アレックス・タバロック「2022年のノーベル経済学賞はバーナンキ、ダイアモンド、ディビッグに」 (2022年10月10日)

Alex Tabarrok ”The Nobel Prize Goes to Bernanke and Diamond and DybvigMarginal Revolution, October 10, 2022

今年のノーベル賞は、銀行制度に関する研究によってバーナンキ、ダイアモンド、ディビグが受賞した。バーナンキは当然の選択だろう。てかもう受賞してたんじゃなかったっけ。とはいえ、彼ほど研究において輝かしい経歴がありながら、公共政策においてもそれに勝るくらいの業績をあげた人はあまりいない。有名な政治家になった経済学者は何人かいるけれど、研究において築き上げた自らの知見を実行、応用、検証することで公共政策の業績を打ち立てた経済学者はちょっと他には思いつかない。

バーナンキは、みんな知っているとおり大恐慌に関する重要な論文を複数書いている。このうち、ノーベル賞委員会は「大恐慌の伝播における金融危機の非貨幣的効果」という1983年の論文を明示していて、この論文は(フリードマン=シュワルツが言うような)マネーサプライの低下だけでなく、信用供給の低下も大きな役割を果たしたことを示した。これはつまり、1930年代の一連の銀行破綻によって減少した経済の生産能力は、単にお金を刷るだけでは対処できないものだったということだ。タイラーと僕の共著の教科書「現代経済学原理(Modern Principles)」で強調しているように、名目ショックと実物ショックは互いに影響し合っていることが多い。バーナンキはその後、よく知られているようにこうした一連の考えを連邦準備制度理事会議長として2008年~2009年の金融危機に際して実行に移した。バーナンキは銀行やシャドーバンクの救済が決定的に重要だと考えていたけれど、それは彼が金融業界の利益を気にしていたからではなく(彼はウォールストリート関係者じゃない)、銀行は貯蓄者と投資家の間をつなぐ重要な架け橋であって、この橋が崩落してしまったらその結果は破滅的なものになってしまうと彼が信じていたからだ。バーナンキは橋を救うために銀行を救済したんだ。

僕はバーナンキが1983年に出した、上述のものより多少知名度の落ちる「不可逆性、不確実性及び景気循環的投資」という論文も僕のお気に入りだ(1983年は論文の奇跡の当たり年だ)。バーナンキはこの論文によって、その後リアルオプション分析とよばれるようになるもの、つまり金融商品のオプションと同じようなオプションとして投資を捉える考え方に先鞭をつけた。投資には二つの重要な特徴がある。すなわち、たいていの場合は投資を行う前にもう少し情報を集めるために待つことができるということと、その一方でいったん投資を実行してしまうとそれはもう投下済みとなってしまう。つまり不可逆性だ。バーナンキが特に示したのは、彼が「悪いニュースの原理」と名付けたちょっと驚きのものだ。悪いニュースの原理によれば、投資を行うかどうかに重要なのは予想される悪いニュースの深刻さだけであって、良いニュースは全く関係しない。その理由は、投資家が行わなければならない実際の決断は、今すぐに投資するか、あるいは情報を集めるためにちょっと待つかというものだけれど、待つことに価値が生まれるのは良いニュースの可能性があるからではなくて間違いを避ける可能性があるからだ。投資家がぎりぎりのところで気にするのは、過ちを避けることなのだ。悪いニュースを避ける、つまりは下向きの保険を生み出すことによって投資の波が引き起こされることで、莫大な上昇局面を生み出すこともできる。バーナンキはこの教訓をFEDでの仕事にも生かした。

バーナンキの著作は言うまでもなく多数にのぼり、回顧録も書いているので、僕がここで言うべきことは、彼が研究者としても中央銀行家としてもその思想と行動が素晴らしく一貫しているということ以上はなさそうだ。

ダイアモンドとディビグは今や標準となった銀行制度のモデルの生みの親だ。バーナンキやダイアモンド=ディビグのモデルの詳細はタイラーの記事を読んでほしい。

 

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