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ノア・スミス「2022年に向けてのテクノ楽観主義」

[Noah Smith, “Techno-optimism for 2022,” Noahpinion, December 8, 2021]

いまわくわくしてなきゃおかしい技術の展開

去年,このブログをはじめたとき,これはテクノ楽観主義のブログだよって明言しておいたんだけど,このところその看板からちょっとばかり遠ざかってしまった気がしてる.べつにテクノロジーについて前ほど楽観的でなくなったわけじゃない.ただ,経済政策だとか社会不安だとか中国経済だとかコロナウイルスだとかの話題についついうっかり注意をそらされてただけだ.でも,ここであらためて,初心に立ち返ってみたい.

一部で予測されてるような「繁栄の20年代」(the Roaring Twenties) になるかどうか,判断するにはまだ早すぎる.「そうはいかないんじゃないか」って疑う各種の理由があるのは間違いない.めざましい四半期が終わったいまの時点で,実は労働生産性が下がってきてる.その理由の大半は,サプライチェーンの混乱で生産が滞っていることにある.でも,コロナウイルス変異株や,オフィスに部分的に従業員たちが復帰する不確実でとっちらかったプロセスに起因する部分もあるかもしれない.「繁栄の20年代」説を早くから唱えているゴールドマンサックスは,来年の経済成長が弱々しいものになると予測している.

それに,指折りに楽観的なテクノロジーのトレンドのひとつにリモートワークへの切り替えがあるけれど,期待されたようには進んでいない.リモートワークで経済がいい方向に変化するといまでも予想してる人たちも一部にいる.でも,新しい研究によれば,物理的に従業員どうしを隔てると情報共有が減ることがあるようだし,多くの企業は従業員に会社にデスクに戻ってこいと要求してる.というわけで,リモートワークが生産性向上の特効薬になるかどうかは,まだ不確かだ.

ただ,こういう問題やつまづきや逆風こそあるものの,この先10年についてぼくはやっぱり楽観的だ.

エネルギー革命

あらゆる物理的なテクノロジーにとって,エネルギーは基礎をなしている――現実の空間で原子(アトム)どもをあっちからこっちへ動かすには,エネルギーが必要になる.1970年代前半になって,それまでひたすら続いていたエネルギー利用の増加が急に横ばいになり,物理的な領域でのイノベーションがそれまでよりもずっと難しくなった.

【▲ アメリカにおける一人当たりエネルギー消費量の推移】

その分の埋め合わせになったのが,デジタル・テクノロジー(「ビット」)の発展だった.でも,そうしたイノベーションは,生産性を急速に成長させる助けにはそれほどなっていない.こうして,生産性は伸び悩んだ(「1971年にいったいなにがどうなったんだ?」っていう有名な問いへの答えが,これだ.というか正しくは1973年,オイルショックの年だけどね.)

オイルショックは政治の事情によるものだったけれど,根底の部分では,エネルギーの停滞はテクノロジーの問題だった.産業革命は薪と家畜動力から石炭を経て石油への転換によって進んできた.でも,その次の転換,つまり原子力への転換は進まなかった.原子力の各種リスクを,みんなが恐れすぎたせいだ.あれが間違いだったのかどうか議論してたら日が暮れてしまう(おそらく間違いだったとぼくは思ってる).でも,それすらいまとなっては過ぎた時代の話だ.

さいわいにも,原子力が停滞したあと,長い時間をかけて科学者とエンジニアたちががんばりにがんばって,他の技術をつくりだした.安全で,環境にやさしくって,大半の項目で原子力よりもすぐれてる技術だ:風力・太陽光発電が,それだ.数十年にわたるすさまじいコスト低下を経て,再生可能エネルギーはすでに第一線を担う用意が整ってる(コスト低下の序盤は政府の助成による研究によって可能になり,その後,政府の助成を受けた民間部門での規模拡大によってさらにコストが低下した).こうしてコストが下がった分だけエネルギーをもっと安価にするには,発電設備を建設しないといけない.で,いままさに建設が進んでいる最中だ.

