経済学101は主に皆様の寄付によって賄われています。温かい支援をお待ちしています

ポール・クルーグマン「お金の真の意味とやらに惑わされて:金融政策無効論のおはなし」

Paul Krugman, “Fixated on the True Meaning of Money,” Krugman & Co., September 19, 2014.
[“Money in a Time of Zero,” The Conscience of a Liberal, September 3, 2014.]


お金の真の意味とやらに惑わされて

by ポール・クルーグマン

CUMMINGS/The New York Times Syndicate

CUMMINGS/The New York Times Syndicate

ぼくが昔 MIT で教わったチャールズ・キンドルバーガーは,よくこう言ったものだ――国際通貨についてあんまり長く考え続けると,あたまがおかしくなっちゃうぞ.彼が言わんとしてたのは,ドルの国際的な役割についてだんだん強迫観念に駆られはじめて,それこそが世界で最重要なことだと思うようになっちゃうってこと――ほんとはドルの国際的役割なんて些細な問題なのに,ものすごく重要視するようになってしまうんだ.

彼は言わなかったけど,ちかごろ一目瞭然なように思えることがある.それは,お金全般についてあんまり長く考えすぎると,それと似たようなことが起こるってこと――具体的には,お金の真の意味を探り出して,貨幣供給の真の尺度を見つけ出そうとしてると,そうなるように思える.そういう人たちは,経済学のあらゆることは,ひとえにそのお金の真の尺度を正しくとらえることにかかってると信じるはめになる.ほんとは,そんなことありゃしないのに.

そうやってイカレちゃうケースには,とある変種がある.経済学者のサイモン・レン=ルイスフランセス・コッポラがそれぞれにブログで書いた文章を読んで,その変種のことをぼくも考えた.(レン=ルイスもコッポラも,そういうかたちでイカレてはいないけれど,イカレてる人たちのことにそれとなく触れている.) さて,その変種とは,こんな具合のブーメラン気味な立場だ――「お金は明確に定義できないし,貨幣乗数は定まっていないので,金融政策は意味がない」 これは,「お金を刷れば」直接にインフレにつながるって考える単純な貨幣数量説とおなじくらい,まちがってる.

たしかに,ぼくらが生きてるのは,金融政策無能の時代だ.あちこちの中央銀行が,経済をインフレに戻そうと試みていながら,うまく成功できずにいる.ただ,ここで1つ大事なことを気に留めておかなくちゃいけない――縮小的な金融政策は実に見事に機能してくれちゃってる:そろそろ金利を上げるべき頃合いだと間違って判断した中央銀行は,どこも,まさにそれを首尾よく成し遂げててる.自分たちの過ちに気づき,方針を転換する前にね.

「でもさー,とてつもなく増えたクセにマネタリーベースが経済に大したことができないでいるのはどうなのさ? それに,あれこれ多岐にわたるお金の尺度に動きはない点はどうなの? これって,金融政策に意味がないってことじゃない?」 いんや,ぜんぜんちがうね.マネタリーベースが意味を持たないってのは,一般的に言えることじゃない.これは,流動性の罠にはまってるときに起こることなんだ――金利がゼロ下限にあるときに起こることなんだよ.べつに,後知恵でこう言ってるんじゃない.ずーっとさかのぼって1998年に,ぼくは日本における流動性の罠を分析して,まさにこのつながりの欠如を研究論文で予測してる(PDF日本語訳):

「金融仲介業を流動性トラップの枠組みに入れて考えると,(…)こうした状況で通貨集計量 [monetary aggregate] に目を向けるのは誤解のもとになりやすいのがうかがい知れる:流動性の罠のもとでは,中央銀行は広義の通貨集計量を増やせなかったり,マネタリーベースを増やしていってもたんにリザーブや現金保有が増えるだけだったりするだろう.すると,通貨集計量は金融政策の姿勢を測るのに適した指標ではもはやなくなるし,通貨集計量がいっこうに増えないからって『銀行セクターに本質的な問題があるんだ』ということにはならない」

ところで,「バランスシート拡大がインフレを引き起こしそこねるなんて誰も予想できなかっただろう」と言ってのける人たちにも,「クルーグマンみたいな従来型の経済学者たちはたんにお金が内生的だってことを理解してないだけだ」と主張する人たちにも,ぼくはげんなりさせられる.その理由はわかってもらえるよね.

あのさ,これはぜんぶ,16年も前に言っておいたんだよ.

「お金に明確な定義がない上に,お金の大半は金融機関でつくりだされるのだから,中央銀行は意味がない」って考え方があるけど,その手の議論なら経済学者のジェイムズ・トービンが50年以上も前に取り扱ってる.トービンが 1963年に書いた論文の冒頭2ページほどを読んでみればいい (PDF).トービンは,いま行き交ってる議論をほぼすべて見越していたんだよ.

要点はこれだ――もしも「分析的な見地から見て,なにかひどく厄介なことが起きてるぞ」とか,「近年の出来事を見れば,金融理論の根本的な再考が必要とわかる」と考えてる人がいたら,その人は基本的に注意が足りてない.トービンを読んでいたり,経済学者のマイク・ウッドフォードやぼくみたいな連中が流動性の罠について言ってきたことを読んでいたりすれば,まさにいまの状況を予想してたはずだ.

© The New York Times News Service


コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください