スコット・サムナー「どんな情報を消費すべき?」(2018年9月3日)

[Scott Sumner, “What information should we consume?The Money Illusion, September 3, 2018]

「TEDトーク」はこれで2回目だ.テッドからの質問:

世の中に関する情報を消費するときに選別バイアスがかからないようにする対策はどうしてる?

ひとつの答えは「なんでも消費する」だ.タイラー・コーエンみたいにやればいい.

とはいえ,「そんな時間なんてないよ」という人もいるだろう.その場合には,読むものを「多様に」取りそろえてそれに集中する.多様にあれこれ読むということは,たんにイデオロギーによるバイアスをもっとたくさん避けるのにとどまらず,もっといろんなことをすることになる(イデオロギーのバイアスを避けるのも大事だけど).

  1. イデオロギーの左右を問わず読む.というか,左右にとどまらず,いろんな立場をたくさん読むこと.ぼくが定期購読してる雑誌は3誌ある.それぞれちがったイデオロギーの視座を代表している.(『ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス』『エコノミスト』『リーズン』).あと,読むのにたくさん時間を割いているのが,『ニューヨーク・タイムズ』『ウォールストリート・ジャーナル』『フィナンシャルタイムズ』『ワシントンポスト』『ナショナル・レビュー』『ブルームバーグ』『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』『ヤフー』などいろんな刊行物だ――たいていはオンラインで読む.自分のイデオロギー的なバイアスでニュース媒体の見方に影響を受けないようにすること.
  2. 地理的なバイアスを避ける.自国内に偏りがちになるのはほぼ避けようがない(ぼくも例外じゃない).それでも,そのバイアスに抵抗しよう.他国についてたくさんニュースを読むよう心がけること.ニュースメディアが重視する国々に偏重しないように.実際に重要なことに集中しよう.たとえば,20~30年ほど前に,イスラエル/パレスチナ紛争について読むのをぼくはやめた.もう十分だったんだ.あの紛争が重要じゃないというわけじゃない.たしかに重要だ.そういう話じゃなくて,(紛争のどちら側についているにせよ)ニュースメディアが想定しているほど重要ではないってこと.ミャンマー西部や中国北西部〔新疆自治区〕などの地域に暮らすムスリムたちの苦しみよりもパレスチナ人たちにもっと注意を払うべき客観的理由はない.(一つの例外は,自分がパレスチナ人やユダヤ人だったりする人の場合だ.あるいは,自分がアイルランド人なら北アイルランドにいっそう注意を払うべき理由になるだろう.)
  3. 幅広くいろんな話題を読むこと.さっきサイケデリックの本を読みおえたんだけど,いま思うとこの本を読む前はサイケデリックについてぼくはほぼなんにも知らなかった.サイケデリックにほぼ興味がなくて,とくに注意を向けたことがなかったからだ.マイケル・ポーランの本を読んでいたときは,いろんな話題についていくつか興味深いネタを見つけた.たとえば,メンタルヘルス・瞑想・薬物関係の法律・意識・シリコンバレーの文化などなど.というか,ポーランの本は LSD なんかにまるっきり関心がない人でも多少の関心を覚えるかもしれない.ポーランの本の主な欠点は,あまりにもアメリカに視野を絞りすぎている点だ(ポイント2を参照).ぼくが次に書く本(大不況についての本)にも,同じ難点がある.
  4. 経済学者以外の人たちはたいてい「経済学って経済を研究する分野でしょ」と決めてかかっている.実は,経済学は世界についての特定の思考法だと言った方が正確だったりする.(例のジョークを考えてみるといい――「経済学とはみんながどうやって選択しているかの学問,社会学はみんながどうやって選択肢をなくしているかの学問だ.」) もし読者が経済学者なら,ときに他の社会科学に目を向けてみるべきだ.そうすれば,いろんな問題について他にどんな考え方があるか検討できる.
  5. フィクションをたくさん読もう.みんな,ついつい自分の人生経験を重視しすぎるバイアスがかかっていて,他人の人生経験を十分に重視できずにいる.とくに異文化の人たちの経験を軽視しがちだ.フィクションを読むと,このバイアスを克服しやすくなる.いい映画も有益だ.とくに,政治色が強すぎないやつがいい.見るからにメッセージが顕著な小説や映画は,たいてい問題を単純化しすぎている.(最近の例だと,Three Identical Strangers がそう.) おうおうにして,メッセージがそれほど強くない映画(『ラザレスク氏の最期』とか)の方が大事な含蓄が多かったりする.「フィクションの方がノンフィクションより真実味がある」は,もうすっかり常套句になってしまった.
