ニック・ロウ「中銀に弾切れなし:農地の価格政策としての金融政策」(2019年8月23日)

[Nick Rowe, “On not “running out of ammo”: Monetary Policy as Farmland Price Policy,” Worthwhile Canadian Initiative, August 23, 2019]

〔それまで金本位制をとっていた〕とある国の中央銀行が農地の価格を決めて固定した場合を想像してみよう.中央銀行は,「これから1ヘクタールあたり1万ドルで無制限に農地を売買します」と宣言する.すると,「1ドル」は何オンスかの金(ゴールド)を意味しなくなる.1ドルが意味するのは,「1平方メートルの農地」を意味する.

こうして中央銀行は農地を所有するようになり,農家に市場価格で農地を貸し出しはじめる.中央銀行はその貸し出し料金を使って紙とインク代や経済学者の給料を支払い,残りを中央銀行を所有する政府に与える.

あるいは,中央銀行は農地の価格に順次引き上げ制度(クローリング・ペッグ; 小幅変動制)を使ってもいい.その場合,(たとえば)毎年2パーセントずつ,農地は価格上昇していくようにする.

この中央銀行の政策は,金利に影響するだろう.農地が(たとえば)1パーセントの貸し出し利益を生むと予想され,さらに2パーセントずつ価格が上昇していくのであれば,土地は合計で3パーセントの名目利益を生み出す.すると,貸し手はお金を貸すことで稼げる金利と,かわりに土地を買うことで稼げると期待できる3パーセントを比較する.農地価格の順次引き上げを2パーセントではなく3パーセントに設定すると,土地から得られる名目の利益率は3パーセントから4パーセントに上がる(貸し出し利益が同じままだと仮定した場合).そして,名目の金利も上がる.でも,ここで中央銀行はどんな市場金利も設定しない.

あるいは,中央銀行は調整可能な順次引き上げ制度を使ってもいい.消費者物価指数のインフレ率があまりに低すぎて,これをもっと高くしたいと中央銀行が望むなら,土地価格のインフレ率を上げればいい.消費者物価指数のインフレ率が高すぎて,これを低くしたいと中央銀行がのぞむなら,土地価格インフレ率を下げればいい.ちょうどアーヴィン・フィッシャーの Compensated Dollar Plan のように,金(ゴールド)のかわりに土地を使うだけのことだ.

この中央銀行は「弾切れ」になってインフレをつくりだせなくなるだろうか? 金利を設定する中央銀行に課せられると言われる金利のゼロ下限制約に相当するものはなにかあるだろうか?

ない.

なるほど,中央銀行が買える土地がなくなってしまうことはありうる.どんな農地を所有するよりも通貨を所有する方をみんなが好んだならそうなる.でも,その場合には,従来よりも急速に価格を上げる新しい順次引き上げ制度を宣言すればいい.そうすれば,農地の価格はもっと急速に上がっていくので,みんなは通貨よりも土地の方を所有したがるようになる.

さらに,農地に設定された任意の順次引き上げ制度でそういう事態になるリスクを中央銀行は減らせる.それには,他の資産も買えばいい.そうすれば,人々の手にある農地に対する人々の手にある通貨の量の比が高まる.ただ,購入に適した資産が尽きてしまったときの最終手段としては,中央銀行はたんに順次引き上げ制度の価格上昇をもっと急速にすればいい.

価格上昇をもっと急速にして金融政策を緩和すると,土地所有から得られる名目の利益率は上がる.すると,名目の金利も上がる.名目金利が低すぎるということは,金融政策が引き締めすぎているということだ.

中央銀行は(紙とインクが尽きないかぎり)インフレを引き起こすのに「弾切れ」を起こすことがありえない.中央銀行が「弾切れ」になりうるという発想は,金融政策を金利政策だと考える異端のネオヴィクセル派からくる誤謬だ.

インフレを引き起こすのに,あやしげな財政政策なんて必要ない.

もちろん,農地と一口に言っても均質ではなくさまざまな農地があるわけで,こういう政策を本当に実施するとなれば,あれこれの難問は出てくる.だからなんだっての.これは,金融政策がどう機能するかを示すためだけの思考実験だ.農地価格の指標でも順次引き上げ制度でも株式市場の総利益率でも使えばいい.金融政策は,金利政策ではない.

利益相反の開示:ぼくは農地を少しばかり所有してる.

追記: 明日からカヌー乗りに出かける.コメントへの対応は遅くなるかも.

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