Paul Krugman, “Despite Glitches, Obamacare Likely To Succeed,” Krugman & Co., November 29, 2013.
技術的なごたごたはあるけど,オバマケアはきっと成功するだろう
by ポール・クルーグマン
アメリカの HealthCare.gov 論議についてこれまで書いてこなかったけど,理由は単純で,言うべきことがなかったからだ.この騒ぎは政策の問題をめぐるものじゃない:保険取引がうまく機能しているあちこちの州の状況から,適正価格医療保険法の基礎構造はまともに機能できるのがわかっている.今回の件は,政策の問題じゃなくて,オンラインでの実装をめぐる問題だ.信じられないおそまつぶりで,オバマ大統領の評判はひどく下げるヘマではある.
この改革の未来を左右するのは,政策そのものじゃあなくて,この情報技術の問題がじゅうぶん早期にじゅうぶんにうまく修復されるかどうかだ――で,そういう話題について,ぼくはまるっきり専門知識がない.
もちろん,専門知識がないからって,世論調査がでてくるたびに,下院で無意味な投票がなされるたびに,他の人たちが息もつかせず論評するのをやめることはなかった.「いやあ,生活がかかってるんでねぇ.」
でも,この時点ではじゅうぶんに情報が出てきていて,おかげでぼくも半可通ながらいくらか推測ができる――で,どうやら,この件は最後の最後までごたごたすることになりそうだ.州が運営してる登録サイトは大半がうまくいってる.メディケイドの拡大もうまく進んでる(それに,拡大を却下した州ですら拡大してる.なぜなら,のぞましいと知る人が増えてきたからだ.) また,HealthCare.gov は,かなりひどい有様ではあるけれど,ほんの数週間経ってみて,州の保険交換であれ保険会社と直接のやりとりであれ,どうやら多数の人たちが登録するのにうまく機能しはじめてるところのようだ.
この推測がすべて正しければ,3月に公開登録が終わる頃には,これまで保険に加入していなかった何百万ものアメリカ人が,この法の下で保険適用を受けるようになるだろう.そうなれば,改革はくつがえせなくなる.
オバマ氏は評判を回復しないかもしれない.2014年で勝ちの大波に乗りたいという民主党の希望も,失われるだろう.実際にどうなるかは知るよしもないけどね.ただ,オバマケアの瓦解に賭けてる人たちは,おそらく,かなり敗色濃厚だろう.
© The New York Times News Service
ニュースサイクルがつくりだす勘違い」
共和党が予想通りオバマケアに攻撃をかけてる件について一言――独創的な話じゃあないけれど,たぶん,よその人よりは率直な書きぶりのはずだ.で,その話:連中はバカどもだ.
世界がとりうる2つの状態を考えてみよう.一方では,HealthCare.gov の技術的な惨状は手に負えないありさまで,みんなの登録が終了する3月31日までに立ち上げるのにこのプログラムは失敗することになる.その場合,民主党は共和党がなにをどうしようと壊滅的な敗北を味わうことになるだろう.
もう一方の状態,よりありえそうに見える可能性の方では,登録プロセスは十分に機能するようになり,3100万人にものぼる,これまで保険に加入していなかった人たちや,ほとんど無価値な保険契約を結んでいた人たちが3月31日までに現実的な保険適用を得ている.こちらの場合,改革はくつがえしようがなくなり,共和党の焦土戦術的な反対は政治的に実行できなくなり,民主党の政治的勝利にいたる――最初から万事うまくいった場合の大勝利ほどじゃないけれど,勝ちにはちがいない.
他のことは重要じゃない.共和党は来月もずっとニュースで新しいネタがでてくるたびに勝ちを収めることができるけれど,1年後にはみんなそんなことすっかり忘れちゃってることだろう.
なにか現実の影響を及ぼすことで共和党にできることといったら,ただひとつ,法に対して妨害工作をすることだけだ.そして,彼らは現にそうしてる.貧しいアメリカ人のための政府による医療プログラムであるメディケイドの拡大を阻止できることなら,なんだってやってる.
でも,保険の交換がそこそこでも機能し始めれば,妨害だけじゃ足りなくなる――本物の保険はお金が払える金額で利用できるんだってことを若者も含めて人々が認識したときには,政治的なプロパガンダで保険を忌避させるのはできなくなるだろう.
もちろん,ぼくは間違っているのかもしれない.IT の補修は,技術オタじゃないぼくらが想像するのよりもずっと難しいのかもしれない.
でも,1つ確かなことがある:共和党の攻撃なんて大した問題にならないってことだ.
© The New York Times News Service
【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する
進行中の作業
by ショーン・トレイナー
10月1日に,バラク・オバマの目玉政策である適正価格保険医療法の主要な項目がアメリカで実行に移された.同法の最大の呼び物は,オンラインの保険市場 HealthCare.gov だ.このサイトを利用すると,消費者は保険適用を提供するいろんな保険会社からいろんなパッケージを見て選ぶことができる.
すぐさま,ユーザーたちから同ウェブサイトの問題の報告が上がり始めた.クラッシュする頻度が多くて,しかも多くの場合に,たて続きの不具合に辛抱した消費者に関する不正確なデータが保険会社に送られていた.こうして出だしに大きく躓いたことで,悪評が広まることになった.ウェブサイトの動作がいくらか改善されたにも関わらず,悪評は続いている.
10月になってしばらくたったころ,一部のアメリカ人に通知が届きだした.中身は,現行の保険契約は新法で指定される最低保険適用基準に合致しないので取り消されました,というものだった.オバマ政権は,新しいプランはもっと包括的な適用をもっと安価に提供すると主張している.多くの人が助成金を受け取ることになるからだ.
HealthCare.gov の問題がでてきたおかげで,契約取り消しの通知を受けたアメリカ人たちの大半は,自分が利用できる選択肢を十分に認識していない.反発と混乱により,オバマ氏の公的イメージは打撃を受けている.この前,彼の支持率は最低を記録したところだ.
11月半ば,政府は10月の登録者数を公表した.予想をかなり下回る数字だ.連邦政府のサイトを利用して保険に登録した人数は2万7千人未満.何年にもわたって保険拡大に苦々しく反対してきた共和党議員の多くは,これで自分たちの正しさが立証されたと主張している.
もともとの法案設計では,同法はそれぞれの州が固有のオンライン市場を開発するよう求めていたが,多くの共和党知事は保険交換所の設置を拒絶し,この作業を連邦政府と HealthCare.gov に丸投げしていた.
民主党の知事をもつ州の大半は州独自の交換所を設置し,そのなかには,連邦政府のサイトよりはるかに成功しているものもある.独自の市場をつくった州は14にすぎないものの,そうした州で10月に民間保険適用に登録した人数は,7万9千人にのぼった.また,いくつかの州では,登録者数増加が11月になって加速しているとも報告している.
© The New York Times News Service