Bloomberg New Energy Finance にその数字が出てる.2020年の時点で,各種の発電所の大半は縮小した――とくに石炭火力と天然ガスの縮小が目立つ.でも,太陽光発電と風力発電は逆に拡大してる.

これまでずっと再生可能エネルギーの拡大の予測が控えめにすぎた国際エネルギー機関も,このトレンドが2020年代のあいだ堅調に続くと予想してる

2026年までに,全世界の再生可能エネルギー発電力は 2020年の水準から 4800 GW 以上に 60% をこえる伸びを示すと予測される――この発電力は,全世界における現時点の化石燃料・原子力を合計した規模にひとしい.2026年までの全世界の発電力増加のうち, 95% 近くを再生可能エネルギーが占める見込みだ.そのうち,太陽光発電が単独で半分以上を占める.2021年から2026年に増加される再生可能エネルギーの量は,2015年から2020年にかけての増加分を 50% 上回ると予想される.

この物語における紛れもない奇跡のテクノロジーというべきは太陽光だ.半分以上を占めるっていうんだから.

さて,誰もが知ってのとおり,再生可能エネルギーは発電できたりできなかったりと断続的だ.お日様がいつでも照っているとはかぎらないし,風がいつも吹き付けてくれるわけでもない.たしかに,バッテリーで夜間の電力を蓄電しておけるし,冬場はソーラーパネルをたくさん設置しておく手もある.でも,それで問題がすっかり解決できたりはしない.新たに増やす分については,化石燃料を太陽光に置き換えることで電力を安価にできる.でも,グリッド全体に太陽光と風力が占める割合が大きくなると,そのコスト優位は消えてしまう.そこで,エネルギー革命をほんとに続けるには,大量のエネルギー貯蔵能力が必要になる.これはいま企業や研究者たちが取り組んでいる最中だ.急速で安上がりな蓄電能力で指折りに有望な技術としては,鉄フロー電池,蓄熱,水素がある.また,世界各国で,原子炉の建設が進んでいる――これは高くつくけれど,発電能力を高める助けにはなるはずだ.

安価な太陽光発電,安価な風力発電,安価な蓄電能力が揃えば,この半世紀ではじめて,電力コストが安定して大幅に低下することになりうる.みんなはようやくこのことに気づきはじめていて,安価で豊富な電力でどんなことができるか思案をあれこれとめぐらせてる.ぼくなりの考えはここここで出しておいた:

  • 脱塩
  • 安価な高速列車
  • 安価な航空便
  • さらに多くのリサイクリング
  • 炭素除去
  • 有毒廃棄物の浄化処理
  • 環境に優しい採掘
  • いろんな次世代素材の大量生産
  • 元ツイート

    Jason Crawford の Twitter スレッドについてるリプライを眺めれば,いいアイディアがさらにもっとたくさん見つかる.タイラー・コーエンの考えをちょっと引用しよう:

    熱したり冷ましたりのテクノロジーはどうだろう? 屋外の気温を操作するのも可能かもしれない.実現すれば,1月のデンマークや8月のドバイだって,それほど耐えがたいものじゃなくなるだろう.(…)いずれ,飛行機の操縦はさらに自動化が進むだろう.ロボットはいまよりはるかに多くなるだろう.(…)エネルギーが安上がりになれば,スーパーコンピュータの利用がもっと手頃になるだろうし,暗号通貨はもっと手軽になるだろうし,ナノテクノロジーの実現の見込みはもっと高まる,(…)大気中からメタン(と炭素)を除去するテクノロジーも(…)もっと実現しやすく手の届きやすいものになりそうだ.

    安価な電力の状況が――30年後や50年後の未来じゃなくって,この先10年の状況が――こんな具合にようやくみんなに理解されつつある.これが,いまほんとに起きてることだ.

