ノア・スミス「世界を救った研究がノーベル経済学賞を受賞」(2022年10月12日)

[Noah Smith, “An Econ Nobel for research that saved the world,” Noahpinion, October 12, 2022]
[ノーベル経済学賞の委員会も,授賞の発表でこの映画を引用してるよ!]

バーナンキ,ダイアモンド,ダイビッグは,銀行が破綻する理由を解明した――ひいては,銀行破綻で経済が道連れになる理由も

2022年のノーベル経済学賞は,ベン・バーナンキ,ダグラス・ダイアモンド,フィリップ・ダイビッグにおくられた.受賞理由は,銀行破綻・金融危機に関する彼らの研究業績だ.今回の授賞は,おくられるだけの理由がたっぷりあるとぼくは思ってる――現在進行で経済を救う研究をやった経済学者なんて,ほとんどいない.

ただ,同時に,今回の授賞はちょっぴり意外にも思った.というのも,ノーベル経済学賞ってのは――自然科学の賞とちがって――たいてい経済についての具体的な発見におくられないものだからだ.通例,ノーベル経済学賞は新しい研究手法を開拓した業績におくられる.つまり,ノーベル経済学賞の委員会は,たいてい,のちにどれほど多くの経済学研究につながったかにもとづいて研究の重要度を判断してるように思える.この点は,とりわけマクロ経済学で顕著だ.べつに,だからってノーベル経済学賞がひどいものだってわけじゃない――経済学というか社会科学は,いまだに未熟な分野で,物事を発見する新しい方法を見つけることこそが最高の値打ちをもつことがよくあるんだ.

2022年の授賞は,そこがちがう.たしかに,有名なダイアモンド=ダイビッグのモデルや,金融経済学でのバーナンキの業績によって,たくさんの後続研究が生み出されることになった.でも,彼らの業績の意義は,いまここの状況にある.ダイアモンドとダイビッグによって発展を遂げた銀行破綻危機のモデルは,銀行が破綻しがちな基本的理由を説明している――そして,だいたいみんながこの説明に同意している.また,バーナンキは,銀行破綻によって現実経済が落ち込みうる仕組みを示した.こうした知見は,その後,2008~10年の第二の大恐慌から経済を救うために応用されて成果をあげた――その応用も,バーナンキ当人が一部を担った.

3ヶ月後のインフレ率がどうなってるか予測するのにもよく困っている分野としては,これはものすごい達成だ.ご立派な数学を駆使していながらも,いまだにぼくらにとってマクロ経済の大半は謎だ.でも,そういう謎のなかで,重要な一部分については,それなりに理解できたとぼくらは考えてる.そして,その理解のおかげで人類が手に入れた巨大な力は,世界各国の経済をより安全にしていっそう栄えさせ,数百万人もの生活を守り,世界をもっと安定した場所にする役に立ってる.

銀行が破綻する理由

映画の『素晴らしき哉、人生!』か『メアリー・ポピンズ』を見たことがある人なら,きっと,銀行の取り付け騒ぎがだいたいどんなものか,なじみがあるはずだ.事態の展開は,皮肉めいてる――「あそこの銀行が近く破綻するぞ」というウソの噂を聞きつけた人たちが,「預金が引き出せなくなってしまうんじゃないか」って恐怖にかられて大挙して銀行に押し寄せる.その銀行はべつに破綻しそうでもなかったのに,いまや破綻寸前になってしまってる.なぜって,誰も彼もがパニックに陥って〔預金を全額引き出そうと〕しているからだ.で,その銀行はほんとに破綻する.こういう事態は,ある種のバージョンであちこちの国々で繰り返し実際に起きてきた.銀行業のはじまったときからずっとだ.

「でも,どうしてこんなことが起きるの? みんなが同時に預金をぜんぶ引き出したいと思ったなら,出してあげればいいじゃん?」 その答えはね,「そんなお金は銀行にないから」だよ.

その理由は,そもそも銀行が存在する理由に関わりがある.銀行は,みんなが現金を保管しておく預金庫とはちがう.銀行は,お金を貸し出して利益を得ている.たとえば,住宅を買う人や,中小企業・大企業や,政府に貸し付けてる――ようするに,誰にでもお金を貸してる.

そういう貸付金の大半は,すごく現金に換えにくい――現金がほしくなったときに住宅購入者や企業のところに出かけていって「貸したあのお金を返してよ」と頼むわけにはいかない.想像してみてほしい.フェルズファーゴ銀行の行員が玄関口にやってきて,こう言い出したらどうだろう.「あのぅ,えっとですね,そちらにお貸しした住宅ローンを返済してもらう必要がありまして.いますぐに.」 住宅ローンを借りてる人たちや企業や政府は,時間をかけてちょっとずつ返済していく.気が向いたときに一度にまとめてドンと返したりはしない.こういう借り入れ金には,預金口座のローンよりも高い利子がつく.その理由は,他でもなく,そっちの方が現金に換えにくいからだ.現金に換えにくいローンにつく高い利子と,銀行預金につく低い利子との差を,「純金利差」という.そして,この金利差で銀行は利益を得ているんだ.

さて,想像してみよう.1ドルどこかに貸し付けるごとに,銀行が1ドルの預金を受け付けるとする(これは事実とちがうけれど,とにかくそう仮定しておこう).そんな世界であっても,あらゆる預金をいっぺんに引き出すのは無理だ.なぜって,預金の大半は,現金に換えにくい資産になって固まってるからだ.このため,銀行はその性質からして脆弱ないきものだ――もしも「預金を引き出せなくなる」という恐れに大勢の人たちが突如として一斉にかられてしまうと,その恐れが自己成就的な予言になって,銀行が破綻してしまう.

この知見こそが,有名な銀行取り付け騒動のダイアモンド=ダイビッグ・モデルで基礎になっている.その研究が世に出たのは,1983年だ.ダイアモンドとダイビッグは単純なゲーム理論の概念を使って,取りつけ騒動が起こる仕組みを示した.でも,このモデルには,単に「取りつけ騒動が起こりますよ」って話にとどまらない重要な含意がある――どうすれば銀行取り付け騒動を止められるのかについても,ここからわかることがある.

昔だったら,取り付け騒動が起こると,銀行は単に預金者のお金を引き出せなくして,「とにかく待ってもらうしかありません」と伝えるだけだった.ダイアモンドとダイビッグの研究によって,預金の払い戻し停止(「兌換の一時停止」)の脅しだけでも取り付け騒動の頻度を減らすには十分ではあるけれど,すっかりなくしてしまうには足りないことが示された――ときに取りつけ騒動は起こってしまう.それがとくにひどい場合がどこかの1銀行が破綻するんじゃないかと大勢の人たちがビビって,そこからさらに他の銀行の取りつけ騒動にまで発展するときで,これによって金融システム全体が混乱に陥ってしまう.だからこそ,フランクリン・ルーズベルトが大統領になって最初にやったことは,全米での銀行一斉休業だった.これは功を奏したけれど,全銀行の一斉休業なんて,そうしょっちゅう必要になったら困る.

ダイアモンド とダイビッグの研究によって,銀行の一斉休業よりもすぐれた解決法が示された.それが,連邦政府による銀行預金保険だ.たとえばキミがお金を預けてた銀行が破綻しちゃったとする.このとき,連邦預金保険公社 (FDIC) が介入してキミに預金を払い戻してくれるのであれば,銀行破綻についてそんなに心配する必要はなくなる.そうなると,みんなの心配は減って,そもそも銀行取り付け騒動が起こりにくくなる.実際,連邦預金保険公社はかなりの成功を収めてきた――取り付け騒動が一掃されたわけじゃないけれど,大幅に減ってる.また,FRB が最後の貸し手として行動して,人々に現金を与えるべく銀行のお金を貸し出すことを,ダイアモンドとダイビッグは主張している.

さて,ダイアモンドとダイビッグの論文が世に出るずっと前から,こうした政策はとっくに実施されていた.でも,彼らがつくりだしたモデルは,すでに行われてることを裏付けるだけにとどまってはいない.他にも,世の中には銀行に似た機関や状況はたくさんある.たとえば:

  • 貯蓄貸付組合(80年代に危機が起きた)
  • シャドウバンク(2008年に危機が起きた)
  • 銀行間貸付市場(これも2008年に危機が起きた)

『素晴らしき哉、人生!』の主人公ジョージ・ベイリーの銀行は,実は貯蓄貸付組合だったりする.だから連邦預金保険公社に保護されていなくて,劇中で取り付け騒動が起こるわけだ.

こういう金融機関について――つまり,預金やその払い戻しが銀行のようには機能しない場合がある金融機関について――取りつけ騒動のゲーム理論をやると,理解にすごく役立つことがある.ダイアモンド=ダイビッグ・モデルをいろんなかたちで拡張して使うと,それができる.また,ダイアモンド=ダイビッグがつくりだした枠組みは,金融危機について他の問題を扱ってる人たちにも役立ってる.たとえば,「そもそもどうしてみんなは流動性を必要とするのか」とか,「取りつけ騒動はどうやってはじまるのか」といった問題だ.

でも,ダイアモンド=ダイビッグ・モデルのもたらした最重要の結果は,おそらく,銀行取り付け騒動が経済の基本的な特性である理由を説明したことだ――ぼくらがなにをどうしようと,どうして,短期で借り入れて長期で貸し付ける金融機関がいきなり破綻してしまう可能性をつねに心配しなくちゃいけないのかって点を説明したことが,なによりも重要だろう.

で,ここで登場するのがベン・バーナンキの研究だ.

どうして金融危機で経済はガタガタになるの?

銀行がバタバタ破綻したらその国の全体にとって問題になるのはどうしてだろう? かりに,アメリカにあるミニゴルフ企業やボーリング場の半数がいきなりなくなってしまったところで,それで経済がダメになりはしないはずだ.たしかに,バタバタと銀行破綻が続くと,そのあとに景気後退がやってくる傾向はある.でも,それだけだと,銀行破綻が景気後退の原因だってことにはならない.ちょうど,雄鶏がコケコッコと鳴くのが日の出の原因じゃないのと同じことだ.実際,景気循環を研究してる経済学者たちのなかには,金融は実体経済にとって「ヴェール」でしかないと主張してる人たちもいる.彼らに言わせれば,銀行制度そのものが実体経済が不況に向かう原因になると心配するにはおよばない.

銀行破綻が景気後退の大きな原因になりうる具体的ですごく明快な理由をはじめて提案した経済学者たちの一人が,ベン・バーナンキだ.そういう話題について考えたのはバーナンキがはじめてだったわけじゃないけれど,個々人の経済行動についてはっきりした仮定を立てて数理モデルの言語にまで落とし込んだのは彼がはじめてだった.とはいえ,こういうモデルを使っても,計量的な予測は立てられない.そうじゃなくて,経済ではたらいてると考えうるいろんな要因を詳しく説明できるようにするのが,こういうモデルだ.

金融によって経済が暗礁に乗り上げうる仕組みに関するバーナンキの理論は,一連の論文で提示された――1つ目は 1989年に出た Mark Gertler との共著論文,2つ目は 1996年に出た Gertler と Simon Gilchrist との共著論文,3つ目は 1999年に出た Gertler と Gilchrist との共著論文だ.論文は他にもいくつかある.こういう論文に共通してる基本的な考え方は,こういうやつだ――資産価格と企業の借り入れとのあいだにはフィードバック・ループがはたらいてる.資産価格が高くなってるときには,企業はかんたんにお金をたくさん借り入れられる.なぜなら,その高額資産を担保に使えるからだ.そういう担保があれば,「お金を貸した企業が債務不履行をやらかさないかどうか」って,銀行は必死に考えなくてすむ.

ところが,資産価格が下がると,一転して企業は銀行からの借り入れにずっと困るようになる.いまや,銀行は相手企業がお金を返済してくれるかどうか心配しなくちゃいけないからだ.企業は,銀行から借りずに株式市場に出て行って資金を調達してもいいけれど,その場合には金利が高くつく(担保がないからね).そこで,企業は借り入れるお金を減らして投資も減らす.すると,経済活動が減る.すると,資産価格がいっそう下がる(資産価格は実体経済に左右されるから).すると,貸付はいっそう厳しくなって,悪循環にハマる.この悪循環を「金融アクセラレーター」という.

