サイモン・レン=ルイス「イギリスの貧困:根っこからの社会変革が進められつつある」(2018年11月19日)

[Simon Wren-Lewis, “Poverty in the UK: radical social re-engineering,” Mainly Macro, November 19, 2018]

英チャンネル4の番組で,国連特別報告者がイギリスの貧困について報告した件を報道したのに続いて,クリシュナン・グル=マーシー〔チャンネル4のジャーナリスト〕と財務相のあいだで議論が交わされた.財務相が貧困と格差の傾向に関するお決まりのあれこれの統計を繰り返し持ち出して説明すると,グル=マーシーがだいたいこんなことを言った――今回の報告書では政府が貧困を認めようとしていないと言っているわけで,いまあなたは報告書が正しいと図らずも証明したわけですね.とはいえ,財務相の言い分には正しいところもある:各種の貧困統計は顕著に悪化してはいないし,日付を注意深く選べばよくなってすらいる.それに,最低賃金の引き上げで貧困層は助かっている(こちらの IFS 参照).

他方で,グル=マーシーの言い分も正しい.労働党政権のもとでは,貧困を大幅に減らすことが目標とされた.貧困が小幅にしか減少しなかったとすれば,それは失敗とみなされる.これと対照的に,保守党はそもそも貧困減少を試みることになんら関心をもっていないし,保守党の政策の多くはいっそう貧困を悪化させるものだし,とくに児童の貧困を顕著に悪化させるだろうと予想されている.決定的に重要なのは,この態度の変化だ.

フィリップ・オルストンの報告は実にすばらしい.ぜひ,みんなにも読んでもらいたい.オルストンが展開している論証は興味深く,これを読んで驚く人もいるかもしれないけれど,私は正しいことを言っていると思う.長くなるけれど引用しよう.

「窮乏している人々に社会保障を提供することは公共サービスであり,人々が貧困に引きずり落とされるのを防ぐ上できわめて重要でもあるが,2010年以降に実施されている政策は,通例,緊縮の名で括られて議論されている.こうして問題をとらえると,論議は間違った方向に進んでしまう.貧困に関連した政策分野でもたらされた証拠が示しているのは,〔貧困を〕拡大する要因は経済的なものではなく根本的な社会の再設計(リエンジニアリング)を成し遂げるというコミットメントだということだ.歴代の政権は,最低水準の公正をイギリス国民に提供する制度にもと社会正義にも革命的な変化をもたらしてきた.とくに,社会正義を支える価値観にもたらされた変化は顕著だ.戦後のベヴァリッジ報告時代の社会契約の主要な要素は覆されつつある.この過程で達成されたすぐれた結果もある.だが,同時に,不必要に押しつけられた辛酸は大きい.とくに勤労貧困層(ワーキングプア),生活の浮沈に翻弄されているシングルマザー,すでに社会の周縁に追いやられている障害者,そして,将来脱出がきわめて困難になるだろう貧困のサイクルに閉じ込められつつある子供たちに押しつけられた苦難は大きい.」

いまだに続く貧困を緊縮のせいだと非難しても,人々を間違った方向に誘導してしまう.なぜなら,「厳しい決定を下さざるをえなかったのです」などといっていともたやすく緊縮が正当化されるからだ.ここで重要なのは,ネオリベラルの保守党は貧困削減を主要目標とすることになんら関心をもっていないということ,そして,報道で保守党を支援している人々は貧困層を悪しき存在にしたてあげることに多大な関心をもっているということ,この2つだ.これは党派的な主張ではなくて,事実だ.たとえば,課税最低額の引き上げは貧困削減の効率的な方法ではない.その便益の多くは,明らかに貧しくない人々の手に渡るからだ.

今回のチャンネル4インタビューで考えてみる値打ちのあることは他にもある.全体的な貧困はこれといって顕著に悪化していないと聞くと,大抵の人たちは驚く.悪化しているように思えるからだ.このパラドックスも,さっきの引用でオルストンが述べている保守党の特徴で説明できる.その特徴とは,〔景気悪化などで〕状況が厳しくなったときに転落しやすい貧困層を守るセーフティネットを提供する国の役割を破壊しようとしている点だ.それどころか,逆に貧困層に負担を強いて状況を厳しくすることもよくある.なるほど給付の減額・停止制裁の果たす役割はごく限られているかもしれない〔訳註: 求職者手当,雇用・支援手当,所得援助,ユニバーサル・クレジットといったイギリスの失業者・低所得者への給付は,受給者が受給条件に違反した場合に減額または停止の制裁がなされる.制裁対象となる違反には,求職活動を十分に行っていない,就職面接に遅刻した,ジョブセンターの面談に来なかった,といったケースも含まれるそうだ.BBCは葬式に参列して制裁を受けた事例を伝えている〕.だが,現行の政策はこうした給付減額・停止制裁が及ぶ範囲をいたるとこにまで広げ,冷酷きわまるものにしている.

この点は,明瞭に移民問題と類似している.どちらのケースでも,国はカフカめいた組織になってしまっていて,みずからの意志決定を説明せず,そうした意志決定はときに意味不明ですらあり,さらにはただただ残忍だったりもする.〔貧困層・受給者に対する〕ダメな意志決定を変更させるのはコストがかかり,支援が必要な場合も多い.給付の減額・停止制裁とフードバンク利用には強いつながりがある.保守党はしばらく前からこのことを知っていながら,これを改める対応をほんのわずかしかしていない.また,給付の減額・停止制裁は問題の一例にすぎない.ふたたび報告書から引用しよう.

「苦しんでいる人々に向けられる態度は,同情から別のものに置き換えられてきた――懲罰的で,狭量で,往々にして無慈悲ですらある態度へと変わってきているのだ.そうした態度でなされるアプローチでは,およそ役に立ちそうもない規律を課し,今日の世界で生きていくのにもっとも困難を抱えている人々の生活に厳格な秩序を押しつけ,さらに,イギリス社会の最下層に生きる人々の厚生を改善しようとするまっとうな関心よりも盲目的なコンプライアンスの実施という目標を優先させている.」

この件に関して言えることは他にいくらでもある(たとえば障害者がどのような扱いを受けているか,など).ただ,ここでは最後に一点だけ述べておこう.メディアではほとんど注目されないままに,イギリス社会に深い変化が生じている.そのことを指摘するには,外部の人間がものを言うしかなかったのだ.

Total
6
Shares

コメントを残す

Related Posts