    そしてすばらしいことに,有望な電力生産テクノロジーは太陽光/風力/蓄電にかぎられないかもしれない.核融合発電の分野で,資金調達とスタートアップ企業が爆発的に増えてきてる

    まだ商業的にはモノになっていないけれど,この分野は猛烈な勢いで発展していて,核融合テクノロジーのいろんなタイプで目立ったブレイクスルーが起きてる.昔からよく「核融合はいつだって30年後の未来なんだよな」なんてジョークが言われたものだけれど,それもついに死語になりそうだ.

    それでも不十分だと言わんばかりに,地熱発電も爆発的な発展の下地が出来ている.地熱発電のポテンシャル,とくにアメリカ西部でのポテンシャルについて Daniel Oberhaus & Caleb Watney が書いた政策論文を見てほしい.

    こんな具合に,安価な電力がもうすぐ実現しようとしてる.ジェイムズ・ワットにはじまる化石燃料の時代は,ようやく,もっと安上がりでもっと豊富なものに――おそらく7つくらいのものに――取って代わられようとしてる.

    ただ,ひとつ大事な点がある.いま起きてるエネルギー革命は2つあって,安価な電力はその片割れでしかないんだよ

    もうひとつは,エネルギーの貯蔵・輸送方法の革命だ.バッテリーテクノロジーはめざましく急速に発展を遂げてきた.過去10年で,コストが 90% も下がってる

    供給の混乱が起きているにもかかわらず,これからほんの数年でコストはさらに低下すると予想されている.例によって,『ブルームバーグ』の New Energy Finance がここでも最良のデータを提供してくれている.ぜひ,Nat Bullard による連続ツイートをチェックしてほしい:

    1/リチウムイオンバッテリーパックの価格は,前年との比較で 6% 下がって,キロワット時 132ドルになっている(2021年のドルで実質換算).2010年にはキロワット時 1240ドルだった価格から,実に 90% もの低下だ.ヘッドラインの数字よりさらに多くのポイントがある.下記の記事を参照.
    https://bloomberg.com/news/articles/2021-11-30/battery-price-declines-slow-down-in-latest-pricing-survey?srnd=hyperdrive
    元ツイート

    [img]

    こんな風に価格が下がれば,当然,内燃機関の自動車に電気自動車がとって代われる.これは,環境にとっていいことだ.それに,いろんな点で性能面でも優れている(電気自動車の方が加速がずっと速い).でも,バッテリー革命の射程は乗用車を超えてもっとはるかに遠くにまでおよぶ.これによって,人間がエネルギーを携行できる方法はまるっきり変わってしまう.

    一部には,「バッテリーなんて」とあざける人たちもいる.エネルギー密度で化石燃料よりも劣っているというのが,その理由だ.こういう否定的な意見は,エネルギーの可搬性がどう機能するのかを根本から誤解している.化石燃料のエネルギーを伝達するシステムの重量・容積には,エネルギーを取り出すのに必要な機構全てが関わっている――燃焼室・ピストン・クランクシャフト・バルブなどなど,ありとあらゆるものが関わってる.たしかにバッテリーはガソリンほどエネルギー密度が高くないかもしれない.でも,バッテリーからエネルギーを取り出すために必要なのは,ほんの小さな金属パーツ数点だけだ.だからこそ,みんなが使ってるスマホにはガソリンタンクじゃなくってバッテリーが入ってるわけだよ.

    それは,いま新しい時代を迎えようとしてるってことでもある.小さく軽量で携帯しやすい機械がずいぶんたくさんのエネルギーを運べる時代のはじまりだ.なによりわかりやすい応用例が,ドローンだ.小さいバッテリーで動くクアドコプターによって,戦争の様相だって変わるかもしれないし,ありとあらゆる種類の配送サービスも提供されるかもしれない.それに,大容量バッテリーはロボット革命の原動力にもなるだろう.そうなれば,ボットどもが工場や病院をはじめとしていろんな環境を自由にあちらこちらに動き回れるし,ボットどもがありとあらゆるタスクをこなすための動力だって提供される.それに,バッテリーの性能が向上すれば,ありとあらゆる種類の安価で軽量で携行しやすい機器も可能になる――2020年にポートランドで,抗議の群衆に向けられた催涙ガス攻撃を電動リーフブロワーで撃退してる様子を見たときに,ぼくはこの可能性にはじめて気づいた.

