Pandemics, economic freedom, and institutional trade-offs
19 July 2021
by Vincent Geloso (King’s University College at Western University Canada), discussing Werner Troesken’s ‘The Pox of Liberty’
〔訳者まえがき:本サイトで、ジョージ・メイソン大のマーク・コヤマ教授の論考を翻訳したことをきっかけに、その論考で取り上げられていたピッツバーグ大のヴェルナー・トレスケン教授の著作『自由の国と感染症――法制度が映すアメリカのイデオロギー(みすず書房)』が翻訳出版されることになりました。サイトの参加訳者の2人が翻訳を担当しています。邦訳版の出版に際して、関連した論考を複数投稿します。〕
パンデミック、経済的自由、制度のトレードオフ
抄録
制度とは、公衆衛生に影響を与える公共財を提供する政府の能力における、トレードオフを伴う束であると我々は主張する。経済的自由の基盤となる制度は、商業病(天然痘やCOVID-19など、人の自由な移動に関連する疾患)よりも貧困病を減らすことによって、疾患構成に影響を与えるという仮説を立てた。本稿では、19世紀末から20世紀初頭の天然痘と腸チフスに焦点を当て、ヴェルナー・トレスケンが『自由の国の感染症』で示したフレームワークを中心に、我々と同様の議論を展開した最近の研究を紹介する。我々のエビデンスは、20世紀後半に天然痘が根絶される以前の複数の時代と環境において、経済的自由は腸チフスの死亡率を低下させたが、天然痘の死亡率には影響を与えなかったことを示している。COVID-19の意味するところは、パンデミック対策と経済的自由の維持とのトレードオフは、短期的にはそれほど深刻ではないかもしれないということである。しかし長期的には、経済的自由から得られる富の恩恵は、主に併存疾患(糖尿病や心臓病など)への影響を減らすことによって、商業病に対する脆弱性を軽減する上で極めて重要であると考えられる。このように公衆衛生にとって、経済的自由は全体としては良いものであり、トレードオフは考慮に入れなければならないが、パンデミックに対処するための最良の制度である可能性が示唆される。
序論
COVID-19の感染拡大により、経済学者の間で、パンデミックに対処する際の政府の適切な役割について重要な議論が始まった。この議論は、市場の失敗という一般的な理論的枠組みの中でおこっている。具体的には、市場だけでは、社会的に最適な水準の緩和策や予防策を提供できない。よって、経済封鎖(ロックダウン)を含む強制的手段が正当化された。
ロックダウンが経済的に正当化されるのは、公共経済学や経済史の分野における、公衆衛生対策(マラリア対策のための沼地の排水や、腸チフス対策のための水質改善)は公共の利益であるとみなす多数派の考え方による。 例えば、1850年から1920年の間にアメリカの都市で発生した腸チフスによる死亡者数からわかるように、濾過水と下水道という形で水供給が改善したことで公衆衛生は大幅に改善した。これによって、黄熱病(蚊に媒介されるが、下水道の欠如で事態は悪化する)や腸チフス(不潔な水によって拡散する)のような水媒介性感染症は大きく減少した(Meeker, 1972)。このような観点からBleakley(2007)は、病気のない環境は公共財であり、公共財を提供するための短期的なコストと比較して、どれほど公衆衛生の改善が長期的利益をもたらすかを正確に計測する手段が必要だと主張している。
本論文はこの多数派の見解に異議を唱える。我々は、COVID-19や天然痘などの特定の疾患が、公衆衛生を公共財とする特徴を持っていることを認めるが、多数派の見解は重要な制度的トレードオフを無視している。多数派の見解では、個々の制度の間で選択が可能であるが、我々は制度は束であると主張する。公共財BとCで構成される制度Aを選択すると、公共財YとZで構成される制度Xを拒否しなければならない。たとえ最善の束(BとZで構成される)が最も多くの効用をもたらすとしてもである。つまり、制度をパッケージとして捉えなければならないという制度選択上の制約がある。
制度的選択を概念化するこのアプローチは、疾病環境への対処という現実の状況において特に重要である。COVID-19や天然痘など、パンデミックを引き起こす可能性のある感染症は、検疫、外出禁止令、強制検査、強制予防接種、健康状態の開示義務、特定品目の徴発など、弱い強制力と強い強制力の両方を用いて効果的に対処することができる(Goodman-Bacon & Marcus, 2020)。
しかし、これらの手段は、国家の投資を必要とし、経済的自由、強力な財産権保護、個人の権利の法的保護などの制度的特徴とは、ある程度、相互に排他的である。Leeson and Thompson (2021)が指摘するように、公衆衛生の介入の多くは、政府が大量の資源を特定の目的のために(あるいは別の目的のために)再配分する能力を必要とする。この能力は強力な国家を必要とし、それゆえGeloso and Salter (2020) は、市場志向の自由民主主義体制と比較して、政治的権利や経済的自由を無視して多大な犠牲を払うことができる権威主義的体制の例がいくつかあると指摘する。Murrayら(2013)は、病原体が高度に蔓延している国ほど、権威主義的体制をとる傾向があるという、同様のエビデンスを挙げている。経済的自由と経済成長が結びついているほど、トレードオフが存在する。強権的国家は、感染症対策では優れていても、経済成長を促す力は劣っているであろう(Geloso & Murtazashvili forthcoming; Coyne & Yatsyshina 2021)。
COVID-19のパンデミックにおいて、このようなトレードオフに気づいた経済学者もいる。例えば、McCannon and Hall (2021)は、経済的自由が弱い州では、州レベルの自宅待機命令が早期に出されたことを示した。同様に、Geloso and Murtazashvili (2021)は、OurWorldInData.Org(4)によって開発されたCOVID-19に対する政策の厳格性に関する指数の高さは、交絡因子をコントロールすると、民主化と経済的自由度の低さと有意な相関を示す。このように、強力な公衆衛生対策を可能にする一連の制度は、経済的自由度の低さと関連している。
このような制度の束という観点でのトレードオフは、理論的に曖昧な健康上の成果におけるトレードオフも意味している。強引な公衆衛生対策を展開できることで、一方では特定の疾患による死亡(伝染病関連死など)が減少する可能性がある。しかし一方で、制度的なトレードオフ(例えば経済的自由の低下)により、経済成長が鈍化する可能性を、経済的自由と経済成長に関する文献は示唆している(Hall & Lawson, 2014)。経済成長は同様に他の種類の原因(栄養失調や水媒介性疾患など)による死亡を減少させるため、成長率の低下は健康に悪影響を及ぼす。その結果、伝染病に対処する政府の制度が、他の原因による死亡率を高めてしまうかもしれない。言い換えれば、制度の種類が、死亡原因の構成に影響する可能性がある。しかし、死亡率の水準への正味の効果は明確ではない。
