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ノア・スミス「どうしてみんな政府の赤字を心配してるの?」(2021年10月8日)

[Noah Smith, “Why do people worry about deficits?” Noahpinion, October 8, 2021]

もっともな理由から馬鹿げた理由まで,一覧にまとめてみよう

▲ 赤い線はアメリカにおける家計債務の対 GDP 比,青い線は公的債務総額の対 GDP 比を表す.


バイデンがインフラを倍々ゲームで強化してお古にバイバイする法案をめぐって…

…いや,ごめん.どうしてもがまんしきれなくて.『ブルームバーグ』でぐだぐだと頭韻をやると決まって編集者に削除されちゃうんだけど,こっちだったら好きなだけ言葉遊びに興じられるんだよね.だって,ここではぼくが王様だし!! ブヘヘ.

…ともあれ.バイデンの 3.5兆ドル歳出計画の 財政調整措置をめぐる交渉が長引くなかで,アメリカ人はふたたび財政赤字を心配しはじめている.大きな支出計画が出てきたり減税が提案されたりすると,決まって赤字の心配がはじまる.でも,政府が提案してるのが民主党の案だと,〔共和党からの反発はいっそう強くなるので〕「財政面でウソ偽りなく問題ないのか」という叫びがなおのこと強くなる.たとえば,いま Twitter ではこんな感じの声があふれかえっている:

(1) 債務は *うずたかく* 積み上がってる
(2) もう債務上限に達している
(3) ここで責任ある行動とは,支出を削減して債務を多少なりと返済することだろう.ところが,議員の多くは債務上限を引き上げて *さらに* 支出したがっている.

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アメリカの金融システムを動かしてる連中は,文字どおり,プラチナ硬貨の刻印を「1ドル」から「1兆ドル」に変更すれば貨幣不足が解決されると信じている.

自分の学資ローンでそんなことをしたらどうなるか,想像してみてよ.

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こうした意見は,荒野でひとり叫んでいる人たちにかぎられない.多くの世論調査で,政府の債務と赤字を一番の懸念事項に挙げる人たちが,アメリカ人のかなりの割合を占めている.なにより目を見張るのが,この4月のピュー調査だ.この世論調査では,連邦政府の赤字が医療コストに次ぐ重要度2位につけている:

▼ 「医療費が手頃かどうかが,いまアメリカでの重大問題だとアメリカ人の大多数が回答」

ギャラップのロングレンジ調査を見ると,財政赤字を心配しているアメリカ人の割合はオバマ大統領時代よりも少しだけ減っているものの,心配していない人たちに比べてまだまだずっと多い.

そうなると,当然,こんな疑問が浮かぶ:「なんで?」 政府がお金を借り入れるのをこんなに大勢のアメリカ人が心配してるのは,なんでだろう? 安直な答えは,これだ――「だって,赤字は心配するものだとメディアがアメリカ人に言ってるから.」 なるほど,ピュー世論調査で列挙されてる事項のほぼ全部を回答者が心配だと答えてることと,その考えは合致するし,他の世論調査で挙げられてる事項の大半に回答者が「心配」と回答してることとも合致する.でも,それでも説明されずに残る部分がある.そうやって調査やメディアに聞かされたいろんな問題のなかで,財政赤字の方をより強くアメリカ人が心配してる理由は,なんだろう.アメリカ人の頭のなかで,他でもなく財政赤字がとりわけ大きく映ってるのは,どうしてだろう?

かくいうぼくも,答えはわからない.インフレとちがって,アメリカ人が赤字を好まない理由を深く検討してるすぐれた調査研究は見つけられない.それに,歴史をふりかえっても,明白な答えは見つからない――70年代のインフレは実質賃金の低下と対応していたけれど,赤字支出が大きくなっていた時期は,経済がかなり好調だった時期と重なってることが多い傾向がある(いつでも重なってるわけじゃないけど).たとえば,80年代や,00年代序盤や,10年代後半が,両者の重なってる時期だ.これまでに,財政赤字が明々白々な困難にぼくらをたたき込んだことはない.じゃあ,どうしていま財政赤字をアメリカ人がこんなに心配してるんだろう?

考えうる説明を4とおり示そう.いちばん好意的に解釈した説明から,いちばん好意的じゃない説明まで,順に述べる.

