●Alex Tabarrok, “Politically incorrect paper of the month, v.3”(Marginal Revolution, August 28, 2004)
今回紹介する論文のタイトルは、「『ながら運転』と『飲酒運転』の比較」(“A Comparison of the Cell Phone Driver and the Drunk Driver”)。以下にアブストラクト(要旨)を引用するが、読み手の立場の違いに応じて二通りの結論 [1] 訳注;「『ながら運転』の罰則を強化しろ!」/「『飲酒運転』の罰則を緩めろ!」を導き出せることだろう。
本稿では、高性能のドライビング・シミュレーターを使って、「ながら運転」――携帯電話で通話をしながらシミュレーターを操作――と「飲酒運転」――お酒を飲んで、血中アルコール濃度が法律で定められた基準値に達した状態でシミュレーターを操作――のパフォーマンスの違いを比較した。携帯電話を手に持って、あるいは、ハンズフリーの携帯電話で誰かと通話しながらシミュレーターを操作した被験者は、通常時(「ながら運転」も「飲酒運転」もしていない時)と比べて、ブレーキをかけるまでの反応時間が遅く、事故を起こす可能性が高い傾向にあった。その一方で、血中アルコール濃度が法律で定められた基準値に達した状態でシミュレーターを操作した被験者は、通常時(「飲酒運転」も「ながら運転」もしていない時)と比べて、運転が荒い――画面上で前方を走る車との車間距離が短く、ブレーキペダルを踏む力が強い――傾向にあった。諸々の事情にコントロールを加えると、「ながら運転」の方が「飲酒運転」よりも運転を阻害する程度が大きいことが見出された。本稿で得られた結果は、周囲の状況への注意を疎(おろそ)かにする「ながら運転」に対処する法規制のあり方をめぐって、いくばくかの示唆を与えている。
たった今引用したばかりのアブストラクトでも実験結果が正直に報告されているわけだが、本文ではもう少し「政治的に正しい」方向にハンドルが切られているようだ。
携帯電話で誰かと通話しながらシミュレーターを操作した被験者は、通常時と比べると、画面上で前方を走る車に追突する可能性が高く、ブレーキをかけるまでの反応時間(画面上で前方を走る車のブレーキランプがついてからブレーキペダルを踏むまでの時間)が8.8%ほど遅く、前方を走る車との車間距離の標準偏差が24.5%ほど大きくなった [2] 訳注;「前方を走る車との車間距離の標準偏差が大きい」というのは、前方を走る車との車間距離が安定していない、という意味。。さらには、通常時と比べると、一旦ブレーキをかけて減速した後に元のスピードに戻るまでに4.8%ほど長い時間を要した。
それとは対照的に、血中アルコール濃度が法律で定められた基準値に達した状態でシミュレーターを操作した被験者は、事故を起こす可能性にしても、ブレーキをかけるまでの反応時間にしても、一旦ブレーキをかけてから元のスピードに戻るまでに要した時間にしても、通常時とそんなに変わらなかった。