もちろん,実体経済を痛めつける金融危機は,これだけじゃない.他にも,ダイアモンド=ダイビッグ式の銀行取り付け騒動がたくさん発生することもありうる.すると,銀行がたくさん破綻することになる.その場合,こんなことが起こる―― (A) 銀行と企業とのあいだに成り立ってた貴重な長期的貸付関係が打撃を受けたり,(B) その経済では,ダメな借り手といい借り手を銀行が見分けられなくなる.この A-B どちらも,企業がお金を借り入れにくくしてしまう.というか,大恐慌の経済史研究者でもあるバーナンキは,1983年論文でこう論じてる――企業がお金を借り入れにくくなったのが,大恐慌があれほどひどいものになった1つの理由だ.ただ,金融アクセラレーターを論じた一連の論文は,90年代から00年代にかけて,「金融の崩壊は大きな危険だ」ってことを経済学者たちに納得させるのにとりわけ大きな影響をふるった.

で,実はこれがすごく,すんごく重要だとのちにわかる.

マクロ経済学が世界を救ったとき

2008年のリーマンブラザーズの破綻と金融危機ではじまった「大不況」(Great Recession) に関して1つすごく大事な事実を挙げると,昔の大恐慌にくらべて大不況の方がずっとずっとマシなものに収まったってことがある.2009年には,この点はまだはっきりしていなかった.当初のショックは1929年のやつと同程度にひどいものに見えたし,他のいろんな側面も同様だった.でも,2010年までには,「今回は世界がずっとマシにやれてるぞ」ってことがはっきりしていた.ブラッド・デロングは 2018年にこうまとめてる

当然ながら,2008年以後の事態で,1929年からの4年間に比類するようなことはひとつもない.大恐慌のあの時期には,アメリカ人の農業以外の失業率は 28パーセントに,ドイツの失業率は33パーセントにまで達した.産出を示す各種の数値も,同様のことを物語っている.1929年の景気循環のピークから4年後,全米のひとりあたり所得は 28パーセント低下し,ふたたび 1929年の水準に復帰するまでまるまる10年を要した.これと対照的に,2008年金融危機のあとにひとりあたり所得は5パーセントしか低下しなかったし,危機以前の水準にまで6年で復帰している.

「発端のショックは同じようなものだったのに,どうして今回は事態の展開はずっとマシですんだの?」 要因はたくさんあるけれど,いちばん正しそうな答えは,これだ――今回は,銀行システムが崩壊しなかった.大恐慌では,1933年までにアメリカの銀行のうち半数が破綻した.一方,2009年までに破綻した銀行は 0.6% にすぎなかった

「じゃあ,今回はアメリカの銀行が破綻しなかった理由はなんなの?」 なぜなら,救済措置をとったからだ.これまでのところ,いちばん有名な救済措置は4310億ドル規模の「不良資産救済プログラム」(TARP) だ.このプログラムでは,アメリカの銀行から住宅を担保とした不良債権を議会が購入する.でも,それだけじゃなく,救済措置に近い対応もなされた.それは,〔中央銀行による資産購入プログラムである〕量的緩和そのものだ.金融緩和で経済を刺激するという名目で,FRB は銀行から3兆ドルを超える額の資産を購入した.そうした資産の多くは政府債券だったけれど,住宅を担保にした債権も多かった.そうした資産を銀行から FRB に移すことで,大手銀行への信用が回復する助けになった.さらに,FRB は銀行業務の一部にも介入して,「ターム物資産担保証券融資ファシリティ」(TALF) のもとで消費者にお金を貸し付けた.

「あんな金融機関どもを救済したせいでみんなが怒った」と言うだけでは,まだ実態に届かないだろうね.あの救済措置は,そもそも危機を引き起こした当の悪党ともに報酬を与えているように思えた.でも,あれは絶対に正しい対応だった.なぜって,アメリカの銀行の 0.6% じゃなくて 50% が破綻していたなら,大恐慌の再来がきっと現実になっていただろうからだ.世間の人たちの憤慨を前にしてもなお救済措置をとった理由は,アメリカで最重要の政策担当者がFRB 議長ベン・バーナンキだったことと大いに関わりがある.

