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ノア・スミス「岩崎明子博士へのインタビュー:ワクチンの有効性、COVID-19の先行き、科学における女性」(2020年12月29日)

Interview: Dr. Akiko Iwasaki
Vaccine efficacy, the future of COVID-19, and women in science
Dec 29, 2020 by Noah Smith

僕は、ツイッターで多くのCOVID-19の専門家をフォローしているが、イェール大の免疫学者、岩崎明子博士ほど有益な情報を提供してくれている人はいないだろう。彼女はどういうわけか、ウィルスに関する極めて非常に大量の技術的な情報を、科学的な正確さを犠牲にすることなく、僕のような素人でも簡単にわかるような方法で伝えるのに成功している。また、ニューヨーク・タイムズVoxなんかでコラムを書いたり、ポッドキャストに出演したりもしている。彼女は、他の科学者と協力してCOVID-19を阻止する計画を作るのを手伝っている。彼女は、大量に研究論文を発表しながら、これを成し遂げたんだ。彼女はまた、生物学の分野で女性が直面している障壁についても語ってくれた。

率直に言って、岩崎博士はとても素晴らしい。「生物学者」と聞けば、僕は今や彼女を思い浮かべるほどだ。なので、僕は自分のブログで、彼女にインタビューできて、とても光栄だ! メールで交換した文面の未編集版は以下となっている:


ノア・スミス:まず最初に言わせてください。僕はあなたの大ファンです。ツイッターでCOVIDの専門家を沢山フォローしてるんですが、あなたほどCOVIDやウィルス全般について多くを教えてくれた人はいませんでした。あなたは、市民が知らないといけない情報を正確に把握し、その情報ための最適なソースを届けるのが、本当に上手ですよね。

岩崎明子:どうも、ありがとうノア。私の科学コミュニケーションの取り組みが役に立っているのをご存知のようで、すごく嬉しいです。

ノア・スミス:ところで、ウィルスやワクチンについてお聞きする前に、単に個人的に知りたいんですが、あなたが貴重な時間を費やして、大衆のために情報を届ける必要を感じたのはどうしてですか? COVIDはそこまで緊急事態だったんでしょうか?

岩崎明子:そうですね。COVIDパンデミックの前から、研究成果を一般の人にわかりやすい形で伝えることが科学者の義務だと常々感じていました。私たちは、主に市民が納税しているおかげで、科学を探求できる特権的な立場にあります。私たち科学者は、科学的知見を一般の人に説明し、意見を交わす義務があるんです。COVIDが襲いかかってきた時、私が感じたのが、自分たちの研究を伝えるだけじゃなくて、ウィルス感染や免疫の基本的なメカニズムについての情報を発信し、ウィルスに関する神話を払拭することが、これまで以上に重要なんだ、ということでした。

ノア・スミス:それはスゴイ。神話の払拭については、後ほどお話しましょう。

まず最初に、僕が聞きかったことです。イギリスで出現した、COVIDの新株について、どこまで心配すべきなんでしょう? N501Yと呼ばれる突然変異の新株は、感染力を高めていると考えられているのに、抗体への耐性には影響を与えていない、と示唆している予備データをいくつか見かけています。でも、新型株はいくつもの変異として現れるんじゃないですかね? この変異株、もしくはこの変異株の子孫が、ワクチンの効果を大幅に低下させるかもしれません。僕たちはどこまで心配すべきなんでしょう?

岩崎明子:その通りです。スパイクタンパク質の受容体結合ドメインにおけるN501Y変異は、以前の感染やワクチンによって生じた抗体反応を回避しないようです。このスパイクの遺伝子と、〔子孫である〕他のウィルスの遺伝子は両方ともに、いくつかの変異や欠失があります。この特定の変異に対してワクチンが効かないことについては、あまり心配する必要はないと思います。大抵、人は、スパイクタンパク質内の異なる領域(エピトープと呼ばれています)だけで、複数の抗体を作ります。そのため、たとえウィルスが、一部の抗体を回避できたとしても、他の抗体がウィルスに対して活性化することになります。将来的には、ワクチンによって誘導された抗体を、真に回避できる変異ウィルスが出現するかもしれません。しかしその時点で、新しい配列を、新しいmRNAワクチン(バージョン2.0)に組み込むことができるでしょう。そのようなワクチンの製造と流通インフラは既に整備されており、かなりのスピードで製造することができるでしょう。

ノア・スミス:質問の続きです。全世界が、COVIDのワクチンを接種するには何年もかかるじゃないでしょうか。COVIDが、ワクチンを接種してない人たちの間で突然変異を繰り返し、新しいワクチン耐性株が出現し続ける可能性はあるんでしょうか?