    最後に,バッテリーが安価になったおかげで,すでに新しい輸送の方式があれこれと可能になりつつある.これによって,都市の機能のあり方もまるっきり変わるだろう.この分野では,電動自転車がとりわけ有望なテクノロジーだ.いま政府は,今後数年で電動自転車に巨額を注ぎ込む用意をしている.同じく,電動スクーター個人用エアタクシーも,みんなの移動法を今後10年で刷新しうる重要な事例だ.

    つまり,バッテリーってのはたんにエネルギーを貯蔵するのにべんりだってだけじゃなくって,すごく手軽かつ効率よく少量のエネルギーを持ち運ぶのにもべんりなんだ.そして,これによってみんなをとりまく物理的な世界も様変わりすることだろう.バッテリーは,安価な電力と高度に補い合う――電力をもたらすのが太陽光であれ核融合であれ地熱であれ,みんながそのエネルギーを利用する方法として,バッテリーは大きな役割を果たす.

    いまとりあげた二大エネルギー革命は,地平線のはるかかなたにあるわけじゃない.いままさに,みんなの目前で進行中だ.これによって,今後10年の様相は決まる.

    バイオテクノロジー(あるいは「奇跡と驚異の時代」)

    エネルギー革命で物理的世界と人間の関わり方が変わろうとしているのと同時に,バイオテクノロジーの爆発的な発展で人間の生のあり方そもものも変わろうとしている.2020年代は,全世界に疫病が蔓延したまさにそのときに mRNA ワクチンが間一髪で到来して数百万人もの人命を救うという出来事ではじまった時代になった.mRNA は,マラリアをはじめとしていろんな感染症いろんな種類の癌にいたるありとあらゆるもののワクチンをもたらすと見込まれている.ところがなんと,そんな mRNA ワクチンも,いま実現しつつある数あるバイオ系のブレイクスルーのひとつにすぎない.ここ2~3ヶ月ほどでぼくのディスプレイを流れていったいろんな奇跡を短いリストに並べてみようか:

    1) 脳-コンピュータ・インターフェイス

    この文章は,麻痺した男性が脳-コンピュータ・インターフェイスを使って書いた.手を動かさなくても,文章を頭に浮かべるとこれが入力される.

    1分あたり18語の速度だ.

    脳-コンピュータ・インターフェイスのメタバースはやばいことになりそうだ.

    https://sciencealert.com/brain-implant-enables-paralyzed-man-to-communicate-thoughts-via-imaginary-handwriting

    https://twitter.com/garrytan/status/1458686651228512256

    2) 遺伝子治療

    この時代でとびきり重要な生命科学のブレイクスルーといえば,ゲノム編集と遺伝子治療だ.
    この @sciam の新しいインフォグラフィックでは,#cancer, vision, sickle-cell の相違点と初期の成功が描き出されている.
    https://scientificamerican.com/article/the-definition-of-gene-therapy-has-changed/

    4) 神経テクノロジー

    これはちょっと信じられない科学の進歩だ.

    文字どおり,盲目の人たちに視覚をもたらしている.

    聖書に載っていてもおかしくないほどの奇跡だ.

    https://twitter.com/Noahpinion/status/1455730910066663429

    5) 動物から人間への臓器移植


    世界で初めて,豚の腎臓を人間に移植する外科手術が行われて,成功を収めている.
    元ツイート

    6) 遺伝子合成

    まだ幼年期にある第4次産業革命でバイオ科学/合成生物学こそがいちばん大きな変化をもたらすかもしれない理由をうまく解説した記事.「遺伝子合成革命」

    元ツイート

    こういう進歩に弾みをつけたのは,基礎科学でおきたいくつかのブレイクスルーだ:合成生物学の発展,Crispr その他の遺伝子編集技術の発見,mRNA ブレイクスルー,幹細胞,その他2~3の発展によって,こういう進歩がなされた.そして,基礎科学のブレイクスルーを可能にしたのは,コンピューティングの進歩だ――ある分野でテクノロジーの革新が起きると,別の分野で革新を起こす下地がつくられるっていう事例が,ここにも見つかる.

