アレックス・タバロック「男子の方が数学・科学に比較優位がある?」

[Alex Tabarrok, “Do Boys Have a Comparative Advantage in Math and Science?” Marginal Revolution, September 17, 2018]

疑問の形をとっていても,このタイトル「男子の方が数学・科学に比較優位がある?」はきっと性差別的に見えてしまうだろう.「タバロックは,男子の方が女子よりも数学と科学に秀でてるって言いたいの?」 いや,ぼくが言わんとしてるのは,男子の方が劣ってるかもしれないってことだ..

まず,いわゆる男女平等のパラドックスを考えてみよう.男女平等のパラドックスとは,男女平等の水準がもっとも高い国が STEM 教育の男女比で女性が少なくなるパラドックスのことだ.Stoet & Geary がこう述べている:

フィンランドは男女平等で傑出している(世界経済フォーラム,2015).思春期の児童・生徒をみると科学リテラシーで女子は男子にまさっており,ヨーロッパの教育成績で2位につけている(OECD, 2016b).全体的な男女平等でも教育成績でもこのように高い水準にあるからには,フィンランドは STEM 格差を狭めてよさそうなものだ.ところが,逆説的にも,フィンランドは STEM 分野で大学の学位取得の男女差が世界でもっとも大きい国となっている.同様に男女平等のランキングで上位にあるノルウェー・スウェーデンも,フィンランドとそうかけ離れてはいない(STEM 分野の卒業生のうち女性は 25% 未満).本稿では,このパターンが世界中で見られることを示す(…).

(近年書かれた複数の論文では,MOOCs など他の教育指標でも行動・性格の指標でもこのパラドックスが成り立っているのが見出されている.こうした研究のご教示に感謝: Rolf Degen

このようにいかにも逆説的に見える事態について,2つの説明が提示されている.第一に,男女平等が進んでいる国ほど,それほど平等でない国に比べて,より豊かな国,しかもより大きな福祉国家である傾向がある.その結果として,より豊かで男女が平等な国々では,キャリア選択に左右されるものがより少ない.STEM 分野の方が見入りがいい場合でも,所得が大きくなるとともに性別にともなう性格の小さなちがいがいっそう目立ってくると予想される.ジョン・アダムズをもじって言えば,必要なものよりも自分の興味関心を自由に追求できると人々が実感するのは,豊かな国にかぎられるのだ.男性に比べて女性の方が STEM への関心が少ないとき,所得が大きくなるとともにこのちがいがいっそう目立ってくると予想される.

2つ目の説明は,能力に着目する.大半の特徴で,男性の方がばらつきの度合いが大きいために数学・科学で女性より男性の方が異例な能力水準に達する場合が多い〔「 天才が多ければバカも多い」〕のだと論じる人たちもいる.この仮説は脇に置いておこう.かわりに,個々人とに注目して,読解・科学・数学での個々人の相対的な能力について考えよう――これを,Stoet & Geary は個人内スコア (intra-individual score) と呼ぶ.下記の図をみてほしい.これは,多くの国々でおよそ50万人の生徒から得られた PISA テストのデータに基づいている.左側にあるのは素のスコアだ(正規化ずみ).色に注目しよう.赤は読解,青は科学,緑は数学を表す.スコアがマイナスになっている場合(垂直線の左にスコアが伸びている場合),それが意味するのは女子のスコアが男子よりも高いということで,スコアがプラスになっているのは女子より男子の方がスコアが高いことを示す.調査対象になったどの国でも,読解は男子より女子の方が上回っている.また,一部の国では,科学・数学でも女子の方がスコアが高くなっている.

次に,右側のデータを考えよう.こちらについては,Stoet & Geary は,相対的に見てどの科目がいちばん得意かを生徒ひとりひとりに訊ねて,回答を国別に平均している.男女のちがいは,今度はさらに顕著になっている.たんに女子の方が読解に秀でているだけでなく,平均で見て数学・科学でも女子の方がすぐれている国ですら,女子は読解の方に長けているのだ.

このように,フィンランドのように科学で男子より女子の成績が上回っている場合ですら,女子は総じて読解の成績でも男子を上回っている.これが意味するのは,男子とちがって女子個々人の強みは読解だということだ.

さて,これで生徒たちにこう告げたらどうなるだろう――「得意なことをやってごらん!」 大雑把に言えば,状況はこんな具合になるだろう:女子はこう言う――「歴史と国語は A で科学と数学は B だから,長所をもっと伸ばして歴史や国語と同じ技能を活かすことにしよっと!」 一方,男子はこう言う――「科学と数学は B で歴史と国語は C だから,長所をもっと伸ばして科学や数学がからんでることをやろっと!」

これはカナダの高校生を調査した Card & Payne の研究とも整合してるのに注目してほしい(この研究は以前に「理系科目の男女差はキミが思ってるようなのじゃないよ」(原文)でも取り上げた).

平均で見ると,UP(タバロック註:「大学進学課程」(University Preparation))の平均成績では,数学・科学のスコアは男女でほぼ同じだが,受験可能な大学のランキングを決める上位6スコアをしめる英語/フランス語その他のコースで女子は男子より高い成績をとっている.高校卒業時点で STEM 分野に進める状態にあるのを前提としたうえで STEM 分野を専攻にする確率の男女差は,相当の割合がこの比較優位によって説明される.

ぼくが以前に述べたのがこちら:

(行き過ぎなくらい)単純に言えば,大学に進めるくらいすぐれた男性は STEM が得意な男性しかいないってことだ.一方,女性は STEM 以外の分野にも STEM 分野にも進めるくらいすぐれている.このため,大学生全体をみると,STEM 以外の分野は女性が多数を占め,男性は STEM 分野で生き延びることになる.

最後に, Stoet & Geary によれば,上記のように考えると男女平等のパラドックスも説明がつく.なぜなら,個人内の相違がもっとも大きくなるのは男女がもっとも平等な国だからだ.下記の図を見て欲しい.左側 [a] では,科学の個人内スコアの男女差〔ヨコ軸〕が,男女の平等度合い〔タテ軸〕とともに高まっているのを示している.〔ヨコ軸の〕スコアが高いほど,男子が科学を相対的な強みとしてる場合が多いことを意味する(i.e. 女子の方がどんな科目でも絶対値ではすぐれているとしても,女子は読解の方が比較的にすぐれていることがこの図からうかがえる).また,図の右側を見てもらうと,STEM 分野に進む女性の割合は男女平等の度合いが高いほど少なくなっているのがわかる.

STEM 分野で男性の割合が非常に大きいのは,通例,(遺伝的にであれ,文化的にであれ,他のなによってであれ)男性がこれに長じていて女性がこれを不得手としていることに起因しているのだと考えられている.Stoet & Greary によれば,こうした結果をもたらしているのは相対的な強みの男女差でありうる.それどころか,比較優位の理論からは,Stoet & Geary からさらにこれを敷衍できることがわかる.たとえば,あらゆる分野で男性は女性より劣っているものの,男性はいちばんマシな分野すなわち科学に特化しているのかもしれない.言い換えると,あらゆる分野で男子は絶対劣位にあるものの,数学と科学では比較優位にあるのかもしれない.この説が正しいとは主張しないけれど,同じパターンをこれまでとまったくちがったかたちで解釈できる方法を理解するための純粋な事例について考えることには値打ちがある.

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