ウォーレン・モズラー「小規模銀行の貸出を復活させるには」(2010年1月6日)

古い記事ですが、SVB破綻騒動を受けてかモズラー本人が「今でも有効だ」とツイートしていたのでご紹介してみました。

 FRBは、すべての加盟銀行に対し、無担保で無制限に目標金利での貸出を行い、同時に、銀行の資金の一定割合を「リテール」預金とさせる要件をすべて撤廃すべきである。


 オバマ政権は、中小銀行を立て直し融資を再開させることの重要性を説いている。ここでは、この問題における決定的な論点と解決策を提案する。

 まずは、答えから。

  1. FRBは全ての加盟銀行に対し、無担保で無制限に目標金利での貸出を行うべきである。
  1. そして規制当局は、銀行に資金の一定割合を「リテール」預金として確保させる要件をすべて撤廃すべきである。

 そう、これはとてもシンプルだ。このシンプルで簡単に実行できる「修理」は、現在の政府の政策によって課せられた不必要なコストを取り除き、中小銀行の融資をボトムアップで回復させるよう直ちに機能するだろう。

 小規模銀行の目下の問題は、資金調達コストが高すぎることだ。彼らの現在の真の限界資金コストは、「大きすぎて潰せない」大規模銀行が資金調達のために支払っているFFレートを少なくとも2%上回っていると思われる。このため、小規模銀行の最低貸出金利は少なくともその分だけ高く維持されており、コストが借り手を排除する働きをしている面もある。

 資金調達コストが高い第一の理由は、一定割合の「リテール預金」の保有がその条件となっていることである。このためすべての銀行がこうしたタイプの預金をめぐって競争することになる。機能的に、貸出が預金を生み出すのだから、すべての融資に資金を供給するのに十分な預金は常に存在する一方で、常に幾分かの「漏れ」が存在する。この「漏れ」とは、流通する現金であり、一部の銀行が、特に大手のマネーセンター銀行がリテール預金を過剰に保有していることであり、その他いくつかの「営業的要因」もある。このため、小規模銀行は譲渡性預金市場でリテール預金の価格を互いに吊り上げ合うことになり、こうしてすべての銀行の資金コストが引き上げられ、少しでも「弱い」と見なされた銀行は、その預金が完全にFDIC保険で保護されているとしても、余分に高い金利を支払うことになる。

 小規模銀行はさらに、真の限界資金コストに 1% 以上を追加することによって個人預金を引き付けるべく、”高くつく”支店を開設するように駆り立てられる。つまり規制当局が、制約された資金源を求めて小規模銀行たちを競争させることで、事実上、資金調達コストは引き上げられている。

 上述の解決策は、すべての小規模銀行にとって資金コストを直ちに引き下げるものであることは明らかだ。この提案に対しては、いつものように多くの反対意見が出されるだろう。このような反対意見が取るに足らない理由を理解するためには、今日の「非兌換」通貨と変動為替レート政策による銀行業務を考える際に念頭に置かなければならない二つ基本的な事柄を念頭に置いて、こうした反対意見を整理することが重要だ。

  • 銀行の負債サイドは、市場規律に委ねる場ではない。
  • FRBや金融政策全般は価格(金利)についてのものであり、量についてのものではない。

 銀行に預金獲得を競わせることはこれまで何度も試みられてきたが、それは必ず失敗する。第一に、例えば当座預金や普通預金口座を開設しようとする人が、競合する銀行の財務状況を分析する責任を負うことは、根本的に非現実的であり、ばかばかしい限りだ。1934年、銀行制度がいった閉鎖され、小口預金に対する連邦預金保険を導入して再開されたときの米国はこのことを痛感していた。この目的は、市場から責任を取り除くことに他ならなかった。これ以降、銀行の融資と投資に対する規制と監視が必須となった。その後米国の銀行システムは、規制と監督の甘さによって定期的に破綻が発生してきたが、規制と監督そのものは現在も進行形であり、市場規律のために銀行の負債側面を利用するという選択肢よりもはるかに優れたものだ。

 世界の中央銀行で金融業務に直接携わっている者を含め、準備預金会計と金融業務を理解している者には、銀行業務における因果は融資から預金という関係であり、必要準備とは、せいぜい中央銀行における”残余的貸越”に過ぎず、制御変数ではないことは何十年も前から知られていたことである。

 その一人であるイングランド銀行のチャールズ・グッドハート教授は、およそ半世紀にわたってこのテーマで幅広く執筆を重ね、金本位制や固定為替レートのレトリックをまき散らす「マネタリスト」の経済学者と延々と議論してきている。彼らは通貨の法的兌換性が無くなると金融運営がどのように変化するのかを知らないでいる。

 2008年の「5000億ユーロの日」を思い出してほしい。ECBが銀行システムにそれだけのユーロの準備預金を追加したのに、その一週間後にマネタリストたちがそうしたデータを探してもそれは「見つからなかった」のだ。彼らが調べたという事実が、準備預金会計や金融操作に関する実際の知識がないことの十分な証拠だった。さらに最近では、「量的緩和」が金利の変化とは別の何らかの効果をもたらすという考え方(ポイントは常に価格であり量ではない)が、金融操作と準備預金会計ついてはまだほとんど理解が進んでいないという事実を補強している。

 グッドハート教授は英国の量的緩和を「成功」としたが、それは「信頼」を回復させたという理由であり、過剰の準備預金から貸出へ向かう貨幣の因果の経路が存在しないことは明らかであった。銀行は準備預金を「貸し出す」ことはしない。貸出が自らの預金を生み出すのだ。貸出によって準備預金の総量が減少することはない。これは運用上の、また会計上の事実であり、理論でも哲学ではない。

 これが意味するのは、FRBが目標金利で銀行に無制限に融資するという上記の提案は、結果として生じる金利の期間構造そのものを除けば、何の結果も変えることはないということだ。(さらに、また重要ではないことに、FRBによる貸出総額は、日常的に準備預金を「流出」させる通常の運用要因によるものと、一部の銀行が「買いだめ」した分の合計を超えることはない)。言い換えれば、この政策が何らかの形でインフレを引き起こすマネタリスト型の「貨幣印刷的」拡大をもたらすという考え方は、まったく的外れだ。

 FRBの銀行への無担保融資のもう一つのよくある懸念は、「納税者のお金」を失う危険性があるというものだ。しかし政府全体を見れば、そんなものは存在しない。銀行の資産(貸出やその他の投資)はすべて、すでに強烈な規制と監督を受けており、銀行は常に厳しいソルベンシー・テストにさらされている。つまり、政府はすでに銀行に対して「貸しても安全」との判断をしているのだ。

 さらに、銀行はすでにFDIC保険付き預金で無制限に資金を調達することができる状態にある。つまり政府はすでに実質的に銀行に無制限に貸出を行っていると同時に、すべての銀行の融資、投資、資本要件などを規制・監督することで自らを保護している状態にある。したがって、FRBが加盟銀行に貸出の担保を求めることは、まったく冗長であると同時に、混乱を招き、借り手の金利を上昇させる原因となるだけである。

 中小企業にサービスを提供する小規模銀行の競争力を回復するため、オバマ政権は上記の提案の実施に直ちに着手すべきである。


 訳者より。
 古い記事ですが、SVB破綻騒動を受けてかモズラー本人が「今でも有効だ」とツイートしていたのでご紹介してみました。

Warren Mosler “How to Restore Small Bank Lending”  
https://www.huffpost.com/entry/response-to-president-oba_b_413292

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