第一の説: みんなは債務不履行および/あるいはハイパーインフレを心配してる

ひとつの説として,「みんなが財政赤字を心配してるのにはもっともな理由がある」ってことが考えうる.政府の債務が問題だなんて考えてる人のことを好んでコケにしたがる人たちはたくさんいる.でも,政府債務が問題かもしれない可能性は,たしかにあるんだよ.

実のところ,その可能性がどれくらいなのかほんとに知ってる人はひとりもいない.この1月に,その理由を解説した記事を書いておいた.もしも政府が指数関数的にどんどんお金を借り入れ続けていったなら,どこかの時点で市場は政府債務〔国債〕の購入をやめるかもしれない.市場が購入しなくなったら,政府は (A) 債務不履行に追い込まれるか,あるいは,(B) FRB に将来の政府の借り入れをまかなってもらわないといけなくなる.もし FRB が借り入れ金を調達したなら,ハイパーインフレの可能性がありうる――その経済的な破局はすさまじいから,おそらくそれよりは債務不履行の方がマシだろう.

で,問題はこれだ――FRB がどこまで政府の借り入れをまかなっていったらハイパーインフレになるのか,誰も知らない.もう1兆ドルでそうなるのかもしれないし,あと100兆ドルでそうなるのかもしれない.以前の記事で書いたように:

ハイパーインフレが起こるには,企業が急速に〔自社製品・サービスの〕価格を引き上げはじめなくてはいけない.そして,いつ企業がそうするのか,ぼくらにはわかっていない.なぜなら,この点で企業がどうふるまうのかについて,ほんのわずかしかわかっていないからだ(この点については後ほど).おそらく,どこかの時点で,企業は政府支出ぶりを見て「クソァ,ドルの値打ちがゼロになっちまいそうだ」ってなり,それから,頭がおかしくなったかのように自社の〔製品・サービスの〕価格を引き上げはじめる.ドルの値打ちがいまよりずっと下がると考えるからだ.でも,「おそらく,どこかの時点で」と言うけど,それって「いつのことやらわかりません」ってのを穏やかに言い換えた言葉なんだよね.(…)

さて,政府が FRB からどんどんお金を借り入れて〔国債を引き受けてもらって〕どんどんお金を支出するとき,ぼくらの国は,まるで目に見えない落とし穴に向かって無限の回廊を歩いて行ってるような感じになる.落とし穴が目の前のどこかにあるのはわかってる.でも,どれくらい歩みを進めば落とし穴に落っこちるのか,ぜんぜんわからない.

でも,いざほんとに落っこちちゃったら… その落とし穴ってのはずいぶんなシロモノだ.

つまり,アメリカ人は,財政赤字賛成の評論家たちよりも賢いのかもしれない.どういうわけか,ハイパーインフレの落とし穴はそれほど遠く離れたところにあるわけじゃないとみんなは気づいているのかもしれない.一方,経済学者たちはどうかというと,その落とし穴がそのへんにあると総じて考えてる

▼ 「問い A: 自国通貨で借り入れている国々は,いつでも貨幣創出によって債務をまかなえるので,政府の赤字について心配すべきでない」――2枚のグラフのいずれも,左から「強く同意」「同意」「わからない」「反対」「強く反対」「意見なし」「回答しない」の割合を示している.右側のグラフは,回答した専門家個々人の自信で重み付けがされている.(参照されている IGM 専門家パネルはこちら

というわけで,政府がどれくらいなら安全に借り入れられるのか,人々はなにごとかを知っているかもしれないって可能性を許容する程度には,人々を信用すべきだとぼくは考えてる.

第二の説: 政府の資金調達についてみんなが誤解してる

どれくらいの債務なら多過ぎなのか人民が理解しているのであれば,それは一種の「群衆の知恵」にちがいない.なぜなら,連邦政府の借り入れについて人々がどう語っているか――さっきのツイートみたいに――見るにつけ,まったくわかっているようには思えないからだ.「もう国はお金がない」だの,「もうアメリカは破産だ」だの,そう言い切る発言はありふれている.もちろん,実際には連邦政府の債務の仕組みはそんな風になってはいない.