岩崎明子:これは理論的にはありえますね。しかし、突然変異したウィルスが、有力な抗体反応をすべて回避するには、長い時間がかかるでしょう。SARS-CoV-2ポリメラーゼに、校正(プルーフリーディング)酵素が備わっている事実は、突然変異の発生を低くしています。さらに、7800万人への自然感染の中で、そのような変異の発生は見られていません。なので、そういった可能性は非常に低い、ないし少なくとも非常にゆっくりとしたプロセスでしょう。

ノア・スミス:分かりました。もし不幸にも、ワクチンに耐性を持つCOVID株が出現したら、どのくらい速さで、全員にワクチンを再接種できるんでしょう? 改良されたmRNAワクチンは、今年の初代のワクチンのように、長い承認とテストのプロセスを経なければならないのでしょうか? それとも、スパイクタンパク質をすぐに交換して、新しいワクチンを迅速に展開(roll out)することができるんでしょうか?

岩崎明子:そのような新しいバージョンのmRNAワクチンは、どの程度までテストの必要があるのか、ハッキリとは言えないのです。スパイクの配列を入れ替えるだけで、新しいワクチンを比較的速く展開できるのではないでしょうか。新しいバージョンのワクチンは、安全性を確認するために、公開の前に少数の人を対照にテストを行う必要があるかもしれませんが、ハッキリとは言えません。どのようなワクチンであっても、新しいものは、規制当局の承認を必要とするでしょうね。

ノア・スミス:それに関してですが、もし世界の大多数の人がCOVIDに対するワクチンを接種できたとします。この病気の終幕はどうなるんでしょうか? 一部の地域で流行することはありえますか? インフルエンザの予防接種のように、COVIDの新しい株に対して定期的なワクチン接種が必要になるのでしょうか? 一部の人が予想しているように、この病気は、それほど致命的でない形に進化するのでしょうか? それともまだよくわかっていないのでしょうか?

岩崎明子:結論を出すには時期尚早だと思います。世界の大多数がCOVIDに対するワクチンを接種した場合、ウィルスはワクチンが接種されていない地域で散発的に小さな集団感染を引き起こすだけかもしれません(麻疹のワクチン接種率が低い国で見られる、麻疹の大流行のようなものですね)。ただ、集団免疫によって、ウィルスの広範な感染は阻止されることになります。たとえ、ウィルスが致死性の低い型に進化しなくとも、免疫耐性によって病気は予防されるでしょう。

ノア・スミス:分かりました。たしかに、それはかなり安心ですね。

さて、別のおっかない質問があります。次のパンデミックはどのようになるのでしょうか? グローバル化と人類の動物の生息地への侵入の増加は、今回のような新しいパンデミックの危険性を高めているのでしょうか? 危険を最小限にするため、あるいはもっと良い備えをするには、僕たちに何かできることがあるんでしょうか?

岩崎明子:森林伐採、集約的な畜産、都市の過密化、劣悪な公衆衛生、水の貯蔵といった人類の行動は、人獣共通伝染病の発生を加速させてきました。世界旅行の増加は、感染性の病原体の迅速にして広範な伝搬を可能としています。私たちは自身の行動を厳しく反省すべきであり、可能な限り変えていくべき時だ、と私は思います。例えば、大規模な屋内での密集イベントを制限し、その一部をバーチャル化できるなら、それを検討すべきでしょう。リモートワークが可能なら、対面での仕事よりそちらの推奨すべきです。一方で、特に子どもや高齢者にとっては、人と人との交流は絶対に重要です。私たちは、学校や老人ホームののために、より安全な公的かつ共同的な屋内環境を確保する必要があります。

ノア・スミス:僕たちは、長い間、コロナウィルスを畏れてはいませんでした。なのに、2003年にはSARS、そして現在はCOVID-19です。なぜ、20年足らずの間に、この2つの新規のコロナウィルスのパンデミックが発生したんでしょう? 単なる偶然ですか?

岩崎明子:ベータコロナウィルスが、人獣共通伝染病を引き起こし、その後、ヒトからヒトへと比較的短期間に伝染したのは、あなたの言う通りです。これは、ヒトと動物宿主との間でのより頻繁な遭遇を反映している可能性が高いと思われます。SARSやSARS-CoV-2はACE2を侵入受容体としています。SARS-CoV-2は、ミンク、猫、その他の家畜や野生動物を含む幅広い哺乳類を宿主として発現するACE2を利用できることが判明しています。そのため、これら動物の体内および、動物間でウィルスが進化してから、ヒトへ憑依すれば、人獣共通伝染病の伝染に繋がる可能性があります。これらウィルス株の一部が、ヒトからヒトへと移る能力を保持することは、パンデミックの可能性を高くするでしょう。

〔あなたが指摘した〕この期間においても、H1N1豚インフルエンザ、チクングンヤ熱、ジカウイルスなど、他の感染体が、ヒトに対するエピデミックやパンデミックとして成功したのを忘れてはいけません。なので、将来のパンデミックの脅威は、様々な種類のウィルス由来のものになる可能性があります。

ノア・スミス:ウイルスについての質問を続けて、あらゆるチュートリアルに答えて欲しいんですが、あなたの時間をあまり浪費したくありません! 代わりに、僕が聞きたかった別のトピックに切り替えます。「科学における女性」についてです。

生物系科学や生命科学において、女性の割合が増加しているのはよく知られています。テニュア教授や主任教授の水準で同等になるには、まだまだ時間がかかるでしょうが、時間の経過と共に変化していくのは必然のように思えます。同時に、女性は、COVID-19のワクチン開発での重要な科学的進歩のいくつかにおいて、重要な貢献を行っています。生物学の分野は、男女平等になってきていると思いますか? 今なお、なんらかの障壁は存在しているのでしょうか? そして、その障壁を取り除くために皆ができる最も重要な手段は何でしょう? あなたが生物学の分野で性差別と苦闘してきたのを僕は知っています。性差別と戦うために、皆でできることは何かありますか?