    これが経済にどう影響するかっていうと,まだはっきりしない.いま言ったような技術進歩を活用しようと,すでに多岐にわたるスタートアップ企業が登場してきてる.でも,いちばん成功するベンチャーがどこになるのかは,まだはっきりしない.製薬みたいな資本集約的なプロジェクトかもしれないし,ガレージでできる低コストのシンバイオの企業かもしれない.モデルナやバイオンテックによって,たしかに大もうけの筋道は示された.でも,あれは例外かもしれない――新薬の発見はますます費用が高くつくようになってきていて,mRNA その他の新しい魔法みたいなテクノロジーですら,その傾向をひっくり返しはしないかもしれない.医療システムに関わるものはどんなものであろうと規制と検証の厳しい過程をくぐり抜けないといけない.このシステムを完全にくぐり抜けて消費者向け市場にやってくるテクノロジーがどれほど残るのか,いまなおわからない.それに,アメリカ企業が新テクノロジーを活用できるようにするための規制改革を政治が大きく後押しするのかどうかも,不確かだ.たしかに,食品医薬品局 (FDA) には大きな改革が必要だってことがパンデミックによって手痛くもはっきりした.でも,はっきりしたからといって改革がなされるとはかぎらない.

    それに,バイオテクノロジーによって総生産生がどう影響を受けるのかもはっきりわからない.エネルギーが安価になれば生産性の統計にその影響が現れる見込みは大きい.なぜって,これまでずっとそうだったからだ.でも,バイオテクノロジーはそれよりもソーシャルメディアに似たものになっておしまいかもしれない――つまり,人間の暮らし方を深く意味のあるかたちで大きく変えるものではあっても,いっこうに生産性にこれといった変化を起こさないままにとどまるかもしれない.(今後数ヶ月のうちにバイオテクノロジーの経済事情についてもっと書くつもりだ.)

    ただ,バイオテクノロジーによって人間の生のありようが変わるのははっきりしてる.身体障害の性質が変わる.死亡リスクが変わる.老化の性質もきっと変わるだろう.それに,人間にできることの自然な限界もぐんにゃりと変化して,障害を取り除くこと超人的な能力を加えることの区別が疑問視されるようになっていくだろう.

    言い換えると,人類のソースコードにぼくらはついにアクセスしはじめつつある――自分たちみずからをハックし書き換える能力を,ついに獲得しようとしている.2020年代は,そんなすごい力が導くいろんな帰結と格闘する10年になりそうだ.

    AI,ナノテク,宇宙……

    ここまでの話では,今後10年に関してぼくが個人的にとりわけ楽観的に考えてる2つのことばかりを語ってきた:エネルギーとバイオテクノロジーの2つふぁ.でも,テクノロジーでいま起きてる大きな展開がまさかこの2つだけなんてこと,あるはずない.

    AI 革命もなお継続中だ.こちらは,総生産生の観点でようやく実りをもたらしはじめようとしてるのかもしれない.サービス産業のありとあらゆる種類のタスクを AI がかわりにやり,ロボットや機械ツールにできることを大幅に改善し,他のいろんな研究領域での進歩をうながす端緒に,ようやくついてるのかもしれない.