このような複雑なトレードオフを明らかにした学者は、我々の知る限り、経済史家の故ヴェルナー・トレスケン(2015)だけである。トレスケンは、彼の研究を19世紀末から20世紀初頭にかけての天然痘減少の事例に適用し、アメリカが例外的に豊かな国であったのは、異様に高い天然痘死亡率に悩まされていたのと同じ理由であると指摘している。財産権を守るための憲法上の制約が、州や地方自治体が天然痘対策のための公衆衛生措置を推進する力を制限していたのだ。その一方で、これらの制限によって生み出された富が、腸チフスなどの水媒介性疾患の死亡率を低下させた水道施設への重要な設備投資をもたらしたことをトレスケンは強調した。このように、アメリカを豊かにした制度の束は、天然痘による死亡者数の増加と腸チフスによる死亡者数の減少を引き換えにしなければならなかった。しかしトレスケン(2015)は、一人当たり所得と天然痘死亡率のトレードオフを明らかにしたが、腸チフス死亡率の低下が天然痘死亡率の上昇に勝るかどうかには答えなかった。さらにトレスケンは分析的な叙述にのみ頼って論じたため、健康上の成果に対する経済的自由の役割を直接検証していない。というのも、彼が関心を持った時代には、経済的自由度の歴史的尺度がなかったからである。
本論文では、トレスケンの強力な洞察を発展させるために、最初の3つのステップを提示する。まず、経済的自由度と健康上の成果の間に別の関係がある可能性を正式に検証する。第二に、腸チフスと天然痘とで、制度の束が与えた健康への正味の効果の重み付けを試みる。第三に、彼の洞察に基づいて、公衆衛生の政治経済に関する将来の研究の枠組みを提示すべく、彼の推論の一般化を試みる。
そのために、19世紀後半から20世紀にかけての経済的自由度を国際レベルと国内レベルの両方で測定した新しいデータを用いて、トレスケンが強調したトレードオフを経済学的に検証する。トレスケンが正しければ、経済的自由は天然痘の死亡率には統計的に有意な影響を及ぼさないか、むしろ増加する可能性があり、一方で腸チフスの死亡率を有意に減少させる効果を持つはずである。
本論文の構成は以下の通りである。第2節では疾患を貧困病(腸チフスなど)と商業病(天然痘やCOVID-19など)の2つに分類する。第3節では、制度の束と疾病対策の意義を考察する。第4節では、南北戦争後のアメリカに関する国際データと国内データの両方を用いてその証拠を示す。第4節では、アメリカ各州の結果を他の現代の死因にも適用し、その関係を一般化しうることを示す。第5節では、我々の示唆に富む結果は、(a)トレスケンの仮説の検証をさらに改善し、(b)経済制度全般と経済的自由に関する利用可能なデータの範囲を拡大して他の事例にも適用できるよう更なる研究材料を提供することを述べる。
19世紀アメリカの貧困病と商業病
疾患の分類方法には、商業に起因するものと貧困に起因するものに分けるやり方がある。ここで商業とは社会的交流を意味し、したがって、人々の移動や交流に関連する疾患を意味する。腸チフスのような貧困病は、撲滅するのに多額の資本投資が必要となるため、貧困根絶に依存するといえる(6)。水媒介性疾患は貧困と関連する傾向がある。水媒介性疾患の撲滅には、衛生的な浄水笑動、下水道、自治体のゴミ処理サービスなどの公共財が必要だが、これらを提供するのは低所得地域では困難である。マラリアもその一例で、沼地の排水は大規模な資本投資であり、富にも依存する(Bleakley, 2010)。一方、商業病とは、学校や企業の閉鎖(例えばロックダウン)、強制的予防接種、移動の追跡などの措置によって、人々の移動の制限を必要とするもので、例えば天然痘がこれにあたる。
貧困病の例として、トレスケン(2015)に倣って腸チフスを取り上げる。腸チフス撲滅には、他の水媒介性疾患と同様にインフラ、特に浄水技術への大規模な投資が必要である。水の浄化は、公共財の概念にゆるやかに合致するが、その使用から人々を排除することが技術的に可能であれば、民間でも提供されうる(Carson, 2016, 2020; Troesken, 1999)(7)。 水処理技術に投資して腸チフスと闘うことは、教育の達成度や後年の収入の観点から、技術採用のコストを正当化する実質的利益をもたらす(Beach et al., 2016)。腸チフスと闘うためには、経済的に厳しいロックダウンや検疫は必要ない。むしろ、腸チフスを制御できるかを決定する最も有力な要因は、政府や民間企業が水の衛生設備やその他の関連サービスを提供できるほど裕福か否かであって、それは平均所得に依存する。
トレスケン(2015) は、天然痘は貧困よりも、政府が人の移動を管理する権能に依存する感染症の例であると指摘している。そのため商業病に分類される。天然痘は2千年に渡って人類の健康に大打撃を与えた。当初の対策は、天然痘をわざと感染させて免疫をつける人痘接種であった。19世紀初頭には、人痘接種はワクチンに取って代わられ、天然痘は治療可能な疾患になった。19世紀初頭には天然痘ワクチンは存在していたが、流行は続いた。トレスケンによれば、19世紀に政府が利用できた主な手段は強制的ワクチン接種であったが、当時の技術的制約の下では、強制的手段が必要であった。強制力が必要だった例は1901年のボストン市であり、ホームレスが天然痘を広めているのではないかと考え、ホームレスへの強制的予防接種を義務付けた(Albert et al., 2001)。つまり、ワクチンがあっても、上記のような制限を行うには強制力が必要だった。強制力がなければ、政府は、検疫、待機命令、ロックダウンなどの命令を実行できない。
アメリカでは、天然痘と腸チフスの両方が20世紀になっても続いていた。天然痘による死亡率は、1880年頃のアメリカでは腸チフスによる死亡率の約8分の1、1900年頃のアメリカでは5分の1と、両者には違いがあった。しかし、1900年のアメリカの天然痘による死亡率は、西洋諸国の平均を上回り、アメリカとほぼ同じ所得の国々で観測される水準を大きく上回っていた(Troesken, 2015, 97)。なぜこのような差が生まれたか。
トレスケンは、義務的予防接種のような、十分効果的と証明された戦略を実施しようとする州政府に、合衆国憲法はいくつかの障壁を課していたと主張する。最も顕著な理由は、そのような戦略の権限は州政府の範疇とされていたこと(すなわち連邦制)と、州政府と地方政府が明示的にそのような法律を制定しなければならないこと(そして選挙結果に直面すること)であった。
憲法が連邦制を重視していたため、ある州が近隣の州に悪影響を与えるような経路を選ぶこともできた。例えば、ルイジアナ州議会が、ある感染症の蔓延防止策をなんら行わないと決めたとしよう。ニューオーリンズが重要な貿易拠点であることを考えると、この無策によりルイジアナ州は感染症の入り口となり、その感染症はアーカンソー州、ミシシッピ州、テキサス州へと広がっていく。逆に、ルイジアナ州が予防策を講じれば、周辺の州はその努力にただ乗りできる。
第二に、特定の行動を強制するには、各州は公衆衛生機関を設立し、明確な権限を与えなければならなかった。つまり、特定の行動を義務付ける手段を持っていても、それだけでは州機関は行動を起こせないのである。例えば、教育委員会は、法律で明確に権限を与えられていない限り、ワクチンを接種していない子どもを排除できない。つまり、このような政策を議会に持ち込んでも、レントシーキング、馴れ合い、政治的利己主義によって、どのような議案も否決される可能性があるのだ。
