●Mark Thoma, “Is There a Santa Claus?”(Economist’s View, December 24, 2005)
サンタクロースは実在するのだろうか? この疑問について経済学者がどういう考えを持っているのかよく知らないが(いや、本当は知っている。というのも、何を隠そうサンタの正体は実は・・・やめておこう)、物理学者の中には自説をはっきりと口にしている人もいるようだ。その一例を以下に引用しておこう。
“Is there a Santa Claus? – a physicist view”:
それでは検討してみよう。
1) 現在までのところ、空を飛べるトナカイの存在は確認されていない。しかしながら、地球上に生息している生物のうちでまだちゃんと分類されずにいる生物は30万種に上るとされている。そのうちの大半は昆虫や微生物ではあるものの、サンタしか見たことのない空飛ぶトナカイが存在している可能性を完全に否定できるわけではない。
2) 世界中には18歳以下の子供が20億人存在する。しかしながら、イスラム教やヒンドゥー教、ユダヤ教、仏教といった宗教を信仰する地域の子供はサンタの(おそらく)管轄外である。国連の人口推計によるとキリスト教圏の子供の数は全世界の子供のうちのおよそ15%にあたる3億7800万人であり、サンタの仕事量は大幅に軽減されることになる。一世帯あたりの子供の数は平均すると3.5人であることを踏まえると、サンタが訪問すべき家の数は9180万戸 [1] … Continue readingという計算になる(一世帯に少なくとも1人はいい子がいると仮定した場合)。
3) サンタは東から西に向けて移動すると仮定すると(もっともな仮定だと思われるが)、地球の自転によって時差が発生する関係もあって31時間は仕事ができる。31時間のうちに9180万戸すべてを訪問するためには1秒あたり822.6戸を回らなければならない。ということは、サンタが一戸あたりに費やすことができる時間はおよそ1000分の1秒だ。家の近くにソリを停め、ソリから素早く飛び降り、煙突から家の中に潜り込み、靴下の中にプレゼントを詰め込んでそれをクリスマスツリーの下に置き、食べ残しのスナック菓子を平らげ、煙突をよじ登って家の外に脱出し、近くに停めてあるソリに素早く乗り込んで次の家に向かう。こういった一連の作業をおよそ1000分の1秒の間に一通り済まさなければならないのだ。
9180万戸が地球上に等間隔で分布していると仮定すると(この仮定は正しくないが、計算を簡単にするためにそう仮定することにしよう)、次の家までの距離は0.78マイルとなり、サンタが移動しなければならない総距離は7550万マイル(およそ1億2000万キロ)となる。普通の人間であれば31時間の間に少なくとも一度はやっておかなくてはならないこと(睡眠)や食事その他諸々のためにどこかに寄り道することはないと仮定すればそういうことになる。
31時間の間に7550万マイルを移動するということはサンタが乗るソリは秒速650マイル(秒速1040キロ)の速度で先を急ぐ計算になる。秒速650マイルといえば音速の3000倍のスピードだ。ちなみに、これまでに人類が作り上げた最速の乗り物である宇宙探査機ユリシーズの速度は秒速27.4マイルに過ぎない。普通のトナカイの足の速さはせいぜい「時速」15マイルがいいところだ。
4) ソリにはプレゼントを載せねばならないが、この事実はこれまでの話に興味深い要素を付け加えることになる。子供たち全員に同じプレゼントをあげるとしよう。そのプレゼントは中くらいのサイズのレゴのおもちゃで重量は一個あたり2ポンドだとしよう。軽いものだ。しかしそれが3億7800万人分となると総重量は32万1300トンにもなる。サンタと言えば肥満気味の人物として描かれるのがお決まりになっているが、今回はサンタの体重は無視することにしよう。
空を飛べない普通のトナカイが1頭で運べる荷物の重量はせいぜい300ポンドだ。仮に「空飛ぶトナカイ」が実在して( 1)を参照)普通のトナカイの10倍の重量の荷物を運べると仮定したとしても8頭ではとても足りない。9頭でも無理だ。
32万1300トンのプレゼントを運ぶには21万4000頭の空飛ぶトナカイが必要となる。プレゼントの重量に空飛ぶトナカイの重量を加えると(サンタだけではなくソリの重量もこの際無視することにしよう)35万3430トンになる。ちなみに、35万3430トンというのは豪華客船クイーン・エリザベス号の4倍の重さに相当する。
5) 35万3430トンもの重量の物体が秒速650マイルで移動するとなると尋常ではない空気抵抗が生じることになる。トナカイたちは大気圏に再突入する宇宙船が曝されるのと負けず劣らずの高熱に包まれることだろう。先頭を引っ張る2頭のトナカイに加えられるエネルギーは毎秒1430京ジュールにも上るだろう。
それだけのエネルギーをまともに受けたら先頭を引っ張る2頭のトナカイは瞬く間に炎上してしまうだろう。後続の一同もその炎に巻き込まれ、その一帯に耳をつんざくようなソニックブーム(衝撃波)が発生することだろう。トナカイたちは移動を始めてから4260分の1秒後という一瞬の間に蒸発して跡形もなくなってしまうことだろう。
その間にトナカイを操るサンタには重力の1万7500.06倍もの遠心力がかかり、体重250ポンド(痩せすぎだという声もあるかもしれない)のその体には431万5015ポンド(おそよ195万kg)もの圧力が加えられることになる。サンタはソリの背もたれにぴったりと押し付けられて身動き一つできないことだろう。
結論を述べよう。サンタがこれまでにクリスマスイブにプレゼントを届ける計画を実行に移した試しがあるとしたら、残念ながら彼はもうこの世にはいないはずだ。
(注:この文章は元々SPYマガジン(1990年1月号)に掲載されたものである)
References
↑1 | 訳注;素直に計算すれば1億800万戸となり、以下に出てくるいくつかの数字も違ってくることになる。しかしながら、最終的な結論には影響はないので原文のままにしておく。 |
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