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ピーター・ターチン「コロナウイルスと我らの不和の時代」(2020年4月5日)

Coronavirus and Our Age of Discord
April 05, 2020
by Peter Turchin

〔訳注:「不和の時代」とは本エントリの執筆者であるピーター・ターチンが創始した学問分野クリオダイナミクス(歴史動力学)に基づいて提唱されている時代区分のことである。ターチンは大規模な文明社会は、人口動態・エリートの過剰競争等が原因となり、内乱・内戦等を伴う「不和・諍いの時代」に至ると提唱している。そしてアメリカ合衆国は2020年前後から「不和の時代」を迎えると10年以上前から予測している。〕

このブログの読者ならよく知っているだろうが、私は自分を預言者とは主張していない。なんにせよ預言は過大評価だと思う。ただ私は予測を行う。なんらかの科学的予測は、預言のようなものではない。科学的予測は未来についてではなく、理論に基づいている。それは、世界がどう機能しているのかについて、我々の理解がどのくらい優れているのかを明らかにする方法だ。2013年に投稿した『科学的予測≠預言』で詳しく解説している。

この考え方の一般例として、私が2008年に公開した論文で最後の段落に書いたものを以下で紹介してみよう。


我々が今棲息している現行のグローバリゼーションに関して、これまでの歴史から得られる教訓は何かあるだろうか? 私はあるだろう思うが、2つの非常に重要な注意点がある。1つ目が、本章を通して繰り返し強調してきたように、過去の世界システムの周期性に関する根底要因については、我々はまだ非常に大雑把な理解しか持ち得ていないことだ。歴史の教訓が一体何であるのかを見つけ出すまでには、もっと多くのモデル化と実証研究を必要としている。2つ目が、世界は過去2世紀の間に劇的に変化してきたことだ。したがって、工業化以前のグローバリゼーションについての我々の理解を、機械的に敷衍させても、現行のグローバリゼーションについての予測を行うことはできない。モデルを現在世界に適応するためには、大幅に修正する必要があるだろう。それでも、20世紀のグローバリゼーションに関する経験的動向の中には、過去に起こったものと驚くほど似ているものがいくつかある。最も明白なものだと、20世紀後半の爆発的な人口増加(とこの10年の減速)の時期がそうだ。これ〔この爆発的増加と減速〕は、世界人口がピークに近づいてる可能性を示唆している。疫学の面だと、ヒトの新興感染症は、20世紀の間に劇的に増加し、1980年代にピークに達している(Jonesら2006)。コレラの発生率は増加傾向にある(図11)。エイズのパンデミック(図11)は、ずっと脅威を与えてきたが、今後到来するもっと悪質な病気の前触れかもしれない。こういった動向や、他の動向(例えば、過去20年間の世界的な富の分配における不平等の拡大)は、過去のグローバリゼーションについて研究することが、純粋に学問的な課題だけでない可能性を提起している。

良くも悪くも、私が行ってきた一連の予測は、最終的に実現する傾向がある(もちろん、最大の予測は「2020年代の政治的暴力に関する定量的予測」だ)。12年前に「もっと悪質な病気が到来する」と書いた時、私はCOVID-19は念頭外にあったし、構造人口動態危機に関する別の圧力がピークに達しつつある2020年にCOVID-19がちょうど同時発生するすることも念頭外にあった。正確に言えば、この〔2008年の悪質な病気の到来〕予測は、説得力がある長期的な歴史のパターンに基づいている:大規模なパンデミックは「不和の時代」の渦中に起こる傾向があるというものだ。詳細は、2008年の論文を見てほしい。以下で、この論文の主なアイデアを専門的でない方法で要約してみよう。

危機の前段階では、パンデミックの発生と拡大の可能性を上げている一般的な傾向がいくつか存在している。最も基本的なレベルでは、持続的な人口増加による人口密度の上昇であり、これはほとんど全ての病気の基本再生数を上昇させる。もっと重要なのは、人口過剰による労働力の過剰供給が、ほとんど人の賃金と所得と押し下げることだ。窮乏化は、(特にその生物学的側面で)人の病原体を撃退する能力を低下させる。職を求めて移動する人が増え、都市への集住が加速することは、病気の下地となる〔細菌やウィルスを〕増殖させることになる。地域間の移動が活発化することは、病気の都市を跨いでの移動が容易となる。

エリート達は、労働者の低賃金化による所得の上昇を享受しており、その増えた所得をエキゾチックなものを含む贅沢品に消費することになる。これは、長距離貿易の原動力となり、世界の離れた地域をより緊密に結びつけることになる。私の2008年の論文では、このプロセスを主に扱っている。我々はこのプロセスを「前近代的グローバリゼーション」と呼んでいる。このプロセスの結果、例えば中国で発生した非常に攻撃性の高い病原体が、またたく間にヨーロッパに飛来することが可能になる。

最後に、危機が勃発した場合、それは内戦のうねりを引き起こすことになる。兵士・反政府主義者・追い剥ぎによる匪賊集団は、大領域を横断することで、病原菌を広範に広める培養器と化す。

上記の記述は、前近代(そして近代初期)の不和の時代に当てはめたものだ。2020年の今日だと、細部は異なっている。しかしながら、グローバリゼーションと民衆の窮乏化を主に推進しているものは、今日でも変わらない。

私は2008年の論文で、グローバリゼーションの過去の潮流(初期の潮流は世界全体よりも、アフリカ・ヨーロッパに主に影響を与えたので、「ヨーロッパ大陸化」と呼ぶべきかもしれないが)について論じている。青銅器時代から中世後期までのグローバリゼーション、様々な危機、パンデミックの間には、非常に強い(完全ではないが)統計的関連性がある。アントニヌスの疫病、ユスティニアヌスの疫病、黒死病といった過去の有名なパンデミックは全て長期に渡る永年〔世代交代に基づく人口動態〕危機が(大抵は永年危機自体が引き金となって)同時発生していた。

〔危機を引き起こす〕条件が全て揃った最近の2つの危機(17世紀と諸革命期の危機)は、その渦中においては紛うことなき世界的なものだった。我々が保持する近世期のデータがもっと改善されれば、この2つ危機の渦中のパンデミックをより定量的に解析できるようになるだろう。

最初のサイクル〔17世紀の危機〕では、再来するペストが追跡分析されているが、アメリカ大陸が麻疹のような病気によって荒廃したことでも補足されるべきだ。次のサイクル〔諸革命期の危機〕では、コレラのパンデミックが繰り返しもたらされている。”Encyclopedia of Plague and Pestilence(『伝染病と疫病の大百科事典』)“によると、1849年のコレラの大流行はアメリカの人口を最大10%奪っている。そして、1919年に流行したスペインインフルエンザのパンデミックを忘れてはならない。

そして今や、我らの「不和の時代」がそのパンデミックを得たようようだ。


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