まとめると、この2つの特徴により、アメリカは、他国(プロイセン、ノルウェー、デンマークなど)が展開できた効果的な手段(天然痘対策の強制的ワクチン接種など)を展開しえなかった。しかし、トレスケン(2015)は、このような天然痘予防政策に対する制約には、2つの点でポジティブな見返りもあったと指摘する。第一に、アメリカの連邦制へのこだわりは、州間での政策競争を強いるので、「市場を保護する」効果があった(Weingast, 1995)。第二に、州の行動に対する障壁は、財産権を効果的に保護した。これらの効果でアメリカは豊かになり、健康の帰結に二次的効果がもたらされた。これらの制度的特徴は、アメリカ人を豊かにすることで、後に死亡率を低下させる他の健康財への投資をも可能にしたのである。トレスケン氏があげた主な例は腸チフスで、富と保証された財産権の組み合わせによって水処理施設に必要な投資が可能となった。
簡単に言えば、トレスケンは疾病がもたらす負荷についての制度理論を提唱している。しかしこの理論は、アメリカの状況の奇妙さ(裕福だが天然痘死亡率が高い)を説明することに主眼が置かれている。この理論は、経済的自由などの広範な制度的概念とは直接結びついていないので、この点については次節で改良する。
経済的自由、制度の束、疾病負荷
トレスケンの仮説は、19世紀アメリカという歴史的情況を超えて一般化できるだろうか。我々は可能であると考える。トレスケンの仮説の本質は、保護された財産権が、様々な疾患の罹患率や死亡率に異なる効果を与えるというものである。財産権が保護されていれば、財産権縮小を求める政府の政策は禁じられ、天然痘の死亡率を高めてしまうかもしれない。同時に、財産権は経済成長にプラスの効果があるため、腸チフスの死亡率は低下する。天然痘を「商業病」に、腸チフスを「貧困病」に置き換えても、同じことである。
実際、財産権は経済的自由度の既存指標の重要な構成要素であるため、この仮説は経済的自由度に直接関連付けられるよう拡張できる。よって、経験にもとづく明確な予測が可能になる。理想的なデータ(関連する共変量に関する多数の実測値)と、内生性の問題を解決する能力(8)があれば、 経済的自由は、所得水準に敏感な疾患(例えば、腸チフス)による死亡率を低下させ、商業病(例えば、天然痘)には効果がないか、あるいは死亡率を上げる効果があることを観察できるだろう。
まず貧困病を考えてみる。裕福なコミュニティは、水質改善の投資を行う可能性が高い。このように、経済的自由は富の拡大に寄与し、公共財の供給に貢献し、腸チフスなどの疾病負荷を軽減する可能性がある。このような負荷軽減は、強制ではなく、公共財に支払う財源に大きく依存する。投資が公共財でなくても(つまり市場で十分に供給されるとしても)、効果は同じである。投資が多額の初期費用を必要とし、完成までに長い時間を要する移動不可能な資本財であることに変わりはないからだ。政府が資本財を押収してもほとんど、あるいは全く補償しない可能性があるような、財産権保護が不十分な環境では、多額の固定費、不動性、長い時間の必要性は、投資を抑制する。財産権が十分保護されていれば、このような投資は可能である。いずれにしても、経済的自由は、これらの資源による疾病負荷の軽減と関連するであろう。
天然痘やCOVID-19のように、人々の移動の自由に関連する疾患では話は別である。個人やビジネスに制限を加えることは経済を損なうため、経済的自由は重要な意味を持つだろう。財産権保護が強固であればあるほど、政府が人の移動や経済活動を締め付ける強制的手段を取る可能性は低くなる。したがって、経済的自由があれば、感染症が野放しになるかもしれない。実証的には、経済的自由度が高いほど、このような疾患による厄災が大きくなると予想される。冒頭で指摘したように、McCannon and Hall (2021)やGeloso and Murtazashvili (2021)は、経済的に自由な州や国は、パンデミックに対してよりゆっくりと、より緩慢に対応したという証拠を提示している(他のすべての条件は同じとすれば)。
ここで束という考え方に戻る。制度が選択されると、経済主体は様々な疾患に直面することになり、同じく様々なトレードオフに直面することも意味する。経済的自由度の高い制度の束を選択した国は、より豊かになり、貧困病に対処する手段は充実するが、自由な移動に関連する疾患への対応は困難になる。対照的に、経済的自由度の低い国は貧しくなり、貧困病に対処する手段は整わないが、社会的交流に関連する疾患への準備はしっかり整っている。
COVID-19の意味するところは明らかだ。経済的自由は、COVID-19のような商業病に対する国家の能力を低下させるだろう。なぜなら、富を生み出す制度の束は、政策実施によるコスト伴う可能性が高い体。また、感染症を野放しにすることで事態をさらに悪化させるかもしれない。したがって、商業病と経済的自由度の間には正の統計的相関があると予想される。
しかし、制度の束の議論を誤解しないために、注意すべき点がいくつかある。まず、経済的自由に関する文献によると、対GDP比で政府の規模を示す経済的自由の構成要素は、他の要素とはいくらか異なる挙動を示す(Heckelman & Stroup, 2000)。実際、政府支出が多く、経済的自由度も高い(つまり、政府支出以外の経済的自由度指数のスコアが高い)にもかかわらず、経済成長率が非常に高い国は多い。 この逸脱を説明するために、Bergh(2020)は大きな政府を分類している。第一の類型は、単純な形式の所得再分配しか行わない大きな政府の国家である。このような国家は、徴税以外には市場機能にほとんど介入しない傾向がある。もう一つの類型は、市場の結果に影響を与え、指示しようとするより介入的な国家である。このような国家は、財政的には比較的小規模だが、財産権の侵害や法の支配の弱さによって甚大な被害をもたらすことがある。Bergh(2020)は、前者のような国家の多くは、財政規模は大きいが、法の支配を強く遵守する傾向があると論じている。ここでトレスケンの議論に直接関係するのは財産権であり、政府の財政規模ではないことを強調しておきたい。実際、財産権が成長を促し、健康が奢侈財とみなされるならば、財産権は間接的に健康への公的支出を増加させる可能性がある。この最後の点は、経済的自由が長期的には商業病の被害を緩らげる契機となる可能性もあるため、潜在的な正の相関を過大評価すべきではないという我々の主張につながる。実際、経済的に自由な体制は、強引な政策を採用できない傾向にあると我々は主張する。その結果、経済的に自由な国では、死亡原因の構成が商業病に偏ることになる。しかし、このことから、各原因による死亡率の全体的な水準が、経済的に自由な国でより高くなると自動的に言えるわけではない。この違いを理解するために、Bergh (2020) の論理にしたがって、財政規模の大きな国は繁栄することで、医療費をどれほど多く支出できるかを考えてみよう。このような状況では、十分に保護された財産権により、商業病の治療費を増やすことができ、同時に経済成長により貧困病を減らすことも可能になる。かくして自由民主主義国家は商業病に対して強硬な手段を取れなくても、両方の死亡率の水準を下げられる。このように、商業病が少なくても、構成は商業病に偏るのである。
