スコット・サムナー「言語と失業」

[Scott Sumner, “Language and unemployment,” Money Illusion, May 2, 2017]

地図はぼくの好物だ.先日,ランディ・オルセンがヨーロッパの失業を示すおもしろい地図にリンクを貼っていた:

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この地図を見る前から,フランスよりドイツの方が失業率が低いのは知っていた.そしてやっぱり,失業率は両国の境界で劇的な変化を見せている――ライン川流域がそれだ.

きっと,ドイツの失業率の方が低いのは,労働市場規制がすぐれていることの反映なんだろうと想定していた.ところが,このグラフはそれと別の相違点を示唆している――言語のちがいもあるようだ.ゲルマン系言語圏はロマンス系言語圏よりも失業率が低いと仮定してみよう.言語と政府政策のどちらがより重要なのか検証するにはどんな手があるだろう?

ひとつには,複数言語が話されている国がある点に着目するアプローチがあるだろう.すると,ベルギー南部とスイス南西部はロマンス系の言語を話しているのに対して,両国の他の地域は大半がゲルマン系言語を話している.

さて,地図に目を向けよう.ベルギーに先鋭な失業率の分断があるのが見える.まさしく,フランス語とフラマン語の境界線でわかれている.それに,スイスでもフランス語を話すジュネーブ,ボー,バレーやイタリア語を話すティチーノの方が失業率がずいぶん高いのが見てとれる.下記はスイスの地図だ.州がもっとはっきりと見える.

Screen-Shot-2017-05-01-at-9.41.05-PM-e1493689843666リシャからイタリア南部,サルディーニャからスペイン南部まで,とても失業率が高い地域になっているのに気づく.もしかすると,言語の問題ではなくて緯度の問題なのかもしれない.あるいは,言語と緯度がそろって文化の代理変数になっているのかもしれない.でも,この理論にぞっこんになってしまう前に,ひとつ問題がある.2005年に,ドイツは約11パーセントの失業率で「ヨーロッパの病人」とみなされていた.10年の尺度で当てはまったり当てはまらなくなったりする文化的説明には懐疑的になった方がよさそうだ.もちろん,文化が12年でそんなにはげしく変わるわけがない.

結局のところ,「事情は複雑だ」と考えたくなっている.おそらく,ここで一役買っている要因はいくつもあるんだろう.かつて,ベルギー南部は北部より豊かだったことがあるけれど,今日ではむしろ赤さび地帯(ラストベルト)となっている.かつての重工業が,北部のフラマン語地域のもっと新しい企業ほど競争力がなくなっているためだ.きっと,スイスにも同様の説明が当てはまるはずだ.もしかすると文化と政府政策が相互作用するのかもしれない――両者の相互作用でヨーロッパ最南端の人たちは過剰な労働市場の硬直性と結びつく政治的な帰結にいたる文化をもっているのかもしれない.

このとおり,かんたんな答えはない.ただ,この地図が思考の食べ物なのはまちがいない.

追記.失業率は豊かさと関係している.それどころか,これまでの数十年よりいっそう密接に関係するようにはなっている.ただ,この相関はいまだに完璧というにはほど遠い.イタリア北部は雇用よりも豊かさの方でうまくやっている(「ヨーロッパの豊かな中枢」記事を参照してほしい.) たとえば,ロンバルディアはイギリス北部より失業率が高いけれど,より豊かだ.あるいは,(豊かな)パリとチェコ共和国を比べてみるといい.

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