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ピーター・T・リーソン 「西欧世界における魔女狩りの今昔」(2018年9月1日)

Peter T. Leeson, “Witch hunts in the Western world, past and present“, (VOX, 01 September 2018)


トランプ大統領は、2016年大統領選挙でのロシア疑惑をめぐるロバート・ミュラー特別検察官による捜査は 「魔女狩り」 だとことあるごとに言挙げする。本稿では、この現在の 「魔女狩り」 にもヨーロッパの 「魔女狂騒」 にも、その背景に競争がある可能性を論じてゆく。競争は、今日では民主党と共和党のあいだに; 16世紀と17世紀のヨーロッパでは、ポスト宗教改革期のキリスト教世界におけるカトリシズムとプロテスタンティズムのあいだにあった。

「魔女狩り ([w]itch hunts)」- 悪の勢力を、それが本物なのか想像上のものなのかにはお構いなしに摘発し、その追放ないし撲滅をめざす – は、西洋史に繰り返し登場するテーマだ。今日では、ドナルド・トランプ大統領ないし彼の擁護者の誰かが、2016年合衆国大統領選挙をめぐるロバート・ミュラー特別検察官による 「ロシア疑惑」 捜査は 「魔女狩り」 だと言挙げしないうちに終わる日は殆ど無いかのごとくである (Paschal 2018)。四百年前も、誰か西ヨーロッパにいる人が、こちらは譬えでなく本物の魔女であるとの嫌疑で当局によって摘発・訴追されずに終わる日は殆ど無いかのごとくだった。そして驚くべきことに、これら魔女狩りはいずれも、ひとつの同じ力の所為で生じたのかもしれないのだ: その力とは、すなわち競争である。

通説的な意見が久しく主張してきたところ、1520年から1700年にかけて少なくとも40,000名の人命を奪い、訴追をうけた人の数ではその二倍にも及ぶヨーロッパの 「魔女狂騒 (witch craze)」 は、悪天候に端を発するものだったといわれる。そう考えるべき理由も無い訳ではない: ヨーロッパの魔女狩りは 「小氷期 (Little Ice Age)」 と重なる時期に起きた。この時期をとおし、気温の低下が穀物に被害を及ぼし、従って市民にも経済的被害が出たのだが、不満を抱えた市民がスケープゴート探しに繰り出すことはしばしばある – そのスケープゴートが16世紀17世紀には、文字通りの魔女だったという訳である。Emily Oster (2004) はこの仮説を実証的に調査した初の研究だが、1520年から1770年にかけて11のヨーロッパ地域でおこなわれた魔女裁判に関するデータを活用した彼女の同研究では、悪天候説を支持する事項が確認されている。

だが、母なる自然が誘発した災難、例えば悪天候に端を発するそれが、ヨーロッパにおける魔女狂騒の発生について有責であるなどということが本当にありうるのだろうか? 穀物不作・旱魃・疾病は、魔女狂騒以前にも未知の出来事どころではなかったのである。例えば14世紀前半には、大飢饉 (Great Famine) がドイツ・フランス・ブリテン諸島・スカンディナビア半島の人口を根こそぎにした; しかし魔女狩りは起きなかった。さらに付言すれば、16世紀から17世紀にかけてのヨーロッパにおいては近隣地区のあいだでも天候が劇的に異なっていた、などということはないだろうが、魔女問題で訴追された人の数にはしばしばそうした異なりがみられたのである。

そこでジャコブ・ルスと私の最近の論文のなかでは、過去の歴史におけるヨーロッパの魔女狩りについてこれとは異なるひとつの原因を仮定している: ポスト宗教革命期のキリスト教徒世界にみられた、カトリシズムとプロテスタンティズムのあいだの競争である (Leeson and Russ 2018)。歴史上はじめて、宗教革命は多数のキリスト教徒に一個の宗教的選択肢を与えた: 旧い教会の固守か、新しい教会への乗り換えか。然るに協会に通う人達が宗教上の選択をおこなうようになれば、教会間での競争が生じざるをえない。

競争相手に対処する方法としては、相手を法律で禁制にしてしまうのがひとつの手である; ほかには暴力による圧殺というのもある。カトリック教会は競争相手たるプロテスタントに対しこれら両手段を試みたのであるが、成果は乏しかった。マルティン・ルターによる九十五ヶ条の論題からはや数年のうちに、市民のあまりに多くが、またさらに重要な点だが、キリスト教世界における統治者のあまりに多くが、すでに改宗者となっていた。カトリックの牙城であるスペイン・イタリア・ポルトガルといった国の外では、多くの統治者が異端審問によるプロテスタント競合力の鎮圧に乗り気でないことが判明したのである。