    まず挙げられるのがナノテクノロジーだ.これは,数十年にわたる政府の投資の恩恵をうけてきたナノテクノロジーは,いま,化学工学・素材科学の様相を一変させようとしている

    無数に並ぶナノスケールのティップを用いるツールを利用して,いま,数百万ものナノ構造体からなる組み合わせ「メガライブラリ」の構築が進められている.それぞれのナノ構造体はサイズ・組成・形状がわずかながらに異なっている(…).それどころか,たったひとつのメガライブラリに含まれる新しい無機材料は,これまでに科学者たち全体が合成し特徴を調べてきた素材よりも多い

    その結果として,新素材をふるいにかけるなかで,クリーンエネルギーや自動車産業や化学産業のプロセスを加速するさまざまな触媒を,科学者たちは発見している.(…)また,磁性・発光・高温超伝導といった重要な物理特性をもつ構造体が,メガライブラリを用いた科学者たちの手でつきとめられていっている.

    それに,宇宙もある.宇宙開発なんて現実世界では粉々になって SF の世界にしかなくなっていたのに,SpaceX でのとてつもない努力と発展と合わせて,中国との新たな宇宙開発競争によって,いきなり宇宙開発の時代がもどってきてる.SpaceX のスターシップ・ロケットのプラットフォームがいかに革新的だったのかって話を,Casey Handmer がすばらしい長文記事にまとめてる

    Starship は重要だ.ステロイド増強されたような他のロケットとちがって,たんにめちゃくちゃ大きなロケットなだけじゃない.こいつは,ロケット工学の「聖杯」を手に入れようとして根気強く熱意を注ぎ続けた試みなんだ.そして,その聖杯とは,大量生産できる迅速かつ完全に再利用可能な軌道クラス・ロケットだ.

    歴史を振り返ると,ミッション/システム設計は,とんでもなく厳しい質量制約に悲しいほど苦しめられてきた.(…)その結果,Starship 以前につくられた宇宙船には,産業革命前につくられた鋼鉄製の武器に少し似てるところがあった.(…)Starship は質量制約を消し去る.質量制約のせいで宇宙船設計者の精神に刻み込まれていた文化的しがらみはこれで一掃される.(…)

    Starship なら,アルテミス計画の全体でずっと使えるだろうし,おそらく,アルテミス計画が継続された場合には実際にそのように使われるだろう.それどころか,Starship であれば,地球から月へ,月から地球へと,おそらく100倍もの積み荷を同じ年間コストで運べるだろう.それはつまり,ちっちゃな 10 T クルー用居住環境を2つか3つつくるのではなくて,1000人が居住できる基地を1年~2年で建設して立ち上げるのが現実的に可能だってことだ.

    これは,すばらしい偉業(火星基地建設!)を達成する可能性を秘めているだけじゃない.宇宙開発からすすめて,観光旅行や研究ひいてはもしかすると資源採掘も含めて現実的な営利活動をやる可能性すら秘めている.それに,当然だけど,現状を大きく変える軍事面の応用もできる.そして,SpaceX がもたらしつつある宇宙開発での革命は,Starship だけじゃない.さらにもうひとつ,Starlink もある.Starlink の衛星ネットワークは,全世界のインターネットをいまよりはるかに効率よく安定したものへとすぐにも変えうるし,権威主義政府でどこかの地域のインターネット接続が閉ざされても,これによってシャットダウンを回避できるようになる.

    (あと,暗号通貨に言及すらしていない点に注意.これはいずれあらためて記事にしよう.)

    いま挙げてきた例は,世界を変えうる大物テクノロジーの潮流のなかでもとりわけぼくが意識してるものだ.でも,おそらくはぼくが見過ごしてしまってる重要な事例や可能性を秘めた事例もあるだろう.コメント欄で気楽におしえてほしい.

    ともあれ,要点はこれだ:いまこのとき,新しいテクノロジー革命がなにかひとつ夜明けを迎えようとしてるんじゃなくて,いくつかの革命が同時に夜明けを迎えようとしてるのかもしれない.そうした革命は,一種のツリーを形成してる――工業テクノロジーによって情報時代に入るための鍵がはずれたのと同じように,コンピュータ・インターネット・人工知能によって他の多数の分野で急速な進歩が可能になってきている.そして,そうした分野が成熟するとともに,新しい扉がまた開かれる.

    2020年代は,きっとすごくイカした時代になる.


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