(http://bilbo.economicoutlook.net/blog/?p=46895)
ニューカッスル大学ではMOOC(=Massive Open Online Course)の開発のために様々な作業を行ってきたが、これはMMTed の最初の教材になるものだ。向こう数ヶ月間にわたって詳細な学習オプションを用意してゆきMOOCを充実させていくことになる。明日はこの撮影がある予定で、MOOCが2021年3月3日に開始されれば、皆さんも私たちが準備したものをお楽しみいただけるだろう。この一環として私は、複雑な概念やその相互関係を教えるための単純化したフレームワークを考えてきた。ここではこのアイデアの一つを紹介しよう。
MOOC現代貨幣理論:21世紀の経済学
2021年3月に開始されるMOOCの開発の一環として、数か月かけて現代貨幣理論(MMT)の教育イニシアチブを作ってきた。
大学のデジタルチームであるNewcastleXと協力して、世界中で無料で利用できるコース資料を作成しているのだ。
誰でも登録参加でき、新しいことを学べ、同じ考えを持つ他の人と話し合うことに熱心な人にぴったりなもの。
それがMOOCの哲学だ。
現代貨幣理論:21世紀の経済学–コースは2021年3月3日に始まるのだが、リンクからすべての登録の詳細(無料)がわかるようになっている。
これは、このところ私がやろうとしていた-MMTedプロジェクト-の第一段階なる。
ずっと資金不足に悩まされてきたが、このMOOCに関する大学とのパートナーシップは本当に大きな第一歩だった。大学のデジタル学習チームは一流で、この新しいプラットフォームがどのように機能するかをわかりやすく教えてくれた。
財政赤字の重要さを理解する
以下は、私がマクロ経済学の入門プログラムで使用する教育のためのデバイスなのだが、学生がマクロ経済の基本的なしくみを理解できるようにするものだ。支出は産出と等しく所得とも等しく、これらが雇用を動かす。
これはマクロ経済における均衡の概念を理解するのに役立ち、均衡が「市場の清算」や完全雇用を意味しているとする主流経済学者の考えを払拭するものだろう。
もし財政支出などの外部からの影響がなければ、経済は高いレベルの失業率で均衡する状態が無限に継続しうるということを学ぶ。
また、部門バランスの教材(代数的な導出でなく)としても使用でき、財政政策の役割を明瞭にすることができる。
人によっては、代数による簡潔化よりも、このような図の形式の方がありがたいのだ。
また、大量の(非自発的な)失業の存在は、財政赤字が小さすぎるか、あるいは黒字が大きすぎるのだという原則を簡単に把握することができる。
というわけで、私が普段から行っている発表の仕方をもっと多様なものにするべく、その説明をブログでも共有しようと考えた。
すでに勉強したことのある人なら、この構造が、私の長年の現代貨幣論(MMT)の視点に合わせて仕立てた、経済循環の説明に基づいていることがわかるだろう。
単純な基礎から始め、そこに現実世界の要素を順次取り入れていくことで、図を複雑化していくシリーズというわけだ。
家計と企業
最初は家計と企業だけの経済を簡単に表現することから始まる。
政府もいるが、その役割を捨象している。政府による通貨注入がなければ何も起こりようがない。
以下の分析では、価格は安定していると想定する。通貨の流れが実質的な購買力につながることを効果的に表現したいからだ。
事業会社は、経済全体の総支出がどうなるかを予想し、次に運転資本と労働者を集め、期待される販売量に合わせて生産を行う。彼らはそれぞれの単位コストの見通しと、希望するマークアップに基づいて価格を設定する。マークアップは利益の野心を反映するものだ。
次に、生産的なインプットの供給者に所得を支払う。
家計消費支出は総所得にドライブされ、それが企業など私たちの周りに収入をもたらす。
生産と雇用をもたらす支出は所得と等しい。
もしこの循環からの漏出(Leakages)ないし外部ショックがなければシステムは安定しており、ずっと持続する。
これをマクロ経済の均衡状態と呼ぶ。
この定常状態が完全雇用状態だと推定することはできない。その可能性はゼロではないが、まずありえない。
だからこれは不完全雇用の均衡、つまり、ケインズが財政刺激でこれを打破し、雇用を高めるために経済を押し上げよと主張したような状態だ。
税(Taxes)による漏出
ではここで非政府部門に納税を強制してこの状態が乱されるとどうなるだろうか。
下の図では、企業への税(と公共への移転)を捨象しているが、含めたとしても基本的な話は変わらない。
税による漏出だけがある場合、それは非政府部門から政府部門に所得を漏出させ、総所得の流れからその分が捨てられたことになり、消費支出の流れも少なくなる。
すると、企業は売れ残り在庫が増えないように生産量を減らし、労働者を解雇するだろう。
つまり現代の金融システムにおける税の賦課は、アイドル状態のリソースが増えた状態を生みだすという働きをする。
そこから経済を元の均衡に戻す(GDPは国民所得の水準を回復する)ためには、流し込む政府支出は最低限、税による流出による購買力の漏出を相殺していなければならない。
さて、上に書いたように当初の定常状態は、企業が販売量の見通しに応じ続けているにもかかわらず非自発的失業は存在していると考えられるものだった。
だから、たとえ政府支出の注入(Injections)が税による漏出(Leakages)から生じる消費支出の損失を相殺したとしても、経済は依然として完全雇用を下回っている。
言い換えれば、この文脈(家計が可処分所得の100%を消費することにしている)において、経済を完全雇用に向かわせる方法はただ一つ政府の赤字を増やすことのみだ。