2016年に,あの危機についてバーナンキが書いた『危機と決断』(The Courage To Act ) の書評をかなり長文で書いた.そこで,あの書評からちょっとばかり引用しよう:

重大な歴史的出来事に対応せざるをえなくなった人たちは,たいてい,そのとき自分の目の前にある難題への準備を整える贅沢なんてゆるされていないものだ.たとえば,フランクリン・ルーズベルトは,そのうち第二次世界大戦を戦うことになると予想しながら大統領に就任したわけじゃない.バーナンキは,この通例に当てはまらない例外だ.同時代の他のほぼ誰よりも,バーナンキはそれまでの研究人生を大恐慌に費やしていた――やがて自分が直面することになる危機にいちばん近い出来事について,ずっと考え続けていたんだ.(…) 「大不況」が世間をおそったとき,アメリカでいちばん権限のある経済政策担当者が,他でもなく,この種の危機に似ている歴史上の主な前例について他のほぼ誰よりも考え抜いてきた経済学者だったのは,薄気味悪く思えるほどに幸運なめぐりあわせだった(バーナンキの FRB 議長就任は2006年).金融部門が崩壊の瀬戸際にあった時期に,FRB を率いていたのは,「金融の崩壊がどれほど危険なものとなりうるか」を認識していたほんの一握りのマクロ経済学者のひとりだった.他のどんな人物でも――たとえば FRB 議長候補の呼び声が高かったマーティン・フェルドスタインとかグレン・ハバードといった人たちなら――自分が下した重大な判断ミスで大手銀行がバタバタ破綻していくにまかせるのをそれほど気にしなかっただろう.他方で,バーナンキは迅速かつ決然と大手銀行を救済した.

リーマンブラザーズ破綻と貸付の激減から数ヶ月,アメリカ人のあいだでは,「銀行が直面しているのは流動性の危機なのか,債務返済能力の危機なのか」という激論が活発だった.その2つが同じことなのを,バーナンキは理解していた.ダイアモンド=ダイビッグ型の銀行取り付け騒動と金融アクセラレータ効果によって,債務返済能力危機が起こるのではという恐れは,流動性危機を生じさせうる.すると,今度は流動性危機によって本当に債務返済能力危機が起こる.ここで大事なのは,流動性の提供と債務返済能力の確保を同時に行うことだ.そうすることで,悪循環を回避できる.

銀行救済と量的緩和がもたらした結果は,バーナンキの理論を裏付けているように見える.差し迫った破綻からも,自分たちが不良債権を抱えているという恐れからも逃れた銀行は,2011年には早くも再び貸付をはじめた.

資産価格は回復し,これによって担保が増強され,銀行はさらに多くの貸付ができるようになった.アメリカ政府は,TARP で利益すら上げたし,その後には量的緩和からも利益を上げた――この点はべつに大したことではないけれど,このことから景気回復の強さと迅速さがよくわかる.アメリカの金融システムを救った結果として,世界の金融システムも救われることになった――とくに,ヨーロッパでは,バーナンキの金融救援策からさまざまな教訓を得て,2010年代の欧州危機にそれを応用できた.

つまり,大不況では,現実のマクロ経済の救援にマクロ経済学理論が直に応用されるさまが現在進行形で目撃されたわけだ.しかも,そういう理論をつくりだした当人が,その応用の任に当たっていた.大恐慌が非常に深刻だったことが1930年代にファシズム台頭の大きな要因になったと信じるなら,こうした経済理論は数千万人,あるいは数億人の雇用を救っただけではなく,世界そのものも救ったのかもしれない.マクロ経済の理解が進んだおかげで,今回はもっとうまくやれた.

実際,それこそが,ぼくらにのぞめる最大限の成果だ.世界についてちょっとだけ理解が深まれば,ちょっとだけうまくやれるようになる.

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