アレックス・タバロック 「『ドクター・フー』とともに時を超えた旅へ」(2009年12月4日)

●Alex Tabarrok, “Time Travel with Doctor Who”(Marginal Revolution, December 4, 2009)


私が10歳か11歳のちびっ子だった頃の話だ。その当時、私の家族はイングランドにある小さな町に住んでいたのだが、学校から自宅まで続く田舎道をブラックベリーをモグモグしながら下校していたことを思い出す。父親と一緒にテレビで『ドクター・フー』(Doctor Who)〔日本語版のウィキペディアはこちら〕を見るのがお決まりになっていたが、それもいい思い出だ。「ドクター」の身の回りでは、毎週のようにミステリー(不思議な出来事)や危険な出来事が巻き起こる。ストーリーが進むにつれて緊迫度が徐々に高まり、それにあわせて私の胸も高鳴るばかり。しかし、「ドクター」の前に突如として憎っくき「サイバーマン」――最悪の場合は、「ダーレク」――が立ちはだかるや、私はもう怒り心頭だ。そして、至極当然の流れだが、ちょうどそこで番組が終わる。「なんてこったい!」と頭を抱えてもがき苦しむ私。次回の放送が待てずに、ベッドの中で悶々とした夜を過ごす日々が一週間続く。「『ドクター』は無事に生き延びることができるだろうか?」とあれこれ想像をめぐらせながら、恐怖で身震いせざるを得ないのだ。

トム・ベイカー(Tom Baker)演じる4代目の「ドクター」が私にとっての「ドクター」(“My Doctor”)だ。彼のトレードマークといえば、首に巻かれている物凄く長いスカーフだが、当時の私はそのスカーフにすっかり惚(ほ)れ込んでしまった。祖母にそっくりなスカーフを編んでもらって、どこに行くにもそのスカーフを首に巻いていたものだ。『ドクター・フー』のことなんて誰も知らないカナダに引っ越してきた後も、私の首にはそのスカーフが相変わらず巻かれ続けていたのだった。

つい最近になって、再び『ドクター・フー』を定期的に見るようになった。最新のシリーズでは、デイヴィッド・テナント(David Tennant)が10代目の「ドクター」を演じている。私の個人的な意見だが、テナントはベイカー以降では一番のはまり役だと思う。

david-tennant-in-his-doctor-who-role-257x300父親と一緒に『ドクター・フー』を見ていたあの頃から四半世紀以上が経っているわけだが、今は息子と一緒に『ドクター・フー』を見ている。上のお兄ちゃんは(あの頃の私と同じく)10歳から11歳の年頃のちびっ子だが、「ドクター」が色んなミステリーや危険な出来事に立ち向かっていく姿を見て胸を高鳴らせている。「ドクター」が絶体絶命のシーンで番組が終わると、「なんてこったい!」と叫びながら椅子から跳び上がり――どこかで見た光景だ――、しばらくすると「世の中はそんなに簡単じゃない」と自分を落ち着かせている。

最新シーズンの最終回では、かつての仲間だった「サラ・ジェーン」が再登場する。30年近く前に「ドクター」(4代目のドクター) と苦楽をともにしたあの「サラ・ジェーン」が再び「ドクター」(10代目のドクター)の仲間に加わったのだ。その「サラ・ジェーン」を演じているのは、あの頃と同じ女優(エリザベス・スレイデン)――私と同じだけ年を重ね、私と同じように老けている――。父親と一緒に『ドクター・フー』を見ていたあの頃のように、息子と一緒に『ドクター・フー』を見ていると、時間や年齢のことに思いを馳せずにはいられない。子供の頃に抱いていた夢は、どのくらい実現されたろう? 居間は薄暗く、テレビから漏れる光がちらついている。まるでターディスの内部にいるかのようだ。息子と一緒に『ドクター・フー』を見ている私は、タイムマシンに乗って時間旅行に出掛けているのだ。

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