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ラースロー・コーチ 『BrexitはEU投票力分布に如何なる影響を及ぼすか』 (2016年6月20日)

László Kóczy, “How Brexit would affect the EU power distribution” (VOX, 20 June 2016)


Brexitに関する多くの討論は英国に焦点を合わせたもので、もう一方の当事者 – 即ち欧州連合の方を省みてこなかった。本稿は、英国のEU離脱が残るEU加盟国間の投票力分布に如何なる影響を及ぼすかの精査を試みるものである。フランスやドイツといった相対的に大きな加盟国はBrexitから直接に利益を得る公算が高い、少なくとも投票力の観点からはそう言える。

EUの意思決定過程は複雑で、欧州委員会 (Commission)、欧州連合理事会 (Council of the European Union)、および欧州議会 (European Parliament) のそれぞれが各自の役割をもつ。その中でも理事会 – 以前は閣僚理事会と呼ばれていたもの – は国益の代表がなされる機関とされている。欧州連合理事会では、加盟国それぞれが1名の個人により代表されるのだが、複雑なウエイト付き投票メカニズムのおかげで大きな国ほど欧州の問題に関して大きな発言権をもつようになっている。リスボン条約以降は、本メカニズムは随意的なウエイト付けをもたず、また現実と成るかもしれない英国抜きのEUにも適用されるものとなっている。

特定多数決投票の下では、或る案件が承認されたのかどうかを確定する為にすらちょっとした計算が必要となるし、決定に対し各加盟国がどれほどの影響力をもっているのかの評価過程もとても平明とは言えない。そこでバンザフ指数 (Banzhaf 1965, Coleman 1971) およびシャープレイ=シュービック指数 (ShapleyとShubik 1954) の登場となる。これら指数は協力ゲーム理論にその出自をもつもので、各投票者の投票力、即ち各加盟国の投票力を計算する為の数学的手法を与えてくれるのだ。なお投票者1名の投票力指数とは、「或る1つの投票に案件の命運が掛かっているとき、それが問題となる投票者による投票である場合」 という条件付き確率をさす。案件の命運を握るこういったプレイヤーには意思決定に影響を及ぼす力が有ると想定すれば、これは、或るプレイヤーが政策を自らの利益になるよう仕向けたり、予算シェアの獲得することに成功する可能性を表わすものだと言える。

利用可能な最新の人口データ並びに人口推計 (Eurostat 2014) および大規模ゲームの投票力指数を算出できるソフトウェア (BräuningerとKönig 2005) を利用して、我々は現実となるかもしれないBrexit前後における各プレイヤーの投票力を計算した (Kóczy 2016)。一部の残存加盟国が 『ケーキ』 の大きなシェアを得そうだというのはまあ驚くに当たらないが、小国のなかには実際に被害を受けるものもある。また我々は英国が正味でみれば貢献国であること、したがって [Brexitが現実となれば] 予算 (手元の 『ケーキ』) は小さくなり、これらの相対的に小さな加盟国にいっそうの被害を及ぼすことになる点を忘れず考慮調整しなくてはいけない。相対的に大きな加盟国では利得の方が予算の損失より大きくなっているのは興味深い。

図1  現状シェアのパーセンテージで示したBrexit後の調整済みシェア

ということで、少なくとも投票力の観点から言えば、EUの主要加盟国はBrexitから直接に利益を得ることになりそうである。フランス・ドイツはかつて、合わせて17.5%の投票力をもっていたが、リスボン条約の恩恵を受け25.7%に上昇し、そしてBrexitの後この数値は30%近くにまで至ると考えられている。数年前までの値から70%以上も上昇するのだ。

図2  Brexitが在る場合 (点線)、 無い場合 (実線) でのフランス・ドイツを合わせた投票力

EUとの交渉後のレファランダムを予定することで、デービット・キャメロン首相はレファランダム実施の約束を、かなり部分的ではあるが今回われわれが行った分析によればBrexitから利益を得るだろうと見込まれる国々の手に委ねたのである。案の定というべきか、同交渉がブレイクスルー的成果を生み出すことはなかった。

原著者註: 分析の完全版はKóczy (2016)を参照。

 

参考文献

Banzhaf, J. F. (1965), “Weighted voting doesn’t work: A mathematical analysis”, Rutgers Law Review, 19, 317–343.

Bräuninger, T.  and T. König (2005), “Indices of Power IOP 2.0”, Konstanz: University of Konstanz.

Coleman, J. S. (1971), “Control of Collectives and the Power of a Collectivity to Act”, in B. Lieberman (ed.), Social Choice, New York: Gordon and Breach, pp. 192–225.

Eurostat (2014), EUROPOP2013 – Convergence scenario, national level, Population predictions – [tps00002].

Kóczy, L. Á. (2016), “How Brexit affects European Union power distribution”, IEHAS Discussion Papers No. 16/11, Institute of Economics, Centre for Economic and Regional Studies, Hungarian Academy of Sciences.

Shapley, L. S.  and M. Shubik, M. (1954), “A method for evaluating the distribution of power in a committee system”, American Political Science Review 48(3), 787–792.

 


Comments

  1. 黒川健太郎 says:

    元々そういう傾向にあったかもしれませんが、いかんせん突然だし、キャメロン首相の退陣も含めていい迷惑ですね。

    • コメントありがとうございます。
      離脱の可能性が現実と成ってしまうと、レファランダムの日程が前もって分かっていても驚きが在りましたね。

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