  6. めちゃくちゃかしこいブロガーたちを読もう.それも,意見がちがうブロガーたちがいい.読むとしゃくに障る人たちを読むこと.ポール・クルーグマンの書きぶりにかなり気を悪くする保守派・リバタリアンは多い.でも,クルーグマンは面白いことを言っているとても聡明な知識人だ.ブラッド・デロングもしかり.「なんで X のことをそんな天才みたいにみんなが思ってるのかわかんないね」と口にする評論家をよく見かける.どうしてみんなが X のことをそんな天才だと思ってるのか理解できないなら,それはきっと X に問題があるからじゃなくて,理解できない当人に問題があるからだ.
  7. 事柄の両面を二重に確かめてみよう.もしリベラル系メディアで保守派の炎上案件について書いていたら,保守系メディアでその同じ出来事がどう伝えられているか確かめてみること.リベラルの炎上案件を保守系メディアが伝えてるときには,逆もしかりだ.必要なら,中道派メディアも確認すること.中道派かどうかは,両方をよく批判しているかどうかで定義される.また,データの出どころも確認しよう.大抵の人よりもデータをよく知ってる点は,ぼくの比較優位だ.ぼくよりかしこい人たちの文章を読んだら,ちょっとありえないデータを引用してるのにすぐさま気づくことがよくある.なにか手落ちがあったか,データの出どころが信頼できないところだったかのどちらかだ.たとえば,実在の最富裕層に関するメディアの記事はほぼまちがいなく,完全に虚偽のデータに基づいている.
  8. 他方で,ぼくみたいにたくさんのデータ元に当たるのが大半の人たちにとってやる値打ちのあることなのかどうか,ぼくにはわからない.データを記憶することに関しては人並み外れた記憶力があるけれど,人名みたいに言葉のかたちをとった情報の記憶力は人並み以下だ.その点,ぼくは典型例じゃない.
  9. ときおり,読むメディア刊行物を変える方がいい.どんな情報源でも,しばらく経つとそこから期待できる知見をあらかた手に入れてしまう.そこで,別の刊行物を試してみよう.そうだね,それってつまり,本ブログ TheMoneyIllusion もずいぶん前に収穫逓減地点に到達してしまっているってことだ.(かくいうぼくも,あまりこの助言どおりにできていない――というか,ブログから Twitter に切り替えるべきだったんだろうけど,ナマケモノなものでね.)
  10. テレビニュースは見ないようにすること.ただ,時代の空気をつかみたいときは別だ.あまりにテレビを消費していると,時代の空気に飲まれてしまう: i.e. 自分が問題の一部になってしまう.
  11. 旅行も,すぐれた情報源になる.中国旅行に出かけて現地で出会った人たちとおしゃべりすれば,アメリカのメディアで中国について読んで得られるのとは大きくちがった中国像がえられるかもしれない.ぼくの場合はそうだった.旅行すると,あちこちの国々はそれぞれ複雑で,主流メディアから得られる戯画的な姿とはちがうのがわかる.
  12. マクロ経済学者なら,戦前期のマクロ経済学者たちを読むといい.たとえばケインズ,フィッシャー,カッセル〔参考〕,ホートリー〔参考〕といった人たちだ.第二次世界大戦後だけじゃなくて,過去100年間の時系列データを見ること.ケインジアン,マネタリストなどなど,他の視点も読むべし.
  13. ポッドキャストのインタビューを聞くと,そこでインタビューされてる人が書いたものを読んだだけではわからない視点をもたらしてくれることがある.
  14. 社会科学の研究に関する記事を読むときには,そこで伝えられてる発見をあくまで興味深い仮説だと思って,決着済みの科学だと思わないこと.結果が再現されない事例は多い.
  15. 平均的な人とおしゃべりしよう.とくに,旅行中にはそうするといい.そのうえで,平均的な人間なんていないってことを思い出すこと.質問の仕方にはくれぐれも注意しよう.たとえば,トランプが好きかどうかと尋ねてはいけない.彼のどんなところが好きでどんなところが好きじゃないかって聞くんだ.
  16. PS. ぼくは文学や哲学や歴史その他をあまり読んでいない.だから,ぼくが言っているとおりの真似はしてくれていいけれど,ぼくがやっているとおりにはしないでほしい.

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