そこで教会は自らの市場シェアを維持するために別の手を打たねばならなくなった。教会が取った方策は、当時魔女信仰がポピュラーだったことに鑑みれば驚くには足りないものだったし、相手のプロテスタント側もこれを即座に模倣したのである。すなわち、信者を勧誘するための活動の一環で、互いに競合する宗派は、自分の方が現世におけるサタンの邪悪の顕現から市民を守る能力に優れていることを世に知らしめるのに、魔女の嫌疑のある者の訴追を以てしたのである。現代の共和党と民主党が選挙期間中に政治的激戦区で未だ心を決めていない投票権者の帰属心を取り込むキャンペーン活動を重視しているのと似て、過去の歴史におけるカトリックとプロテスタントの有職者も宗教改革期および反宗教改革期には、宗教的激戦区での魔女裁判活動を重視し、未だ心を決めていないキリスト教徒の帰属心を取り込もうとしたのである。

魔女の嫌疑が掛かけられた者40,000名超をふくむ新たなデータの分析をつうじて – これら人物の裁判は、ヨーロッパ21ヶ国で、千年紀で計ればその半ばを超える長さ (1300年-1850年) にわたって行われている -、ルスと私は、宗派戦争で計測するかぎり宗派間競争が激しかった時と場所ほど、魔女裁判活動も激しかったことを突き止めた。これと対照的に、悪天候には裁判活動との関係が全くみられなかった。

図 1 ヨーロッパの魔女問題, 1300-1850

我々のデータは、魔女狂騒が1517年のプロテスタント宗教改革ののちになって初めて、この新たな信仰の急速な広まりを追う形で進行したことを浮き彫りにする。魔女狂騒は1555年前後から1650年前後にかけて最高潮を迎えたが、これら年月は消費者たるキリスト教徒の獲得をめざす競争が最高潮を迎えた時期と重なる形で存在している。カトリック反宗教改革がその証拠だが、この反改革期にカトリックの有職者は、プロテスタントがキリスト教徒の改宗に収めた成功に対し、多数のヨーロッパ地域にわたりアグレッシブに反撃した。ところがその後1650年頃になると魔女狂騒は垂直降下的な衰退を始め、魔女問題での訴追は事実上1700年までに姿を消してゆく。

17世紀中頃に魔女狂騒を停止させたものの正体は何なのか? ウェストファリア条約 (Peace of Westphalia)。1648年に締結されたこの条約が、カトリックとプロテスタントのための恒久的な領土的独占圏の創設によって、数十年続いたヨーロッパの宗教戦争とその契機たる宗派競争の多くに終止符を打ったのである。この恒久的な領土的独占圏というのは、排他的支配権の及ぶ地域をさし、そこでは一方の宗派が他方宗派の競合力から保護されることとなった。

ルスと私の提唱する仮説は、魔女狂騒が地理的に集中していたはずであること、すなわちカトリック-プロテスタント対立が最も強烈なところが拠点となるとともに、その逆もまた真であることも予測する。そして実際にその通りだった。ドイツだけで、この宗教改革の爆心地たる国だけで、ヨーロッパにおける全ての魔女問題訴追事例の40%近くを占めていたのである。これと対照的に、スペイン・イタリア・ポルトガル・アイルランド – それぞれ宗教改革後も教会への帰属心を堅持するとともに、プロテスタンティズムとの容易ならぬ競争がついに見られなかった – は、全部合わせても、魔女問題で裁かれたヨーロッパ人のたった6%を占めるにすぎない。

恐らく、いまトランプ大統領が、自分と関係者が曝されていると主張する 「魔女狩り」 なるものも、なにか同じ様な、競争-駆動型の現象の反映なのではなかろうか。トランプが大統領選挙に勝った事実に不満で、彼の弾劾を欲しているが現時点ではそれが不可能であるので、民主党指導層は別の手法を奨励しているのだ: 任務遂行につなげるべく、トランプと関係者の 「汚点 (dirt)」 を掘り出せ、と。何も出てこなくとも、少なくとも選挙民は 「悪の根絶 (rooting out evil)」 に対する指導層のコミットメントを信じてくれるだろう。それは次期選挙において共和党に対し一歩先んずることにつながる。

それに次のような並行点もある: カトリック教会は、16世紀の宗教市場競争に直面するまで殆どの場合に魔女裁判の実行を避けてきただけでなく、15世紀の始まりまでは魔女の実在性そのものを否定していた。恐らくこれと同じ様な話だろう、いまや 「ロシアの魔女」 がアメリカ政治に魔法をかけていることを確信している民主党指導層も、1950年代のジョセフ・マッカーシーによる 「魔女狩り」 を非難し、「赤い魔女」 の実在性を否定していたのである。どうやら魔女の実在性すら、競争によって左右されてしまうようだ。

参考文献

Leeson, P T and J W Russ (2018), “Witch Trials”, Economic Journal 128: 2066-2105.

Oster, E (2004), “Witchcraft, Weather and Economic Growth in Renaissance Europe”, Journal of Economic Perspectives 18: 215-228.

Paschal, O (2018), “Trump’s Tweets and the Creation of ‘Illusory Truth”, The Atlantic, 3 August.

 


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