経済学101は主に皆様の寄付によって賄われています。温かい支援をお待ちしています

ポール・クルーグマン「潮目は変わりつつあるけど,遅すぎない?」

Paul Krugman, “The Tide Is Turning, But Is It Too Late?,” Krugman & Co., December 4, 2014.
[“Keynes Is Slowly Winning,” November 26, 2014; “Oil Prices and Deflationary Bias,” December 1, 2014]


潮目は変わりつつあるけど,遅すぎない?

by ポール・クルーグマン

Monica Almeida/The New York Times Syndicate

Monica Almeida/The New York Times Syndicate


かつて2010年に,これから経済政策がどれほどひどいものになるか,天啓を得た.経済開発協力機構 (OECD) の「経済展望」(Economic Outlook) を読んでみたら,そこでは,財政緊縮ばかりか金利引き上げまで提言されていたからだ.しかもそう提言する理由ときたら…理由なんかべつになかったり.

さて,その OECD も,いまやヨーロッパでの財政・金融刺激策を提唱している.発言してる面子は同じじゃない:OECD の主席エコノミストはキャスリン・L・マンに変わってる.つねに実践志向のすぐれた研究をしてきた人物だ(ついでに,彼女が博士論文を書いたのは,ずいぶん昔,MIT でルディ・ドーンブッシュと小生のもとでのことだ).ただ,OECD は,今年,マン女史の選定にあたって報告を出している.ぼくの印象では,世界中で潮目が変わりつつあるように思う.

時間はかかった.2013年序盤に,例の悪名高い「90パーセント債務の成長の崖」論と「拡張的緊縮策」が崩壊するなかで,ぼくらの多くは,「これで緊縮派は追い散らされるぞ」と思っていた.だけど,ぼくらは過小評価していた.つまり,それまでの3年間ずっと言い張ってきた主張にどれほど当局が職業的な掛け金を置いているかってことを見くびっていたんだ.ある程度までは,ニュースメディアについても同様だった.それに,どんなものでも――たとえば,南ヨーロッパでのちょっとした景気回復だとか,政府がいっとき緊縮をやめたときにイギリス経済が上向いたことなんかを――とりあげて,「これぞ自説の裏づけ」と言い張る意欲も見くびっていた.そうした裏づけとやらは,現実には圧倒的なまでに証拠と食い違ってたんだけど,それでも同じことはいまでもなされている.

でも,連銀ではタカ派は退却中のようだし,欧州中央銀行総裁のマリオ・ドラギ(同じく MIT の Ph.D)が言ってることは,Fed 議長のジャネット・イェレンとおどろくほどそっくりだ.くわえて,その間ずっと,日本がすごくケインジアン側になってるってことが議論になってる.3年半前,『ビジネス・ウィーク』は拡張的緊縮を唱えるアルベルト・アレジーナを新しいケインズだと言っていた.それがいまでは,ケインズこそ新しいケインズだと言っている.それに,億万長者のヘッジファンド・マネージャーであるポール・シンガーみたいな人たちは,論争の「クルーグマン化」について不満をクチにしている.

どうしてここでようやく潮目が変わってきてるんだろう? ひとつには,たんに時間の問題だったからだと思う.反ケインジアンがあらゆる点で間違っていたのが誰の目にも見落としようがなくなってきてる.ヨーロッパがデフレにずり落ちつつある状況を見れば,流動性の罠の経済学的な仕組みの現実をいっそう否定しがたくなる.しかも,反ケインジアン側のほぼ全員がどんな種類の間違いも認めようとしない姿勢をとったことで,徐々にバカっぽく見えるようになってきてる.

いま言ったことをひっくるめても,政策的な災厄を避けるにはあまりに小さく,あまりに遅いのかもしれない.だけど,ささやかではあっても,元気がわいてくるね.

© The New York Times News Service


石油価格とデフレ・バイアス

120115krugman1-blog480

ケツの青い諸君どもは古代の歴史なんぞ知らんじゃろう.じゃがのう,はるか昔,遠く離れた銀河のどこかで――あー,いやまあ,2011年の地球でのおはなしだけど,石油その他の一次産品価格は,下落ではなく上昇していた.その結果,消費者物価指数はかなり高まっていた.ぼくらの一部は「コアインフレ率の方が金融政策の指針としてはずっとすぐれてるよ」と言っていたし,Fed も同意見だった.だけど,インフレ昂進到来派は激怒してたし,ヨーロッパでは欧州中央銀行が利上げを決定して悲惨なことになった.

さて,いま石油価格は急落している.かつて石油価格上昇をもちだして利上げの理由にしていた連中は,この石油価格下落を拡張的な政策の理由にしてしかるべきだよね?

まさか.連中は,消費者物価指数なんかに注意を払うなと言ってる.彼らに言わせると,消費者物価指数はたんに石油の問題だそうだし(実際はちがうけど),石油価格の下落は景気刺激なんだって

ってことは,石油が値上がりしてるときには,政策を引き締める理由になって,石油が値下がりしてるときには,政策を緩和しない理由になるわけだ.それでいて,ぼくが「サドマネタリズム」について話すと,みんなは「なんでそんな話を?」っていぶかるんだよね.

© The New York Times News Service


【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する

ヨーロッパで刺激策を提唱する声が強まる

by ショーン・トレイナー

金融危機のはじまりから7年近くが経ってもなお,ヨーロッパ経済は深い混迷のなかにあって,景気後退とデフレが起こりそうな状況に直面している.

ユーロ圏経済がこの第3四半期に出した成長率は年率換算で 0.6 パーセントだった.比較対象として,アメリカは 3.9 パーセントで成長している.インフレ率は11月に 0.3 パーセントを記録し,ここ5年の最低記録に並んだ.また,失業率はいまなお 11.5 パーセントのまま改善していない.多くの専門家は,デフレになれば,ユーロに加盟する18カ国はさらに数年,あるいは10年にわたって,失われた経済成長に直面することになりかねないと考えている.

これに対応して,経済協力開発機構 (OECD) はヨーロッパの政策担当者たちに危機のさらなる悪化阻止のために財政・金融刺激策を提唱している.ヨーロッパの他の組織と同じく,OECD も当初は緊縮政策を支持していた.だが,いまでは,過剰な財政引き締め策をとればヨーロッパ地域で弱まっている需要をさらに弱めてしまいかねないと OECD 当局は考えている.年2回出しているグローバル成長報告書を11月25日に公表するに先だって,OECD の主席エコノミストであるキャスリン・L・マンはこう説明した――目下の経済状況において,財政赤字を1パーセントポイント減少させれば,雇用が2ポイント減少する結果になるだろう.

OECD 当局に加えて,経済学者のなかにもこう考える人たちがいる――地域最大の経済大国ドイツが推進してきた緊縮政策によって,ヨーロッパの苦しみは大幅に悪化してしまった.金融危機のあと,さまざまな経済機関はドイツの要求に大きな影響を受けてきた.だが,緊縮策を何年も続け,さらにヨーロッパが破局の瀬戸際にまで追い詰められたことで,ここ数ヶ月で,そうした機関のなかにも独立を主張するところが増えてきている.たとえば,9月にマリオ・ドラギ欧州中央銀行総裁はこう公表した――欧州中央銀行は,評論家たちのいう「QEライト版」の一環として資産担保証券の購入を開始する.

だが,ヨーロッパ大陸がデフレへとずり落ちていくなかで,アメリカや日本で実施されているのと同様の十全な量的緩和に乗り出す圧力をドラギ氏はいっそう強く受けるようになっている.

© The New York Times News Service


コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください