クルーグマン「ジャネット・イェレン:経済学者の経済学者」

Paul Krugman, “Janet Yellen: The Economist’s Economist “, October 17, 2013.


ジャネット・イェレン:経済学者の経済学者

by ポール・クルーグマン

Mary F. Calvert/The New York Times Syndicate
Mary F. Calvert/The New York Times Syndicate

連銀の議長にジャネット・イェレンが指名された件について書くのをいままでサボってきた.ひとつには,正確なところ何を言えばいいのか自信がなかったせいもあるし,ぼくも含めて多くの経済学者が彼女が選ばれたことをほんとに喜んでいる理由をどう説明したものかよくわからなかったからでもある.

でも,『ニューリパブリック』の最近の記事で,ノーム・シーバー (Noam Scheiber) が大事なところをズバリと突いてる.イェレン女史の件のなにが心強いかと言えば,彼女の実績じゃあなくて,彼女が付き合っている仲間がどういう人たちなのかが,その大事なところだ.彼女は間違いなく経済学者たちが推す候補者なんだ.

連銀議長の候補に浮上してきた人たちは,なんらかのかたちでウォール街に密接なつながりがあった――ラリー・サマーズですらそうだ.サマーズは,経済学の研究者として立派な実績をもっているけれど,金融企業のコンサルで稼ぎをあげてきた面でも立派な実績をもっている.平時なら金融や企業なんかの深い知識がすぐれているって主張するのもいいけど,ここで,2つばかり根本的な真実がある:いまぼくらがはまってる苦境について,ウォール街の大半には責任がある.それに,金融業界のタイプは,一貫してまちがってきた――たんに危機以前にそのリスクを理解し損なっていただけでなく,その後にやってくる事態の診断もまちがっていた.なにより,彼らは銀行救済は金融界にとどまらず景気回復への道を舗装することになるという立場をとっていたけれど,実際はそうなっちゃいない.

他方で,これまで何度となく指摘してきたように,思慮のある大学のマクロ経済学者は,かなりうまく成果をあげている――そして,イェレン女史はそのうまくやってる仲間の一員だ.

というわけで,イェレン女史はこの点でぼくら部族の仲間であり,今日の経済において,これはすごくいいことだとぼくは思う.彼女の指名が歴史的な一幕になる――連銀を率いるはじめての女性となる――ってのは,余録みたいなもんだ.

© The New York Times News Service


【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する

新しいリーダー,変わらない政策

by ショーン・トレイナー

10月9日に,オバマ大統領は連銀議長ベン・バーナンキの後継にジャネット・L・イェレンを指名した.イェレン女史はこの中央銀行の副議長だ.この指名が上院で承認されれば,彼女は連銀を率いるはじめての女性になる.金融政策の「ハト派」でインフレを厳格に制御することよりも失業率を下げることの方に関心を向けている政策担当者だと広く考えられているイェレン女史は,バーナンキ氏が近年実施してきた刺激策を強く支持している人物だ.その刺激策には,金融緩和政策も含まれる.

バーナンキ氏のもとで,連銀は国債と不動産担保証券をこれまでに毎月850億ドル購入している.貸出を促し長期金利を低く抑えようというねらいだ.量的緩和プログラムは賛否両論あって,金融政策の「タカ派」は,量的緩和がインフレと資産バブルにつながりかねないと論じている.

イェレン女史はこの量的緩和プログラムの主要な提唱者の1人だ.連銀の議長として,彼女はこれを減速していく速度を監督することになる.アナリストのなかには,景気回復の基盤をもっと強固にするねらいで,イェレン女史はバーナンキ氏よりも長く量的緩和を継続するかもしれないと述べる人たちもいる.

『ワシントン・ポスト』のコラムニストであるニール・アーウィン (Neil Irwin) は,バーナンキ氏が設定した連銀の方向を強化するためにふさわしいと,イェレン女史の指名を支持する論を展開している.アーウィン氏はこう書いている:「オバマ大統領はアメリカの強力な中央銀行をこの先4年にわたって率いるのは,ベン・バーナンキと同じ哲学を共有する人物だと保証している:「いまアメリカ経済が直面している中心的な問題は高失業率だ.連銀は――たとえその課題にとって理想的な道具でないとしても――手持ちの道具を使ってこの失業に対応できるし,それどころか,そうする義務がある」というのが,その哲学だ.」

© The New York Times News Service

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