政府支出が税を上回れば(G> T)、それは販売を刺激し、企業はより多くの労働者を雇い、より高い所得を支払うことになり、それは税収(税制が収入に関連している場合)増となりその分の家計消費支出は削減されることになる。
この調整プロセス–政府支出からの財政赤字の増加が、支出乗数と呼ばれるものだ。
より詳細には以前のエントリ–Spending multipliers(2009年12月28日)を参照されたい。
さて、上記の条件において非自発的失業がある(つまり人々が提示された賃金を受け入れる状況)ということは、財政赤字が少なすぎることを意味しているということが理解できる。
次に、この赤字支出という新たな状態がどのように均衡を回復するのかが気になるだろう。
この単純な条件において、最初の政府支出のインパクト(赤字への)は、所得の増加、課税の増加、消費の増加をもたらすが、それは税の増加をもたらし、消費支出はその分減少する(各段階に税がかかるため )。
所得水準が上昇し、それによる税収の変化が調整され、総税収が新しい政府支出額に等しくなるところで新たな均衡状態となり、その財政赤字は帳消しとなる。
家計が所得を全部消費する場合(今の想定)、均衡になるのは税という漏出が発生していて、政府収支がバランスする場合だけだ。
漏出と注入とが等しいことが平衡である、というのは一般原則だ。
これは財政均衡を主張するものではない。この非常に単純化したパターンに適用されている条件であるということに過ぎない。
それでは、これを複雑にしていこう。
貯蓄(Saving)による漏出
次は、この新しい均衡状態において、家計が可処分所得の一部を節約すると決めた場合はどうなるだろうか。
ここで限界消費性向(MPS)、つまり可処分所得が1ドル増えたうちどれだけ消費を増やすかの比率だが、これは1よりも小さい。
また限界貯蓄性向(MPS)は1からMPCを引いたものだ。
つまり、所得と支出の循環にさらなる漏出があるということであり、他に何も起こらなければ、生産量、収入、雇用、ひいては消費支出が減少する。
したがってこの条件においては、貯蓄を増やすと非政府部門で失業が起こる。
この単純な設定においては、ここで政府が赤字になれば失業は一掃されうる(政府の財政は均衡しているという条件であったことを思い出すこと)。
財政赤字の拡大は、貯蓄による漏出によって生じる家計消費支出の損失を相殺し得るというわけだ。
この赤字拡大が調整されるプロセスにおいても財政支出の場合と同様に、国民所得が上昇し(政府支出は現在の税収を上回る)、税収が上昇し、家計消費支出と貯蓄フローが増加し、漏出の合計(税と貯蓄)が新しい国民所得レベルに見合ったものになり、注入された追加の政府赤字に等しくなって均衡に至る。
だから、もはや財政状態のバランスを保つ必然性はない。完全雇用が維持され家計の貯蓄傾向がゼロより大きという条件においては、政府は赤字でなければならない。
輸入(Import)を導入
ここで海外部門を追加する。国内経済はその所得の一部を海外で生産された商品やサービスに支出するとする。輸入である。
輸入への支出とは、所得から支出の流れ加えて、新しい漏出が追加されることであり、他の介入がなければ、生産、所得、雇用および、それがもたらす消費支出を減少させる。
漏出は国内生産への支出を減らし、国民の所得を減らす。
対して注入は国内生産への支出を増やし、国民の所得を増やす。
ここでも、輸入という漏出に対抗するだけ財政赤字が増加すれば、国民の所得の損失を回避することができる。
事業投資(Investment)と輸出(Exports)を導入
このフレームワークにおいては、貯蓄、税金、輸入の漏れを相殺しうる注入として、政府支出以外に二つがある。それは、事業投資と、海外への輸出だ。
財政赤字水準がそのままでも、投資と輸出からの注入があれば、経済を完全雇用所得以上にすることができる。
政府が純支出を削減することもできるが、それは、これら二つの注入が完全雇用の生産水準を維持するためのフローに入るからだ。
当然ながら、さまざまなシナリオをこのフレームワークでプレイさせることができる。
輸出の注入が輸入の漏出に対してだいぶ大きい設定にして、政府が財政黒字であっても完全雇用を維持できる条件を構築することもできる。
平衡の条件は、漏出と注入とが相等しいということ。
貯蓄+税金+輸入=投資+政府+輸出
この条件は平衡状態でも維持される。この単純モデルにおいて、三つの漏れは所得の関数である(これらは国民の所得の上昇に対してある比率で上昇する)から、国民所得(GDP)が完全雇用水準になるであろうときの「漏れの合計」を相殺するために要請される「支出の合計」はある一つの数字に定まる。
これは財政赤字が必要であるという意味にはならない。
が、ある定まった政府支出額という条件において、事業の投資と輸出の合計が、完全雇用水準の国民所得(GDP)で発生するであろう漏出の合計に達していない場合には、経済が完全雇用に達することができるのは、政府支出が増加する場合だけであることが示されている。
この均衡条件は、ある安定した生産水準を与えるが、完全雇用を保証するものではない。
完全雇用を維持するための安定した国民所得の条件は、もっと具体的に次のように書き直すことができる。
G = 政府支出
T = 税収
S = 貯蓄フロー
M = 輸入支出
I = 投資支出
X = 輸出支出
Yfという修飾子は、完全雇用におけるS、T、Mの値を示しており、それらは経済が不景気にあるときより大きい値だろう。
完全雇用時に、国民の所得が安定で、そのとき非政府部門の漏出>非政府部門の注入であるならば、総需要のキャップを打ち消すのに十分な財政赤字状態(G-T)になっているはずである。
最後に
最終的に、部門収支関係に到達できた。
このグラフィカルな説明は代数的な説明が苦手な人たちにより深い理解を提供しうるものだろう。
今日はこのくらいで!