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ピーター・ターチン「トランプと潜在大衆動員力――エリート過剰生産の果て」(2016年4月21日)

Donald Trump and Mass Mobilization Potential
April 21, 2016 by Peter Turchin

 前回の記事では、エリートの過剰生産がいかに政治的不安定性をもたらすかについて話をした。数が固定されている政治的地位を巡って多すぎるエリート志望者が競争することは、つまり地位と権力の追求に挫折する人数が大きく増えることを意味する。そのうちの何%かは過激化し、既存エリートを引きずり下ろして社会的秩序を転覆させるべく積極的に働く「対抗エリート」へと変貌する。

 とはいえ対抗エリートの数は少ない。彼らは優れた組織者であるがゆえに危険だが、彼らが社会秩序を覆そうと努力するためには、構造的人口動態(SD)理論の第2の構成要素――高い潜在大衆動員力、つまりMMP――が必要になる。MMPは非エリート、つまり所謂99%[訳注:最も裕福な1%以外の人々]が享受している(もしくはしていない)ウェルビーイングの動向にかかってくる。米国の経済学者リチャード・イースターリンと彼の生徒たちの研究が示しているように、重要なのはウェルビーイングの絶対水準ではなく、ある世代から次の世代にかけてそれがどのように変わったかだ。人々の中で(政治的暴力の源として)最も危険な年齢グループである20代の面々について考えよう。彼らは自分たちが達成した、あるいは達成できるであろう標準的な生活の質を、両親のそれと比較する。もし彼らの生活の質が低ければMMPは上昇し、逆なら低下する。

 さて、この30~40年の間、アメリカ人の平均的なウェルビーイングは劣化している。この点を証明する多数の――経済的、生物学的、及び社会的な――証拠を、私は持っている。直近10年間、非エリートたちのウェルビーイングの低下は著しく、真面目な人物ならそれに反論はできないだろう。

 それを証明する統計も、人々もいる。私は友人の息子、率直に言うと米国人の中でも銃を携えたレッドネック[訳注:貧困白人層]たちの1人と、興味深い議論をしたことがある。彼は白人で、大学教育を受けたことはなく、兵役経験者だった。別に野心的ではなかったが、よき労働者であった。にもかかわらず、彼は仕事に就けたり就けなかったりする状態が続いていた。例えば昨年、彼は電動ボート会社に納品している工場で仕事をしていたが、そこを辞めた。なぜか? 時給が12ドルだったからだ。これはかつての1970年代まで遡る(インフレ調整後の)最低賃金より少ない。

 彼とその仲間たちは、射撃練習場でいろいろな攻撃用の武器を撃った後で、ビールを飲みながら他の話も含め政治の話をした。当然ながら彼らは全員トランプ支持者だった。やつが特段好きだからではない。政治献金をした者よりも彼らの方の機嫌を取った、唯一の人物だったからだ。

 彼らは愚かなのではなく、学がないだけだ。トランプが選挙[訳注:2016年の大統領選]に勝てそうにないことくらい、彼らは完全に理解している。もしトランプがクリントンに負けても、彼らは受け入れるだろう(実際にはそうなると予想すらしている)。だがもし他の共和党候補者――例えばテッド・クルーズ――が候補指名を盗み取るようなことがあれば、彼らは大いに憤慨するに違いない。

 私は別に、ドナルドが共和党候補指名の獲得に挫折すれば次に革命を組織し始める、と予想しているわけではない。むしろ2016年の選挙における彼の「予想外」の成功こそ、米社会の深い構造的なシフトを示すいい指標だと思っている。わけてもエリートの過剰生産と、大衆の生活苦という双子の問題は、年々悪化している。トランプは原因ではなく、症状なのだ。


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