧倒的なほどに(図1)。


図1:課税前企業利益(対従業員報酬%比)

賃金に対する課税対象利益の比率は,自国企業ではたいてい30%~40%程度であるのに対し,タックスヘイブンに所在する外資企業ではこの比率は桁外れに大きく,アイルランドでは800%にもなる。これに伴い,企業付加価値における資本比率も80%~90%になっている(自国企業では25%程度)。

こうした高い利益率を理解するため,私たちは実物効果(タックスヘイブン所在の外資企業が用いたより生産的な資本)と移転効果(通常を上回る資本収益と受取利子)に分解を行った。その結果は,タックスヘイブンにおける高い利益・賃金比率は,大部分が移転効果で説明されることを示している。

全体として見た場合,自身の親会社が所在する国の外にある多国籍企業が生んだ利益と定義されるところの多国間利益は,2015年にはその40%近くがタックスヘイブンに移転されていることを私たちは発見した。私たちの研究は,タックスヘイブンがどれだけの利益を引き寄せ,どれだけ税収をあげ,どれだけほかの国が失っているかを政策決定者が追跡するための,透明性がありかつ簡単に計算できる手法を提供するものだ。今後定期的にオンラインで更新するこれらの統計は,租税回避を減少させるために実施される政策の効果を把握するために用いることができる。

さらに私たちは,タックスヘイブンで計上された利益について,それが最初に生み出された国を調べた。これはつまり世界に利益移転というものがなければ課税されていたであろうものだ。これにより,世界中の政府に対して利益移転がもたらしている費用の初となる包括的な見取図が得られる。私たちは,EU加盟国や先進国の政府が資本移転による損失を最も大きく被っていることを見出した。多国籍企業による租税回避により,EUの法人税収は約20%低下している。

利益移転を行っている企業の本社所在地を見てみると,アメリカに本拠を置く多国籍企業はその他の国に本拠を置く多国籍企業と比べてより多くの利益を移転していることが分かる。これは2018年以前のアメリカの租税法にあった特定のインセンティブや1990年代に実施されたアメリカの財政政策により,こうした移転が円滑化されていたことによって説明できる(Wright and Zucman 2018).。

非タックスヘイブン国がお互いの税収を盗みあう一方で,タックスヘイブンは春を謳歌する

これほど大きな税収減に直面しているにも関わらず,ヨーロッパ各国やその他の先進国,そしてその他世界中の国はなぜ自身の課税ベースを保護することができないのだろうか。私たちは,高税率の国々の財政当局にはタックスヘイブンへの移転と戦うためのインセンティブはなく,その代わりに多国籍企業がほかの高税率国で計上する利益を自国に移転させることに自身の法執行努力を集中させるインセンティブがあることを理論的に示す。

自国以外の高税率国で計上される利益を追跡することは,実施可能であり(情報が存在する),安価であり(世界全体で支払う税額には影響がないため,多国籍企業からの抵抗はほとんどない),速い(高税率国の間では速やかに紛争解決を行う枠組が存在する)。この種の法執行は,タックスヘイブンに対する法執行をクラウドアウトしてしまう。タックスヘイブンに対する法執行は,難しく(データがほとんどない),高くつき(多国籍企業は低税率国への移転を擁護するために多大なリソースを費やす),長期化する(タックスヘイブン側の協力の欠如のせい)。

この理論と整合するように,租税当局間の税に関する紛争についての私たちのデータ分析は,高税率国の法執行努力の圧倒的大部分は他の高税率国に向けられていることを示している。実際のところ,非タックスヘイブン国がお互いの税収を盗みあう一方で,タックスヘイブンは春を謳歌しているのだ。

この政策の失敗は,タックスヘイブン側のインセンティブによって強化されている。タックスヘイブンが引き寄せる多額の利益に薄く課税することで,タックスヘイブンは高税率であるアメリカやヨーロッパの非タックスヘイブン国よりも,より多くの税収を自身の国民所得の一部として生み出すことができている。タックスヘイブンによるこの税収最大化低税率は,特定の多国籍企業に与えられている優遇税制等,研究によっても報告されている租税回避スキームの供給増や,それによる1980年代以降の利益移転の増加を説明するものだ。

私たちの発見は,経済統計にとっての含意ももたらす。すなわち,この発見により,GDP,企業利益,貿易収支,企業の労働資本比率などの主要な経済指標は,大きく歪んでいることが示される。タックスヘイブンに計上される高利益の裏には,非タックスへイブン国で計上される産出,純輸出,利益が低すぎるという負の側面があるのだ。私たちは,全OECD加盟国及び主要な新興国について修正したマクロ統計データベースを提供している。

高税率国から移転された利益を戻すと,企業の資本比率は大きく増加する。私たちの推計では,1990年代前半以降のヨーロッパ企業の資本比率の増加は,公式な国民計算データによるものの2倍に達する。この発見は,変化しつつある技術と格差の性質に関する現在の議論にとって重要な含意をもつ(e.g. Piketty and Zucman 20141 , Karabarbounis and Neiman 2014)。私たちの研究は,経済統計や世界的な経済活動の監視を向上させるための具体的な提案を提供している。

参考文献
●Council of Economic Advisors (2017), “The Growth Effects of Corporate Tax Reforms and Implications for Wages”
●Karabarbounis, L and B Neiman (2014), “The Global Decline of the Labor Share”, Quarterly Journal of Economics 129(1): 61-103.
●Piketty, T and G Zucman (2014), “Capital is Back: Wealth-Income Ratios in Rich Countries 1700-2010”, Quarterly Journal of Economics 129(3): 1255-1310.
●Tørsløv, T, L Wier, and G Zucman (2018), “The Missing Profits of Nations”, NBER Working Paper 24701.
●Wright, T, and G Zucman (2018), “The Exorbitant Tax Privilege”, working paper.

  1. 訳注;Piketty and Zucman 2014の概要は拙訳を参照。 []

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