またBergh(2020)が言うように、財政規模の大きい国が信頼できる形で法の支配を遵守できるならば、危機の際には経済的自由が一時的に低下する可能性があることも指摘する価値がある。つまり、財産権の確保に長期的に取り組むことで、政府が一時的に権限を行使することが可能になる。そのような権限の行使は、信頼性の低い体制であれば、トレスケン (2015)が強調するような有害なトレードオフが生じるだろう。しかし、アメリカにおける州レベルのロックダウンと経済的自由に関するMcCannon and Hall (2021)の結果(序論参照)や、危機が政府の規模や範囲に与えるラチェット効果に関する実証文献(Higgs, 1987; O’Reilly & Powell, 2015; Coyne and Hall, 2018)を考慮すると、このような短期的変動が一過性にすぎないかについて我々は懐疑的である。したがって、我々はこの段落で裏書きしたメカニズムを強調したい。さらに、最も強権的な自宅待機命令の大半は、ほとんどの場所で実際にウイルスが大きく拡散する前に出されており(COVIDの被害がまだニューヨーク・ニュージャージー・ペンシルバニアの3州にほぼ限定されていた3月に発生したため)、実際に地域で発生したCOVID感染例や死亡例に対応したものではないと考えられる。このように、ある地域で将来発生するであろうCOVID感染者数や死亡者数を予想して出された命令は、その予想が正しければ後ろ向きの因果関係があるとも言えるが、このような議論には強い仮定が必要となる。
疾患の水準と構成の違いをさらに際立たせているのが、併存疾患による両タイプの病気の関係である。例えば、COVID-19の上位5つの併存疾患(これは商業病と考えてよい)は、(致死率の高い順に)肥満、肝臓病、腎臓病、慢性閉塞性肺疾患、心血管疾患である(Ejaz et al.、2020)。肥満のような併存疾患は経済成長と正の相関があるとする研究もあるが(Egger et al., 2012)、腎臓病のような併存疾患は所得とともに低下する傾向がある(McKinley et al., 2020)(10)。 貧困病が人々を商業病に対してより脆弱にするのであれば、経済的自由は(経済成長を促進することで)、十分に保護された財産権によって、国家が公衆衛生対策を展開する能力が制約されるとしても、貧困病と関連する併存疾患を減らすことで、間接的に商業病を減らす可能性がある。言い換えれば、経済的自由と商業病は依然として正の相関があるが、我々が言及した2つの緩和力のために、その相関は小さくなる可能性がある。
エビデンス
トレスケンのフレームワークを拡張できるか正式に検証するために、我々は異なる2つの裏付けとなる証拠を提示する。それぞれのセットは、データの少なさという問題があり、単独では決定的証拠とはならない。しかし合わせれば、トレスケンの論点を確認しているように思われる。19世紀後半から20世紀半ばにかけての経済的自由は、他のすべての条件(可能であれば所得も含む)が同じであれば、腸チフスによる死亡者数の減少と関連していたが、天然痘などの感染症との関連は見られなかった。本節では、国際的な証拠(1900年頃と1950年代)とアメリカの各州における証拠(19世紀後半)の2つのセクションに分けて説明する。
20世紀前半の世界のエビデンス
制度のばらつきは、国内ではなく、国ごとに大きく異なることが予想される。しかし残念ながら、このような変動要因は、トレスケンが論証に用いた19世紀末の分析を困難にする。これには2つの理由がある。以下、それぞれの理由について説明する。
1つ目は経済制度の質に関する指標の少なさである。通常、研究者はこれらの制度を定量するのに、フレーザー研究所の「世界の経済自由度(EFW)」指数に頼っている。残念ながら、その指標は1950年からしかない(Hall & Lawson, 2014; Murphy & Lawson, 2018)。その限界のため、Prados de la Escosura(2016)は、1850年以降の期間をカバーするHistorical Index of Economic Liberty(HIEL)を生成した。このデータセットは、その方法論はEFWと非常に似ているため、我々の目的に理想的である。主な違いは、HIELには政府の規模を表す要素が含まれていないことだ。しかし、その他の構成要素(規制、財産権、国際貿易、堅実な貨幣)は類似している。我々の目的にとってHIELの不利な点は、20カ国しか収録されていないことである。このため、サンプルサイズに大きな制約がある。19世紀の制度の質を測る指標としては、Polity V indexなどがあるが(Rånge & Sandberg, 2017も参照)、これらは経済制度ではなく政治制度を対象としている。したがって、サンプルサイズは最大でもHIELデータセットの20カ国に制限される。
第二の理由は、1900年頃の多数の国の総死亡率を比較したデータセット(注意点はあるが)がある一方で、原因別の死亡率の国際比較は非常に少ないことである。また、これらのデータは利用可能な単一の資料としてまとめられていないため、研究者は各国の統計年鑑を参照して証拠を集めなければならない。問題は、これらの統計年鑑が必ずしも比較可能ではないことだ。例えば、フランスの統計年鑑には腸チフスによる死亡者数が記載されているが、人口5千人以上の都市部のみを対象としている。この問題を解決するために、我々は、より多くの国を含み、国ごとの原因別に数値を比較できることが担保されている、1950年代の最も古いデータを用いた多国間分析を行った。
たしかに、トレスケンが1900年頃の20世紀のデータのみしか集めることができなかったように、我々も同様の限界に直面した(11)。しかし、これらの年鑑やその他の政府刊行物を利用して、HIELデータセットに含まれる19カ国の1900年頃の天然痘による死亡率を収集することができた。腸チフスについては、1900年頃のHIELデータセットのうち16カ国の死亡率を収集することができた。これらのデータは表1に記載されており、資料については本稿のサプリメントに記載している。また、トレスケンと同じ方法で、その国にカトリック教徒が多いかどうかをコントロールしようと試みた。なぜならカトリック教徒は、ワクチン接種に反対するのが一般的だったからである(Troesken, 2015: 98)。
表1. https://link.springer.com/article/10.1007/s10657-021-09704-7/tables/1
表2では、OLS回帰分析の結果を示している。仕様(1)と(3)は、天然痘よりも腸チフスの方が経済的自由度が重要であるという我々の主張を裏付ける証拠となっている。HIELによる経済的自由度の効果は前者では統計的に有意(5%水準)だが、後者では有意ではない。仕様(2)と(4)では、経済発展の違いをコントロールするために、一人当たりの所得の対数を加えたが、結果は同様であった。
表2. https://link.springer.com/article/10.1007/s10657-021-09704-7/tables/2
先に述べた注意点を考慮すると、これらの限定的な結果は経済的に有意であると思われる。腸チフスの死亡率に対するHIELの係数は大きく、平均的な国では、腸チフスによる死亡率は天然痘による死亡率の4倍であったという。これは、経済的自由の緩和効果が、より大きな死亡原因に偏っていることを示唆している。