なかには,単純で馬鹿げた間違いを言う人たちもいる.たとえば,債務上限は借り入れのなんらかの物理的な限度に該当するのだと思っている人たちがいる(債務上限とは,連邦政府が抱えられる債務の規模を定める法的ルールだ).他方で,多くの人たちはそれよりももっと自然で理屈の通った間違いをしている――そうした人たちは,連邦政府が家計や企業と似たようなものだと直観的に考えている.家計や企業と同じように,お金が底を突いてしまうことがあるんだと思ってる.

実は,これが事実じゃない深くて重要な理由が2つある.家計も企業も,お金を創り出して債務を返済できない.仮にぼくが「ノアコイン」なんて暗号通貨を新しくつくって,病院の窓口で「支払いをノアコインでお願いします」なんて言い出したとしても,受付の人はただ一笑に付して,「いいからドルで払って」と言ってくるだけだ.ところが,連邦政府はちがう.国債をもってる人たちに向かって,「じゃあ,いまからそちらの銀行口座に20兆ドル増えますからね」と伝えて債務を消し去ることに連邦政府が決めたら,そのとおりにできる.いつでも,望んだときにだ.そして――まあ.なんということでしょう――債務はなくなる.国債保有者たちにこれを止める手立てはなんにもない(武装蜂起でもすれば別だけど).

もちろん,連邦政府にはこれを防止する各種ルールがある――連邦政府がみずからつくったルールだ.政府は,家計や企業のようにふるまうように自らを縛っている――政府がお金を使うとき,なにもないところからポンとお金をつくりだすのではなく,課税するか借り入れるかしなくてはならないように,政府は自らを強制している.ところが,そこに FRB が登場する.もしも FRB が政府の借り入れを引き受ければ,実質的に,政府はお金をつくりだすことで債務を返済することになる――つまり,自分でつくったルールを自分で回避できる.もちろん,それにもハイパーインフレのリスクがあるにはある.さっき言ったとおりだ.でも,そのリスクは,家計や企業がお金を使い果たすリスクとは別物だ.

ぼく個人には,お金をつくってくれる FRB はいない.キミも同様だ.グーグルやアップルだって,FRB は抱えていない.でも,連邦政府には FRB がいる.

政府と家計との第二の違いは,政府債務の何割かはアメリカ人が債権をもっているって点だ.いま現在だと,公的債務のうち,外国人が保有してるのは 25%ほどにすぎない.

家計や企業がお金を借り入れるときには,外部の存在から借りる.ところが,(アメリカの場合)連邦政府の債務の大半は,連邦政府を仲介者としてたんに一部のアメリカ人が他のアメリカ人に借りているお金だ.

さて,家計や企業が銀行その他の外部からお金を借り入れるときには,今日使うお金を増やして明日使えるお金を減らすのを選んでいる(だって,借金を返済しなくちゃいけないからね).でも,連邦政府がアメリカ人の貸し手たちからお金を借り入れるときには,アメリカ人全体が今日使うお金を増やすことにはならないし,債務が返済されるときにアメリカ人が使うお金を減らさなきゃいけないわけでもない.(そうだね,たしかに実態はこれよりややこしい.政府の赤字支出で生じるケインジアン需要効果があるからだ.でも,それは別の話.)

言い換えると,家計や企業だったら今日お金を借りるのは近視眼的な行動である場合がある――今日大盤振る舞いして,明日は貸主への返済を余儀なくされる.でも,政府がアメリカ人からお金を借り入れる場合には,返済相手になる貸主とは……他でもない,アメリカ人だ.

どうやら,こういう相違点を,多くの人たちはホントにわかっていないようだ.

第3の説: とにかくみんな社会支出を増やすのをいやがってる

ここまで挙げてきた2つの説は,どちらも,赤字そのものをみんながいやがってるかもしれない理由について語っている.他方で,ホントは別のなにかを心配しているのに赤字を心配してるそぶりをしてる可能性もある.

その「別のなにか」は,政府による社会支出そのものかもしれない.以前,アメリカ人は「欠乏マインドセット」なんだと書いたことがある.つまり,他人に不公平に利用されたり,割り込まれたり,他人がなにもせず給付を受けたりするんじゃないかと,誰もかれもが心配してる.その証拠のひとつは,最近の世論調査だ.これによると,バイデンの児童税額控除が永続化するのをアメリカ人は望んでいない.

「あいつ冷酷だな」「ケチケチしてやがるな」「心ないやつめ」と思われずに新しい社会支出に反対するには,赤字を心配するのが一手だ.「できれば助けてあげたいけれど,なにしろお金がなくってね」と言う方が,「おまえなんかを助ける気なんてないね,だってさらにお金を渡してやるほどの相手じゃないし」と言うよりも,ずっと良心が痛まなくてすむ.だから,社会支出への反感を表現するにしても,赤字が心配だからと言っておけば自分の良心を安らかにしていられるのかもしれない――あるいは,世論調査員や友人や家族・親類や Twitter のフォロワーなどなどの前でいかにも高潔そうに見せるのにちょうどいいかもしれない.もっと多くの社会支出をのぞんでいるとアメリカ人のかなりの割合が答えている…けど,その人たちの全員が本心からのぞんでいるわけではないのかもしれない.

第4の説: とにかくみんなは社会の変化を好まない

ぼくのお気に入りの著作家に,リック・パールスタインがいる.現代の保守運動の隆盛について一連の好著を書いた歴史家だ.最近の論考で,パールスタインはこう論じている――1970年代のインフレをめぐる懸念は,実のところ,(リベラルな)社会変化のペースに関する不安を別の形で表現したものだった:

そこで,こう問わなくてはならない:インフレについて語っていたとき,この人々が本当に語っていたのはなんだったのだろうか?

私はこんな結論を導いた.これは,一種のモラルパニックだったのだ.1970年代とは,1960年代の社会変革が主流にまで流れ込んだ時代だった.「制御不可能なインフレスパイラル」と言いつつも,実のところ,もっと締め付けが緩く,不品行がまかりとおり,もっと個人の自由があり,もっとセックスが自由になることで社会が制御不能になってしまったのだと語るための方便にインフレスパイラルを使っていたのだ.上からお敷きせられる「規律」は,こうした狂気を食い止める方法として思い描かれた幻想だった.

さて,みんながインフレを好まない主な理由がこれだとはぼくは思わない.その点でパールスタインとは意見がちがう.自分たちの賃金が物価上昇に追いついていないのが多くの人には見えていたんだと,ぼくは思う.ただ,ここでパールスタインは本物の現象を言い当てていそうだ.とくに,赤字と債務に関して,いいところをついているように思える.インフレとちがって,政府の赤字や債務は抽象的で我が身からかけ離れていて,日々の暮らしで個々人のサイフに響いてこない.だから,赤字に関して経済的な保守主義を語ることで文化的保守主義を表出してるというのが,もっとありそうな話だとぼくは思う.なんといっても,世論調査では経済問題よりも社会・文化的な問題の方をアメリカ人はたいてい気にかけているのが見出される傾向がある.

「財政面では保守的だけど社会についてはリベラル」なアメリカ人なら,かんたんに想像できる.自分がそうだと言っている人もたまにいる.でも,実際には,そんな人たちは多くないだろう.一般に,経済についても社会についても,「どっちもリベラリズム」「どっちも保守主義」でかなりくっきりわかれる傾向がある.――そして,経済と社会の片方についてはリベラルでもう片方については保守だという人たちを見ても,「経済についてはリベラルだけど社会については保守」の方が多い.少なくとも,いまのところはそうなってる.

▼ 縦軸は「社会/アイデンティティ尺度」で -1 がもっともリベラルで 1 がもっとも保守的.他方,ヨコ軸は「経済尺度」で -1 がもっともリベラル,1 がもっとも保守.図中の点は2016年大統領選での投票を示す.青はクリントン票,赤はトランプ,黄色はそれ以外.

というわけで,「とにかく総じて変化に止まってもらいたい人たちが一部にいる」という話は,大いにありそうに思える.そして,変化を止める理由に政府債務を挙げるのはかんたんで便利なやり方だ.

…で,どれが当たり?

さて,アメリカ人はどうして連邦政府の赤字をこんなに心配してるんだろう? いま見てきた4つの説のうち,どれが当たりだろう? 答えはこれだ:

わからん.もっとデータが必要だ.

おそらく,人それぞれに理由はちがっているんだろう.

4つの理由のどれかを組み合わせている人たちもきっといるはずだ.

ぼくが考えもしなかった理由だってあるかもしれない.

ともあれ,これは詳しく厳格に研究する値打ちのある問いだ.なにしろ,財政緊縮をもとめる大衆の欲求は,この国の経済の未来にすごく重大で重要な影響を及ぼすわけだからね.


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