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ホアン・コスタ=イ=フォント他「労働時間と肥満」

Joan Costa-i-Font, Belén Sáenz de Miera “Working hours and overweightVOXEU, 20 October 2019  

労働及びそれに関連する時間と仕事中に消費されるエネルギーの変化は人々の健康維持に大きな影響を及ぼしうる。しかしながら,こうした変化が健康的な行動や肥満に与える影響はあまりよく理解されていない。本稿では,2001年にフランスが全国的に行った労働時間削減の改革が従業員の肥満に与えた影響について検討する。労働時間の削減によって生まれた時間は,理論的には健康増進活動に使われうるものの,実際にはホワイトカラーとブルーカラーでその影響は異なる。労働時間を削減する政策のみでは,かならずしもすべての人の健康を増進するとは限らないのである。


世界における肥満と肥満気味の人の数は,省エネ社会及び経済的な変化と関連している(Cutler et al. 2003)。社会の急速なグローバル化(例えば,移動時間,文化,コミュニケーションの変化)は,経済の相互依存といったこと以上に,健康状態や個人の体形に影響のある健康上の行動の変化と関連している。これは「グローベシティ[グローバル+オベシティ(肥満)]」という造語にもなっている(Costa-Font and Mas 2016)。

こうした社会的な変化のひとつとして,雇用条件,そしてその中でも特に労働時間が挙げられる。労働時間内に消費される時間とエネルギーは,人々の健康維持に大きな影響を及ぼしうる。OECD (1998)をはじめ,多くの機関が労働時間の全般的な下落傾向を指摘している。しかしながら,労働時間が健康的な行動や,特に肥満に与える効果はあまりよく理解されていない。

長時間労働が肥満に与える影響に関するもっともよくある説明は,ストレス反応や残業による劣悪な生活スタイルに焦点を与えている。しかしながら,ホワイトカラーの座りっぱなしのライフスタイルやブルーカラーの立ち仕事における変化からはこれとは別の効果が生じうるし,特に時間制約の変化は健康的な生活スタイル(新鮮な食べ物を料理したり,エクササイズをしたり等)に乗り出す機会費用も変化させる。

労働時間と健康の理論と証拠

健康への需要 (Grossman 1972)の観点からは,労働時間の伸びは料理や予防的健康管理といった健康的な活動に個人が費やす時間の量を制約することを経済原理が示唆している。従業員は過剰な労働時間を脂肪・糖分の消費の増加やエクササイズの減少で埋め合わせるのだ(Oliver and Wardle 1999)。

一方,労働時間の増加は所得効果,すなわち労働者の所得の上昇をもたらす可能性があり,これは健康商品に投資されうる。しかしながら,所得効果はホワイトカラーとブルーカラー労働者で異なるかもしれない。後者にとって,仕事を通じたエクササイズが重要なエクササイズの源であるかもしれないのだ。したがって労働時間の減少がプラスの健康投資効果を生み出さないかもしれないのだ。

健康に対する労働時間の効果は複合的なものだ。Ruhm (2005)は,労働時間数の減少はアメリカ人の健康にとってプラスの効果があるとしている。同様に,時間の使い方に関する調査に基づいたHammermesh (2010)は,食事に費やされた時間数と一日のうちいつ頃食事をとったかは体重と自己申告による健康状態に影響を与えるとしている。したがって,時間制約を緩めることは健康増進をもたらし,個人がエクササイズを増やしてカロリー摂取を控えるという生活上の欲求に個人がうまく対応することを可能とするはずだ。しかしながら,そうした仮定の因果性検証を行うにあたっては,対象グループにおける労働時間の外的な変化が必要となる。

さらに,労働時間の減少はかならずしも国民全体に均一的な効果をもたらすわけではない。ブルーカラー労働者は日々の労働時間が減ることの恩恵を被るかもしれないが,それと同時に彼らは運動の源をひとつ失うかもしれない。それとは対照的に,ホワイトカラー労働者は,自由な時間が増えることで恩恵を受け,とくにそうして得られた追加的な時間を健康的な活動に費やすかもしれない。とはいえ,ホワイトカラー職はより雇用が柔軟である傾向にある。

