アレックス・タバロック 「意図せざる結果の法則」(2008年1月24日)

●Alex Tabarrok, “The Law of Unintended Consequences”(Marginal Revolution, January 24, 2008)


ダブナー(Stephen Dubner)&レヴィット(Steven Levitt)の『ヤバい経済学』コンビがニューヨーク・タイムズ紙に記事を寄稿している。テーマは、「意図せざる結果の法則」だ。その実例として、3つのエピソードが紹介されている [1] … Continue reading。「障害を持つアメリカ人法」(ADA)は、障害者を雇うコストを高めて(pdf)、結果的に障害者の雇用を減らす効果を持った。旧約聖書に記された借金棒引きを認める律法は、借金の返済に苦しめられる貧しい人々の救済を意図していたが、その意図に反して貧しい人々の立場を悪化させる結果につながった(pdf)。「絶滅の危機に瀕する種の保存に関する法律」は、絶滅危惧種に指定された動物の住処(となる可能性のある生息地)を破壊する結果を生んだ(pdf)。

この記事に反応するかたちで、アンドリュー・ゲルマン(Andrew Gelman)がディープな質問を投げ掛けている。「意図せざる結果の『法則』」と言うが、それは一体どういう種類の法則なのか?、と。

「意図せざる結果の法則」は、「シンプルなシステム」が「複雑なシステム」に介入を試みることで生起する法則である、というのが私なりの回答だ。例えば、政治システムは「シンプルなシステム」である。政治の場では、乏しい情報をもとにして意思決定が下され(「合理的無知」が蔓延っている)、近視眼的な振る舞いが目立ち、行動と成果の間のフィードバックも乏しく、歪んだインセンティブに晒されているケースも珍しくない。それとは対照的に、人間社会は「複雑なシステム」であり、時とともに変容を遂げ、行動と成果の間のフィードバックが強力で、社会に生きる一人ひとりは独自のインセンティブに突き動かされている。「シンプルなシステム」が「複雑なシステム」への介入を試みるや、時として「意図せざる結果」が生じることになるのだ。

人間社会だけが「複雑なシステム」というわけでは当然ない。生態系も「複雑なシステム」の一つであり、政府(「シンプルなシステム」)が生態系への介入を試みる場合にも「意図せざる結果」が引き起こされる可能性は大いにある(政府による山火事対策(pdf)が樹木の多様性を損なう結果につながり、そのせいで大規模な山火事がかえって増える/政府によるダム建設が湿地の減少を招き、そのせいで洪水が起きやすくなる等々)。そればかりではない。複雑な物理システムへの介入にも「意図せざる結果」が伴うおそれがあるのだ(タコマナローズ橋の崩壊事故は、その古典的な例の一つだと言えるだろう)。

政府の介入が引き起こす「意図せざる結果」は、ネガティブな(好ましからぬ)効果を伴う場合が多い――あくまでも「そうなる場合が多い」であって、「常にそうだ」というわけでも「必然的にそうなる」というわけでもない――が、それはおそらくただの偶然ではない。例えば、法律によってすべての賃貸アパートにエアコン(空調機)の設置が義務付けられたとしたら、大家にとっては(エアコンの設置費用を負担せねばならなくなるため)痛手となる一方で、借家人は(自分でエアコンを購入しなくても、入居先のアパートに備え付けてあるので)得をするように見える。だかしかし、大家は難なく対抗手段に訴えることができる。家賃を引き上げればいいのだ。しかしながら、大家がそのような対抗手段に訴えたとしたら、結果的に借家人も大家もどちらもともに損をする格好になってしまうだろう。

規制をはじめとした政府の介入が(人々を突き動かしている)インセンティブに真っ向から対立するようだと、それに歯向かう対抗手段が編み出され、その結果として「意図せざる結果」が引き起こされるというかたちになっているのかもしれない。しかしながら、あらゆる規制が人々のインセンティブを無視しているわけではない。人々の行動を意図した方向に変えるために、インセンティブの操作を試みている規制もあるにはある。しかし、インセンティブというのは複雑怪奇な代物だし [2]訳注;この点については、本サイトで訳出されている次の記事も参考になるかもしれない。 ●タイラー・コーエン … Continue reading、規制が導入される前と後とで人々の行動を制約する条件に変化が生じることもあるだろう。そういった事情を踏まえると、人々のインセンティブを考慮に入れた規制であっても「意図せざる結果」を招く可能性は大いにあるのだ。

「意図せざる結果の法則」は、どのようなメッセージを伝えているのだろうか? 政府に対して「複雑なシステム」への介入を禁じているのだろうか? いや、そうではなかろう。政府は謙虚な姿勢を保つべきであり(人間や社会を丸ごと作り変えようなんて大それた考えを抱くなかれ!)、「複雑なシステム」に介入するためのハードルは高くせよ。「意図せざる結果の法則」は、そのように説いているのだ。

References

References
1 訳注;この話題は、『超ヤバい経済学』(スティーヴン・レヴィット&スティーヴン・ダブナー(著)/望月衛(訳))でも取り上げられている(pp. 176~178)。
2 訳注;この点については、本サイトで訳出されている次の記事も参考になるかもしれない。 ●タイラー・コーエン 「住民の多くが放射性廃棄物貯蔵施設の受け入れに同意するのはどんな時?」/●アレックス・タバロック 「『外的なインセンティブ』と『内発的な動機付け』の相互作用 ~ベナボウ&ティロール論文のエッセンス~」
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