この国際比較は1950年代にまで適用できる。その10年間は、天然痘の患者数はまだ年間5000万人であり(Chittick et al., 2017)、データが入手可能な国々での腸チフスによる死亡はさらに規模が大きかった。1959年にWHOが天然痘根絶の決議を採択しているので、トレスケンの主張を確実に検証できるのはそこまでである。その後、1966年には根絶プログラムが開始され、1977年には根絶された。また、サンプル数を増やして貧困国の経済的自由度の値を含めたい場合には、最も早い年代のデータを利用できる。HIELのデータセットでは、20数カ国の豊かな国のみを継続的に調査していいる。Murphy and Lawson (2018)が作成したEFW指数のカバレッジ拡張のおかげで、より多くの貧困国を含む経済的自由度の推定値のデータが得られる最初の年は1950年である。天然痘と腸チフスによる死亡率、一人当たりのGDP、経済的自由度に関する情報を提供している41カ国について、1950年代の10年間の平均値を算出した。死亡率は,WHOの「死因データベース」の国別の年間原因別死亡数と,国連の「世界人口予想データベース」の国別の年間人口推計値を用いて算出した。表3はこのサンプルの記述統計を示している。
表3. https://link.springer.com/article/10.1007/s10657-021-09704-7/tables/3
表4に示した結果は、表2と同じ傾向を示している。天然痘に対するEFWの係数は、以下の各論にかかわらず有意ではない。しかし、腸チフスの死亡率に対するEFWの係数は、予想通り有意で負の値を示している。後者の結果は、コントロール変数として所得を含めるかどうかに関わらず、有効である。同じ方向性を示しているとはいえ、ここで注意したいことがある。表2で使用した天然痘による死亡者数に関して、我々が収集したデータはより正確であった。すなわち、天然痘に関する貧困国のデータは、1950年代までは症例数が過少評価されていることが知られており、いくつかの欠点がある(Fenner et al.1988: 175)。天然痘による死亡者数の国別ランキングは正確に見えるが(ほとんどの豊かな国が天然痘をほぼ根絶していたため)、一部の貧しい国の死亡者数は過小評価されている可能性がある。しかし、腸チフスの死亡数にも同じ問題があるので、もし両方の疾患で同じようにかなりの数の差があるならば、我々の結果は腸チフスでも影響を受けるはずである。しかし、両疾患とも過小評価の影響はなく、表2と同様の結果が得られていることから、今回の調査結果のパターンに問題はないと考えられる。
表4. https://link.springer.com/article/10.1007/s10657-021-09704-7/tables/4
アメリカ各州のエビデンス
国際的に集められた証拠は、症例数が少ないために限界がある。そこで、経済的自由と疾病の関係を評価する違った手段を提供してくれるアメリカのデータを検討する。アメリカの州では、国ごとに見られるような経済的自由度の違いはあまり見られないが、それでも関連性のある地方レベルでの重要な違いがある。
州間のばらつきに関する情報を得るために、新しく便利なデータセットがある。それは、Murphy and Stansel (2019)が作成した1850年から1890年までの国勢調査から得られた、アメリカの州における経済的自由度の直接的な数値であり、これをEFUSAと呼ぶことにする(12)。 通常、地方レベルでの経済的自由度の推定は、フレイザー研究所が作成したEconomic Freedom of North America (EFNA)指数の方法を踏襲する。EFNAは、政府支出、税金、労働規制の3つの要素で構成されている。しかし、EFUSAについては、Murphy and Stansel (2019)が州をより国と比較できるように、インフレ指標と関税指標を追加している。明らかに、この2つは、指数に組み込まれている国の指標であり、州間のばらつきを減衰させる効果がある。しかし、これは人為的にばらつきを弱めるという意味では、我々にとって不利なバイアスである。さらに、死亡率に対する経済的自由度の効果は、国内よりも国家間で大きくなると予想される。そのため、他の条件が同じであれば、国内においても経済的自由の効果はより弱くなるはずであり、この地方レベルのアプローチは効果を検出するには不利なバイアスとなる。最後に、EFUSAは天然痘対策の厳しさや、腸チフス対策に必要な水処理インフラの創出に関連する財産権保護と逆相関しているという証拠がある(13)(図1)。
図1. https://link.springer.com/article/10.1007/s10657-021-09704-7/figures/1
データの問題で注意すべき問題点は、死亡率データの質である。McGuire and Coelho (2011: appendix C) は,1850 年から 1900 年までの国勢調査で報告されたすべての州レベルの死亡率の推定値をまとめた。これには原因別の死亡率も含まれている。しかし、国勢調査の死亡率データには欠陥があることは広く認められており、その理由は、死亡者数が過小評価されているため、その水準が不自然にやや低いからである(Condran & Crimmins, ; Higgs, 1979; Higgs & Booth, 1979)。特に、天然痘や腸チフスに脆弱な乳幼児の死亡率において、この傾向は顕著である(McGuire & Coelho, 2011: 239)。しかし、州間の死亡率の相対的な水準はより正確であるため、過小評価の影響は多かれ少なかれ各州に等しく及ぶ(McGuire & Coelho, 2011: 239; Yasuba, 1962)。とはいえ、懸念は残る(Condran & Crimmins, 1979)。一見すると、このデータはパネル・アプローチが可能なように見えるが、そうではない。なぜなら、人口調査間の相対的なクオリティが不安定であり、パネル・データ分析に問題が生じるからである。したがって、我々は横断分析を用いるほかない。幸いにも、McGuire and Coelho (2011: 238)は、「1880年の死亡率統計は、6つの統計の中で最も完全である」と指摘している。その結果、慎重でなければならないものの、1880年の国勢調査に関する証拠は最も信頼できる。
最も重要なコントロール変数は、年齢構成である。これは住民の脆弱性が明らかにするし、アウトブレイクの際のコストにも影響する。天然痘や腸チフスは、14歳以下、特に9歳以下の若年層の死亡率が高かった。その他の人口統計上の変数としては、外国生まれの人口の割合(乳幼児の死亡率が特に高いため(Higgs & Booth, 1979参照))、かつて奴隷州であったか(アフリカ系アメリカ人の生活状況や経済的自由に対する潜在的な影響を把握するため)、都市化率(疾患の伝染しやすさを把握するため)などがある。腸チフスは水媒介性疾患なので、水源の利用しやすさの指標も含めている(これは介入の必要性を示す)。これが我々のデータの基本的な構成である。
頑健さを確認するため、いくつかの変数を、上に挙げたものと同じ目的を持つ代替変数と入れ替えてみた。例えば、旧奴隷州の変数をアフリカ系アメリカ人の人口割合に置き換え、14歳以下の人口シェアを9歳以下の人口割合に置き換えている。また、疾患の蔓延のしやすさを表すために、都市化とともに人口密度も追加している。これらの変数はすべて表5に記載されている。従属変数には、2つの疾患の死亡率の対数を用いた(18)。
表5. 1880年人口統計
https://link.springer.com/article/10.1007/s10657-021-09704-7/tables/5
表6と表7では、これらの構成を変えた場合のOLSの結果を示している。経済的自由は、構成にかかわらず、腸チフスの死亡率に一貫して有意な効果を与えている(10%水準)。基本的な構成(列1)では、経済的自由の係数が最も大きいが、他の構成で得られた係数は非常に似通っている。しかし、天然痘による死亡率に経済的自由度は有意な影響を与えないが、その係数は構成にかかわらず正である。影響の大きさを知るために、経済的自由度が最低の州と、腸チフスの死亡率が最高の州において何を意味しているか見てみよう。1880年に経済的自由度が最も低かった州(ネバダ州)が平均的な州の経済的自由度に移行した場合、腸チフスによる死亡率は10万人あたり2.9人から1.6人になっただろう。腸チフスの死者数が最も多かった州(インディアナ州)が経済的自由度を1標準偏差(0.49ポイント)増加させた場合、その死亡率は10万人当たり7.4人から6.3人に減少しただろう。
表6. https://link.springer.com/article/10.1007/s10657-021-09704-7/tables/6
表7. https://link.springer.com/article/10.1007/s10657-021-09704-7/tables/7
先に指摘したように、国勢調査の質にはかなりのばらつきがあり、19世紀アメリカにおける経済的自由と疾病負担の関係を調べるために、一つのパネルにまとめようとすると問題が生じる。確かに、私たちは固定された効果を含めてパネル分析を試みた。これは、州間の観察されない異質性をコントロールし、サンプルサイズを大きくできるという利点がある。その結果は、1880年の最も質の高いデータを用いた場合と同じで、経済的自由は腸チフスによる死亡を減少させるが、天然痘による死亡には影響を与えない。これらの結果は、脚注15に記載されており、オンライン・サプリメントで見ることができる。頑健性を評価する2つ目の方法は、他国の調査を個別に行い、国勢調査ごとに関係が保たれているかどうかを確認することである。表6と表7の最初の列のモデルを用いて、McGuire and Coelho (2011)がまとめた他の国勢調査年についても同様の作業を行った。結果は表8に示す(20)。 5回の国勢調査のうち4回は、経済的自由度が腸チフスの死亡率に統計的に有意な負の効果(5パーセント水準の場合もあれば、10パーセント水準の場合もある)を与えている。有意な効果が認められなかった1回の国勢調査は、McGuireとCoelhoが、1850年から1900年までの国勢調査の中で「最も完成度の低い」国勢調査であると指摘していることからも当然であろう(2011: 238)。天然痘による死亡率についても、表5と同様のパターンが見られ、経済的自由度と天然痘による死亡率の間には明確な関係はない(21)。
表8. https://link.springer.com/article/10.1007/s10657-021-09704-7/tables/8
まとめると、我々のデータには限界はあるが、経済的自由度は腸チフスによる死亡率の低下と関連している一方、天然痘には目立った効果はなかった。
考察と結論
信頼できる経済分析には、想像上の涅槃ではなく、現実の代替案との比較が必要である(Demsetz, 1969)。私たちの「束としての制度」という考え方は、どのような制度の束にもトレードオフを伴うことを認識することで、涅槃の誤謬を回避している。トレードオフにもかかわらず、バランスのとれた経済的自由は、特に腸チフスと天然痘という歴史的な事例において、感染症への最適な対応を可能にすることがわかった。経済的自由が最適になるのは、規模が小さく対策に負担のかかる感染源ではなく、最も大きく、安価に対処できる感染源による死亡率を減らせるからだ。経済的自由を縮小して費用のかかる疾患に対処し、死因の構成を変えることは可能だろうが、その代償として、予防に費用のかからない疾患による死亡者が増やすことになるだろう。
しかし、我々の主張を、利用可能なデータの質と範囲に照らし合わせる必要がある。したがって、今回の結果は、前進のための一歩であって、最後の一歩ではない。次の一歩は、経済的自由度のデータセットを拡張するために、より多くのデータを収集することだ。これは、人々の移動を制限する政府の権能に関わる国家の能力から、経済的自由を容易に分離できないという点で重要である。経済学者たちは、国家の能力を繁栄の説明に使うことにますます積極的になっている(Piano, 2019)。これには、西洋の繁栄を軍事力で説明できるという見方も含まれる(Dincecco & Onorato, 2017)。しかしGeloso and Salter (2020) が示すように、国家の能力の向上は、捕食的な競争相手から富を守る必要性に呼応して歴史的に生じたものであり、よって、富の創出は国力の拡張につながる。すなわち、経済的自由は富を増やし、そして国力を高めることを通じて、疾病と闘う能力を向上させる。つまり富と国力の2つの効果によって、公共財を提供する能力に影響を与える。このように、西欧の超長期的な国家財政・軍事能力については多くの情報があるが、自由、国家の能力、疾病負荷の関連性を理解するためには、その期間の経済的自由についてより多くのデータが必要である。
とはいえ、今回の結果は、将来の研究者にとって非常に魅力的と考える。実際、天然痘とCOVID-19は、制度の束に関する我々の主張を明確に例証するパラレルな関係にある。アメリカはアウトブレイクへの対応を批判されてきた。その理由の一つは経済的自由と関係しているだろうが、我々の歴史的分析によれば、トレスケンの研究が示唆するほど、天然痘への対応に経済的自由は影響しなかったようである。むしろ、経済的自由のより直接的な影響は、心臓病・腎臓病・肝臓病など、死亡や入院に関連する併存疾患を緩らげることで、人々を病気から遠ざけることだろう。いくつかの併存疾患は裕福さにも依存しており、貧しい人々はそれらに苦しむ可能性が高いため、経済的自由は人々をある程度は病気から遠ざけるであろう(完全に遠ざけられると主張しているわけではない)。
では、アメリカでCOVID-19による死亡率が高いのはなぜだろうか。その理由を理解するためには、政治と、そしておそらくは文化もより注意深く観察する必要があるだろう。アメリカの特徴の一つは、強固な市民的自由である。市民的自由があるからこそ、経済的に厳しい締め付けは困難になっている。このことは、経済封鎖が実施されたほぼすべての州で、経済封鎖に対する訴訟が行われたことからもわかる。もうひとつの特徴は連邦制で、これは自治を可能にするが、COVID-19への対応のばらつきの原因にもなっている。連邦制という政治的要件に加えて、法的な制約もある。いくつかの州の裁判所は、経済封鎖の条項を無効にしたり、州知事が経済活動を制限する権限を制限した。