オーブリー改革からの証拠

健康に対する労働時間の効果に関する証拠の一つは,労働時間改革から得られる。2000年代初頭にフランスで実施されたオーブリー改革は,週の労働時間を39時間から35時間に,年間にして184時間引き下げた。Askenazy (2013)は,この改革によって1995年から2003年にかけて全体として労働時間は7%減少したと推定しており,それに対して同期間におけるその他のEU地域での減少幅は3%だった。

私たちの研究(Costa-Font and Saenz de Miera 2018)では,労働時間の変化が肥満に与える因果効果を調べるため,歴史的な理由で祝日が2日多いことから労働時間短縮政策の効果が国内他地域よりも少ないアルザス=モゼルという一地域に焦点を絞り,差分の差戦略を用いている1。 私たちは,全国に1年先駆けて2000年に週35時間労働を導入したEDF(フランス電力)及びGDF(フランスガス公社2 )の従業員を追跡調査しているGASELコホート(フランス国立衛生研究所)の1997年から2006年にかけての時系列データを用いた。さらに,私たちはブルーカラー労働者とホワイトカラー労働者の間の効果の違いも探った。

証拠

私たちは,実験群地域(週35時間労働が完全に実施された地域)においては,対照地域(アルザス=モゼル)と比較してブルーカラー労働者が肥満気味になる可能性が6.7%ポイント高いことを見出した。労働時間の減少は余暇の増加ではなく児童保育の外部委託を減らすことに用いられた。配偶者が働いている場合に肥満気味が減少したこともそれと整合的である。労働時間の減少は,健康状態の自己申告のおいてわずかに時間の使い方(intensive margin)の悪化をもたらした。これらの結果は,おのフランスの改革についてのその他の証拠とも整合的である。

政策的含意

労働時間を削減する政策のみでは,環境が変わる(個人がより多くの休日をとる)ことがなかったり,仕事に関連した肉体活動が主要なエクササイズの形態である人々(すなわちブルーカラー労働者)に対して正反対のインセンティブを生んでしまうことから,かならずしもすべての人の健康を増進するとは限らないことを全体として証拠は示唆している。

対照的に,標準的な体系である人たちなど特定の集団においては,一定の健康効果が見られた。ありうべき政策的解決のひとつとしては,労働時間の短縮を追加的な余暇時間を健康増進的な活動に用いるようなインセンティブと組み合わせることが考えられる。

参考文献

●Askenazy, P (2013), “Working time regulation in France from 1996 to 2012”, Cambridge Journal of Economics 37: 323–347.

●Costa-Font, J, and N Mas (2016), “‘Globesity’? The effects of globalization on obesity and caloric intake”, Food Policy 64: 121-132.

●Costa-Font, J, and B Sáenz de Miera Juárez (2018), “Working times and overweight: Tight schedules, weaker fitness?”, CESifo Working Paper No. 7174, Center for Economic Studies and Ifo Institute (CESifo), Munich.

●Cutler, D M, E L Glaeser and J M Shapiro (2003), “Why have Americans become more obese?”, The Journal of Economic Perspectives 17(3): 93–118.

●Hamermesh, D (2010), “Incentives, time use and BMI: The roles of eating, grazing and goods”, Economics and Human Biology 8: 2–15.

●Oliver, G, and J Wardle (1999), “Perceived effect of stress on food choice”, Physiology and Behavior 66: 511–515. 

●Ruhm, C (2005), “Healthy living in hard times”, Journal of Health Economics 24(2): 341–363.

  1. 訳注:この個所は原文に脱落があると思われ,必ずしも意味が明確ではないが,元論文によれば歴史的理由によってフランスの他地域よりも2日祝日の多いアルザス=モゼルでは年間労働時間の減少幅が国内の他地域より少ないことを利用して労働時間の減少の効果を推定した模様であり,それを踏まえて原文を補った。 []
  2. 訳注;現Engie []

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