タイラー・コーエン 「『Economists and Societies』 ~経済学の知識社会学~」(2009年4月5日)

●Tyler Cowen, “Economists and Societies”(Marginal Revolution, April 5, 2009)


本のタイトルは表題の通り。著者はマリオン・フォルカード(Marion Fourcade)。副題は「アメリカ、イギリス、フランスにおける『学問としての経済学』と『職業としての経済学者』:1890年代から1990年代まで」。

大好きな一冊だ。これまでに読んだ経済思想史がテーマの本の中でもお気に入りの一冊に入るかもしれない。有名な誰々が書いたテキストを事細かに読み解くなんてことはすっ飛ばして、経済学者の振る舞いそれ自体に焦点が合わせられている。それも比較体制論的な観点からアメリカ、イングランド、フランスといったそれぞれの国別に経済学者の振る舞いが詳しく跡付けられている。

フランス絡みだと本書の6ページで取り上げられているデータに個人的に興味を惹かれた。1981年頃に行われた聞き取り調査の結果によると、フランス人の経済学者のうちで「家賃規制(家賃の上限規制)は市場に出回る貸家(賃貸物件)の量を減らすだけではなく質も悪化させる」と答えたのは(全体の)わずか52%であり、変動相場制(伸縮的な為替レート)は「効果的」と答えたのはわずか49%だったという(ちなみに、アメリカ人の経済学者だと全体の94%が変動相場制は「効果的」と答え、ドイツ人の経済学者だと全体の92%が変動相場制は「効果的」と答えたという)。フランス人経済学者の異質性といえばかつてタバロックが話題にしていた(例えばこちらこちらも?)ことを思い出す。

イングランドの経済学界のガチガチのヒエラルキー構造ぶりには驚かされたものだ。

(女性である)ジョーン・ロビンソンが教授に就任できたのは62歳という高齢に達してからのこと。高名な経済学者であるロイ・ハロッドにいたってはオックスフォード大学のナフィールド・カレッジで講師よりも上の職位を手にすることはついぞできなかった。

激しくお薦めの一冊だ。出版社のサイト内での紹介ページはこちら

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