岩崎明子:女性は、生物医学系の卒業生の50%以上を占めていますが、教員職、特に教授レベルでの女性の割合は、何十年もの間〔卒業割合に〕比例して増えていません。アカデミックな職にある女性の割合は、特にポスドクから教員職への移行時において急激に低下しています。生物学における一般的な教員公募では、助教授職への応募者の約25%が女性であるのに対して、ポスドクへの応募者は45%が女性です。人によっては、この格差を「パイプライン」の問題だと決めつけていますが、私は好きになれないですね。パイプラインは固定されていますが、環境は固定されていないんです。生物科学の分野は、男女平等に向けて少しずつ進んでいますが、そのペースは遅すぎます。女性と過小評価されている科学者(underrepresented scientists)が直面しているいくつかの障壁について、以下でいくつか箇条書きしてみましょう。

  • バイアス:明示的なものと暗黙のもの両方
  • 心を蝕む職場体験
  • 同僚・先輩からのセクハラ・パワハラ
  • ロールモデルの欠如
  • 自信の欠如
  • メンバーシップ、賞与、賞におけるオールド・ボーイズ・クラブ(学閥的繋がり)からの排除
  • 女性の出版物は、男性の出版物ほど助成金の「対象」にならない
  • 女性の出版物は、男性の出版物ほど多くの引用を受けない
  • 女性の出版物は、男性の出版物ほど高水準の学術誌に掲載されない
  • 女性は、男性と同じ割合で指導的地位に昇進することがない。
  • メンター(良き師・助言者)やスポンサーの欠如。
  • 資金調達と給与の格差
  • 男性よりも子育てや家事に費やす時間が多いこと。パンデミック渦中は顕著である。

これらを、どうやって打ち負かせばよいのか?

  • 環境整備
  • 手軽で利用しやすい保育を提供する
  • カップル求人、クラスター求人を実施し、家族が容易に参加できるようにする
  • 暗黙のバイアスを避けるために、助成金の公開討論エデュケーションを実施する
  • 採用における固定化された考え方の変更が必要
  • 成功の測定基準を変更する
  • 方策:
  • 言葉による賛同:議論の場において、先手を打って徒党を組み、意識的に他の女性をサポートする。
  • 資格を有した女性とURM(過小評価されている科学者)の、ネットワーク作成、識別、雇用
  • 女性/URMの問題でないことを自覚する。男性を巻き込む(〔ハッシュタグを使用〕#HeforShe)
  • メンタリング〔熟練者による未熟練者への助言〕とロールモデル〔模範例を示す〕
  • リーダーシップを発揮する女性/URMは、トップから変化をもたらす可能性がある。
  • リーダーシップ――リーダーがどのように見えるべきかとの概念を変える
  • 政策および制度的な解決
  • リフレクティブ(内省的反映):プログラムだけでなく、マインドセット(固定化された考え方)を変える
  • バイアスを認識し、取り組む
  • 女性、理事会、委員会の為のリーダーシップ研修とメンタリング〔熟練者による未熟練者への助言〕

以上全て、気が遠くなるように聞こえますが、努力は一歩から始まります。障壁を少しずつ削り取り始めるには、個人レベルでできることは沢山あるのです。

ノア・スミス:わお。これは意義深いリストですね。このリストの課題を達成するのに、僕ができることがほとんどないのに苛立ちを感じています!

なので、次の質問です。僕のような、マスコミの中にいるけど、生命科学の外にいる人間は、この問題を解決するために何ができるんでしょう? 些細だったり、地味だとしても、皆が実行できる第一歩は何でしょう?

岩崎明子:この質問をしてくれて、ありがとう。メディアの中にいる人は、障壁を可視化して、生物医科学には未だにどんな問題をあるのかを人々に理解してもらうことができますね。いったん問題が認識されれば、それらに取り組みを開始することができます。女性がアカデミアで未だに直面している問題を、一般の人々が理解していなければ、私たちが変更を起こそうとも、一般の人々の必要な支持を得ることができないのです。なので、あなたはこのブログを書くことで、多くをなしているんですよ!


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Comments

  1. optical_frog says:

    細かい指摘です:「すべて回避するする」

  2. optical_frog says:

    これも:「コラムをかくいたり」

  3. optical_frog says:

    「肯定命題」という訳語ではそのあとの説明とかみあわないので,「言葉による賛同」くらいにした方がいいと思います.

  4. WARE_bluefield says:

    本当にありがとうございます。すべて訂正しました。また何かあるとご指摘していただけると幸いです。

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