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ポール・クルーグマン「アルゼンチンのインフレの真相」

Paul Krugman, “The Truth About Inflation in Argentina,” Krugman & Co., November 20, 2014.
[“Inflation Truth, Really,” The Conscience of a Liberal, November 14, 2014.]


アルゼンチンのインフレの真相

by ポール・クルーグマン

Anibal Greco/The New York Times Syndicate

Anibal Greco/The New York Times Syndicate


先日,アルゼンチンに行ってきた.そのとき,MIT の「ビリオン・プライス・プロジェクト」の歴史についてアルゼンチンの人たちが知らないかもしれないことを話してみるといいんじゃないかって思った.

アメリカの「インフレの真実」論者たちのみじめなストーリーを追いかけてる人ならおそらくご存じのとおり,多岐にわたる人たちが――ヘッジファンドマネージャーの億万長者ポール・シンガーやら経済評論家ワナビーのニーアル・ファーガソンやら,etc. ――公式の統計がアメリカのインフレ率を低く見積もっているとこの数年にわたって主張してきた.これがナンセンスだってことを示す方法はいくつかあるけど,いちばんかんたんなのは,「ビリオン・プライス」データをみてごらん,って紹介することだろう(ここで参照できる).このデータは政府とは独立にオンラインのさまざまな価格から収集されている.これを見せて,「公式の消費者物価指数 (CPI) と正確に合致してるわけじゃないけど(オンラインで売買されてる財のバスケットは CPI のバスケットと異なる部分がある),大幅なズレが長く続いてる箇所なんてないでしょ」って言えばいいんだ.

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それってつまり,政府はいつだって信頼できるってこと? いやいや,まさか.

アメリカ労働統計局は清廉高潔な部署だ.統計局の仕組みについて知ってる人なら,ここにきびしい政治的圧力をかければ,その事実を世間に知られずにすませるなんて不可能だってわかるだろう.でも,いつでもどんな国でもそうなってるわけじゃない.

というか,「ビリオン・プライス・プロジェクト」は,アルゼンチンのインフレ数値に関する疑念に端を発している.2007年に,政府の疑わしい統計への代替案として InflacionVerdadera.com がつくられた.これがのちに「ビリオン・プライス・プロジェクト」につながり,さらにその派生で PricesStats も生まれた.PricesStats はいまもアルゼンチンのインフレ率推計を独立に提供し続けている.このデータによれば,なるほどアルゼンチンは政府の公認数値よりもずっと高いインフレ率になっているようだ.

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▲ 年間インフレ率(オレンジが PricesStats の数値,青が政府公式統計)

で,どういうことだろう? 基本的に,アルゼンチンは――2001年に固定為替相場制が崩壊したあとに行われた異端の政策で大いに便益を享受しつつ――あまりにも長く異端の政策を続けてしまった.そしていま,アルゼンチンは古典的な発展途上国問題を経験している.長らく赤字財政を続けるにあたって,資本市場へのアクセスがないためにこれを通貨発行でまかなったことから,持続的なインフレと国際収支問題につながった.

「クルーグマンはアルゼンチンでは赤字財政と貨幣発行が問題だと言ってるけど,それとまったく同じ政策がアメリカでは必要だと言ってる,これは矛盾じゃないか!」と叫び出す人がいたら,答えはこうだ:ええ,アメリカでは必要ですとも――だって,アルゼンチンは過熱してるのに対して,アメリカ経済はいま流動性の罠にあって持続的な需要不足に苦しんでいるんだもの.


【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する

アルゼンチン――進行中の苦難

by ショーン・トレイナー

アルゼンチンは2014年にきびしい経済の苦難を経験した.しかも,2015年まで持ち越すことになりそうだ.

アルゼンチンは7月に債務不履行を起こし,ペソの価値が急落して,景気後退がはじまり,いまにいたるまで長引いている.それに加えて,アルゼンチンのインフレ率は年率40パーセント近くにまでハネ上がっている――もっとも,この数字は政府統計では低く見積もられており,これを信頼しない国際的な観測筋は多い.

アルゼンチンが抱える問題の多くは,同国のこれまでの経済的な苦難から生じている.2002年,深刻な金融危機のまっただ中にあって,アルゼンチンは国際通貨基金 (IMF) による救済措置の条件を満たすために長期的な緊縮プログラムを開始せねばならないという見通しに直面していた.アルゼンチン当局は,緊縮プログラムのかわりに,同国の債務で不履行を起こすという選択肢をとった.これはグローバル金融エリートの怒りを招き,まもなく急激な経済の下降を引き起こした.だが,アルゼンチンはすぐに回復を果たせた.それから10年間,同国は堅調な経済成長を経験した.

しかし,2002年債務不履行の結果,アルゼンチンはいまなお国際資本市場にアクセスできないでいる.クリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル大統領は先だって政府支出を増やすにあたって,さらに貨幣を発行することでまかなった.経済学者たちによれば,アルゼンチンが髙インフレを起こしている要因の1つはこれだという.これに加えて,アルゼンチンはいまだにいわゆる「ハゲタカファンド」との対立に苦しんでいる――このハゲタカファンドとは,アルゼンチンが2002年債務不履行に関わる債務の再編に向けて行っている対策を拒否したアメリカ企業のことだ.再編を拒否されたことで,アルゼンチンは法的措置を余儀なくされ,この夏に債務不履行を起こすこととなった.これが同国の直近の債務不履行となる.

先月,IMF はアルゼンチンについて予測を公表した.それによれば,今年は 1.7 パーセントの経済縮小となり,2015年には 1.5 パーセントの縮小となるという.ロイターの報道によれば,アルゼンチン政府は今年公表していた予想で2015年の経済成長を 2.8 パーセントと見込んでいた.

© The New York Times News Service


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