いまアメリカでは，医療従事者が 100万人不足してる．医療制度への負荷が極度に強まっている今日の状況で，医療従事者の人数は1600万人となっている．この数字は，2020年1月にパンデミックがはじまった時点の人数よりも約50万人少なくて，過去数十年の伸びから予測される人数よりも約100万人少ない．これほど大勢の従事者の減少は，前例がない．
Atlantic 誌の Ed Yong が「医療従事者がどうして大挙して離職しているのか」を論じている：
どんな環境に身を置いていても，医療従事者たちは他人の死やストレスやトラウマを濃厚に経験しながら暮らしている．「そういうものを目の当たりにするとわかっていて，ここにやってくるんです」と Cassandra Werry は語る．彼女は，アイダホで勤務中の ICU 看護師だ．「誰もが回復してくれるわけじゃないけれど，結局のところ，みんなの具合をよくするのが目的なんです．その勝利のために，献身しているんです．」 COVID-19 で，そのバランスは崩れた．熟練看護師ですらこれまでに見たことがないほど最悪の症状を呈する患者たちに直面して，ただでさえ困難な仕事は，もはや耐えがたいものになった．
2020年の春，「〔病院にやってくると〕遺体を積んだ冷蔵トラックの脇を通り過ぎると，その先の壁面には亡くなってしまった清掃スタッフや看護師たちの写真がいくつも貼られているんです．そこを歩いていって，さらに多くの遺体が並ぶ部屋に入っていったものです」と Lindsay Fox は言う．ニュージャージー州ニューウォークで，救急医として勤務していた人物だ．同時に，アリゾナ州フラッグスタッフの ICU 看護師 Artec Durham は，ナバホ・ネイション準自治領から送られてきた患者たちで病院が満員になっていく様をまざまざと目の辺りにしていた．「ほぼ全員が亡くなりました．私たちにできることは，なにもありませんでした」と彼は言う．「〔感染症で亡くなった遺体を収納する〕ボディバッグも，底を突いてしまいました．」
（…）ひとたびワクチンがやってくれば，そうしたトラウマ〔となる出来事〕も過去のものになるだろうと，多くの医療従事者たちは思い描いていた．だが，ワクチン摂取率が横ばいになり，マスク着用の義務が解除され，デルタ変異株が蔓延すると，そうした希望は消え去った．この夏，多くの病院では患者たちがまたしてもあふれかえった．ICU 受け入れを待つ患者たちが増えていく一方で，緊急治療室は満杯になり，さらに待合室や廊下まで患者たちでごった返した．「そうしたことが常態のようになって，疲労困憊といらだちの感情がいっそう悪化しています」と Bettencourt は語る．
医療従事者たちは患者を助けたいとのぞんでいる．しかるべき措置ができないでいるなかで，彼らはすっかりむなしさにとらわれている．「とくにいまはデルタ株で，うまく回復して帰宅する人は多くありません」と Werry は言う．こうした状況を経験することになるとわかっていたら看護学校に進んでいたかといろんな人に質問されたと彼女は言う．彼女にとって，「きっぱりと，ノーですね．」 （去年の12月に Werry はアリゾナの病院を退職して，学資ローンを返済し終えたら医療分野から離れる計画を立てている．）
（…）「つくづくいやになった，疲れ果てた，鬱になっている，いらいらが募っている，（当人にとって異例なこととして）そうした状態を内に隠しておけない」と語る人たちは多い．看護師たちは，「そうした感情を覚えるのは備品倉庫やトイレにとどめて，気分を切り替えていかにも平静を保ってふたたびリングに舞い戻っていく」のに長けているものだ．だが，彼女をはじめとして看護師たちは，たびたび涙があふれてしまいそうになったり，患者や同僚に当たり散らしやすくなっていたりするのだという．これを燃え尽きだと呼ぶ人たちもいる．だが，全米看護師連盟 (National Nurses United) で看護実習ディレクターを務めている Gerald Brogan は，そうした言い方を嫌っている．「燃え尽き」というと，「そこに人格が欠けている含みが出てくる」からだという．それよりも道徳的な苦悩と呼ぶ方を彼は好ましく思っている――正しいとわかっている行動をとれないでいる苦しみという方がふさわしいというのが，彼の考えだ．
医療従事者たちが離職しているのは，業務をうまく扱えないからではない．自分たちの務めを果たせないでいる感情を扱えないからだ．
多謝: Matt Yglesisas．
