アレックス・タバロック「透明性を高めすぎると世の中いっそう不透明になる」(2020年1月10日)

[Alex Tabarrok, “Too much transparency makes the world more opaque,” Marginal Revolution, January 10, 2020]

『ニューヨークタイムズ』のキャスリン・キンズバリーの論説ページを見ると,誇らしげにこう宣言している――これまで伝統的に,選挙の候補者たちとオフレコで話したあとに,自分たちが支持する候補を公表するやり方をとってきたけれど,今後は完全に「透明に」するんだそうだ.

1月19日に,@nytimes 論説委員会は,支持する民主党の大統領選指名候補を公表します.候補者を支持するのはこれが初めてではありません――1860年からずっとやっていることです――ただ,今回からはいままで以上に透明な支持対象の選定プロセスをとることを目指しています.伝統的に,支持候補のインタビューはオフレコでなされてきました――つまり,インタビューでの発言はいっさい公表されず,論説委員会の最終判断だけを公表するやり方をしてきました.

[しかし,今回は]@nytopinion では初めて,大統領候補者たちへのインタビューすべてを記録し,映像に残します.来週,私たち論説委員会はインタビューの前編書き起こしをオンラインで公開する予定です.

なんともひどいアイディアだ.いままで『ニューヨークタイムズ』がふるってきた影響力がどうだったにせよ,確実に,今後はゼロになるね.

この件の問題点.オフレコ方式だと,おりこうな人たちと同席して,こんな風に発言できる.「関税がダメなのはわかってるんだ.WTO につぶされるだけだ.ただ,どっちにしてもうちの支持者に訴えかける必要があるんだよ」とか,「億万長者に課税したところで,オレがのぞんでるほどの財源にはならんのはわかってるんだ,ただ,中間層に増税するとなると,『誰もが相応の負担をすることになる』ってことを中間層になっとくしてもらう必要がでてくる」とか,「うちの部隊の士気が下がっていて,この計画じゃうまくいきそうにないね」とか.もし,なにもかも記録したら,こういうことはもう言えなくなる.

というか,「透明」で「公開された」プロセスにすることで,『ニューヨークタイムズ』がどんな付加価値をえられる? 〔この方式で候補者から〕出てくる発言は,もうとっくにどこかで言ってるようなことばかりになるだろうに.

これと対照的に,透明でないオフレコ方式のプロセスなら,新しい情報を明かせる.なぜって,あまり透明にしないことで,いっそう率直にものを言えるからだ.オフレコ方式は,確実に有用な情報を引き出す保証にはならない.『ニューヨークタイムズ』には固有のバイアス・偏りがある.オフレコ方式がうまく機能するのは,〔発言をすべて漏らさず表に出さないという点で〕網の目が粗いからにほかならない.でも,目が粗い方式の方が,かえって上方をより多く明らかにできる.

透明性をもとめるのは,ごく無害に見える.いったい,透明性を高めましょうって話に反対できる人なんている? でも,透明性はプライバシーには有害だ.ぼくらがプライバシーを気にかける理由の一端には,公の場よりも私秘的な場の方でこそ正直かつ率直になれるって部分もある.信用できるオフレコ方式では,ほんのちょっとだけ率直な話を公共の領域に漏洩させる.そうすることで,情報全体を改善するわけだ.これと対照的に,あまりに透明性を高めると,世の中をいっそう不透明にしてしまう.

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