文化的制度がパンデミック対策に影響を与える可能性がある。Bazziら(2021)は、アメリカの特徴として、フロンティア開拓の経験が政治文化に重要な長期的影響を与え、国民が政府にどれだけの役割を求めるかに影響していることを指摘している。このような個人主義の文化にあっては、人々が自らの生活に政府が関与することを望まないため、強制的な政策への支持を低下させる可能性がある。実際、Bazziら(2020)は、COVID-19の影響はこの種の文化的要因にも依存しており、個人主義がコロナウイルスの感染率を高めることを明らかにしている。それでも、個人主義と富の間に強固な相関関係がある限り(例えば、Gorodnichenko & Roland, 2017を参照)、個人主義がもたらすパンデミックへの脆弱性は、富の効果を介する個人主義の間接的効果によって、ある程度相殺された。
もちろん、病気と戦うための不完全な代替案の中で、なにが最良の対応かは未解決の問題である。極端な対応は制度崩壊の種を撒き、将来的に他の疾患への対策を妨げる可能性がある。例えば、アメリカが天然痘を封じ込めるために経済的自由を犠牲にして、より極端な手段を採用したと想定してみよう。我々の調査によると、その結果として、より大きな死亡原因であり、かつ予防コストが低い腸チフスによる死亡率が増加すると考えられる。またBeachら(2016)は、腸チフスを根絶することで長期的な所得の増加がみられたことを明らかにしており、このような増加による負の効果は後になって顕在化したかもしれない。言い換えれば、貧困の病気に対する経済的自由の効果を減衰させると、結果はさらに悪くなる可能性がある。所得や経済成長の影響を受けやすい非伝染性疾患による死亡率は、1980年から2017年までの195カ国の死亡者数の74%を占めていることからも、これを軽視すべきではない(Roth et al.2018)。
COVID-19についてはどうか?経済的自由を大幅に失うことでCOVID-19による死亡者数は減るかもしれないが、その後の数十年間で莫大なコストを被る可能性がある。現在の議論の中心は、短期的な政策の最適性である。動学的な意味での最適性ではない。天然痘の事例は、我々があまり好ましくない制度の束を志向していることを示唆しており、その効果の多くは今後数十年で実現することになるであろう。これに加えてラチェット効果によって政府の役割が大きくなり、経済的自由がさらに低下することが示唆される。
もう1つの重要な論点は、商業病に関連する疾患や併存疾患との関係である。ある種の自由は疾患の負担を増加させると示唆されているが、富が増えれば併存疾患や負担が減るともいえる。特に黒人やネイティブアメリカンの富が増えれば、パンデミックの負担が大きく減ると考えられる。このように、経済的自由は商業病による死亡率を高める可能性はあるものの、富がもたらすポジティブな効果は、コロナウイルスに対する個人の脆弱性を和らげる。
NOTES
1.See Buchanan (1968) for a theoretical presentation and Easterlin (1999) and Kitchens (2013) for an example from economic history.
2.Readers should notice that we are not referring to the size of government, which is a component of economic freedom indexes. This is to reflect the literature that points to the ability of high levels of economic freedom (in the other components of the indexes) to be sustained in the presence of high levels of government spending (see more below).
3.They point to the examples of the former Communist bloc countries as well as Cuba and Ethiopia which achieved high-level health outcomes given their per capita income levels. It should also be noticed that Geloso et al. (2020) do not argue that health outcomes are better under dictatorships, merely that such regimes have more ability to forcibly reallocate resources to health services.
4.The index is a composite measure of workplace closures, cancellation of public events, restrictions on public gatherings, closures of public transport; stay-at-home requirements; public information campaigns; restrictions on internal movements; and international travel controls.
5.Further complexifying the nature of the trade-off is that economic freedom is associated with the ability to make consumption choices that may be detrimental to health outcomes. For example, the literature on obesity – and the mortality risks associated with it – points to a positive association between obesity and income (Egger et al., 2012). Unsurprisingly, given the relationship between income and economic freedom, there is also a positive association between economic freedom and obesity rates (Lawson et al., 2016).
6.There are diseases of poverty that are not infectious. For example, cardiovascular diseases are often considered to be diseases of poverty (Rosegren et al., 2019).
7.This is true of public goods in general, which can be privately provided when the costs of exclusion change. This necessitates consideration of markets as alternative solutions to governments in cases of “market failure” (Candela & Geloso, 2021). The work of Carson that we cite concerns malaria prevention in the United States, which was the result of private actions rather than state actions.
8.Geloso and Bologna Pavlik (2021) and Candela and Geloso (2021), in considering the effects of pandemics on economic growth, were able to deal endogeneity by considering influenza-pandemic episodes from 1857 to 2000 in which governments did not provide any strong policy responses. They argue that the level of pandemic mortality was independent from the changes in economic freedom. However,
9.This also explains why, when the component for government spending in excluded from the indexes, the effects of economic freedom on outcomes such as life satisfaction are clearer and stronger (Ott, 2018).
10.A good contemporary example is that of the Navajo Nation in America. During the COVID-19 pandemic, it exhibited infection and mortality rates significantly higher the rest of the country. The reasons reflect the lower levels of economic development on reservations, which are the poorest group in the country (Crepelle & Murtazashvili, 2020). Thus, while economic freedom is limited on reservations (Alston et al., 2021), which may influence pandemic response (for example, making lockdown easier to implement), when the disease hit, it was much more deadly because poverty causes increases in the comorbidities.
11.Moreover, two of these observations were for England and Scotland rather than for the United Kingdom as a whole.
12.The database of economic freedom constructed by Murphy and Stansel (2019) suggests that the level of economic freedom was consistent during the 1850 to 1890 period with a dip following the Civil War (the mean index for states fluctuates between 6.08 and 6.62 during the period). The movements are similar for most states and most of the variance is across units rather than over time (see footnote 15 for supplementary results that rely on a panel approach which include state-specific time-trends).
13.There is no systematic assessment or ranking of the stringency of smallpox related policies for American states in the nineteenth century. Most of the assessments of such policies are is for the post-World War I era – after the progressive era reforms changed the nature of governments in the USA. However, an 1894 reference handbook (Buck 1894: 554) contains a partial listing of laws regarding vaccination in 27 states. States that had compulsory vaccinations, local ordinances (such as New Orleans), school exclusion for non-vaccinated exhibited a lower level of EFUSA in 1890 than those that had no such laws (6.11 versus 6.32 which is roughly half of the standard deviation for those states). With regards to water infrastructure, Troesken is abundantly clear – investments depended on the risks of expropriation without proper compensation at the local level especially given the costliness of litigation (Troesken, 2015: 126–127).
14.This was a generalized problem of census-based efforts to record mortality (see notably Pelletier et al., 1997 for an application to Canada in the nineteenth century).
15.For example, the 1870 census is deemed to be the worst of all the six censuses from 1850 to 1900 while the census of 1880 is deemed the best. Any panel estimation would thus face a bias because of measurement error, which would lead to an underestimation of the change in mortality between the two censuses (that is, the undercounting problem is greater in 1870 than 1880). A year fixed effect would not fully resolve the issue, as it would capture both time effects and census effects. To circumvent the issue, we tried a panel approach that includes a state-specific time trend. In that setting, the year-fixed effects capture the census-related measurement problems and the time-trend specific to each state are supposed to capture the effects of time. This is imperfect as it does not directly deal with varying census quality, but it does approximate this. The year-fixed effects assume that the problem is inherent to the entire country. The time-effects are specific to each state. This is imperfect but it also allows us to use state-fixed effects to control for any unobserved heterogeneity between states. We find the same results as those we find below: economic freedom reduces the log of typhoid fever deaths while it has no significant effect on the log of smallpox deaths. The results hold if we exclude the census of 1870. They also hold if we keep the sample balanced over time. Results available are available in online supplementary materials at https://vincentgeloso.files.wordpress.com/2021/04/ejle-appendix-pdf.pdf.
16.The census of 1880 provides a breakdown of the area of the different states including the water sources. We used that breakdown, subtracted coastal waters (which would be saline and thus unsuited for human consumption), and expressed it as a ratio to the state’s population.
17.However, including it does not alter our results.
18.To circumvent the issue that some states had zero smallpox deaths, we added 0.1 to the rate before converting to logarithm. However, when we used the non-log form of death rates, all the results for typhoid fever are the same (in fact, significance improves). The results for smallpox are unchanged. We also tried using the inverse hyperbolic sine transformation (log(yi+(y2i+1)12)log(yi+(yi2+1)12)) to express our variable differently (see Bellemare & Wichman, 2020). Our results are unchanged.
19.When we used the level rather than the log of death rates, the significance of economic freedom improves and is often significant above the 5 percent level. We also attempted to exclude the number of physicians to population as this could be construed as a bad control as economic freedom could increase the supply of physicians thus reducing mortality. The results are unaffected by the removal of this variable. This is consistent with the weak correlation (-0.07) between economic freedom and the supply of physicians. The correlation is weak for all years. Regression tests also show no statistically significant effects of EFUSA on supply of physicians when controls are added.
20.The descriptive statistics for the censuses of 1850, 1860, 1870, and 1890 are provided in our supplementary materials at https://vincentgeloso.files.wordpress.com/2021/04/ejle-appendix-pdf.pdf.
21.For both smallpox and typhoid fever deaths, the R2 falls from census to census. One possible explanation is that that the explanatory power of the control variables is exaggerated in earlier censuses because those control variables are better at predicting ascertainment than they are at predicting actual mortality. If, for example, more urbanized states did a better job of counting smallpox deaths in 1850, 1860, and 1870, that would exaggerate the positive correlation between smallpox deaths and urbanization, and thus including urbanization in the regression would more dramatically increase R2. Then in 1880, the R2 drops because the differences in ascertainment are less pronounced and thus the predictive power of the controls is reduced. Another possibility is that we are not capturing the level of medical knowledge that is evolving from census to census which is why the R2 would be falling without changing the relationship between the variables (because we expect a weak correlation between the omitted variable of “knowledge” and the controls).
22.Another data limitation is related to inequality (see Benitez et al. (2020) and Bertocchi and Dimico (2021) for discussion relevant to COVID-19). The distribution of income is related to vulnerability within the population. The problem is that inequality data for the nineteenth century is limited. Efforts in the future to expand on the Troesken hypothesis should include efforts to measure inequality better and include it as a relevant control.
23.The work of Desierto and Koyama (2020) clarifies why the politically optimal pandemic policy may not be the socially optimal one using a formal model; Boettke and Powell (2021) explain the challenge of designing and implementing optimal pandemic policy from the perspective of information and incentive problems confronting political decision-makers.
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