The Role of Finance in Our Structural-Demographic Crisis
August 28,2017 by Peter Turchin
過去における多くの危機の事例について勉強した後で、実際に構造的人口動態危機を経験している社会 [1]現在の米国 で生きるのは奇妙なものだ。残念ながらこの危機は主に古典的なパターンに従って進展している。政治的な両極化の度合いは(第一次)南北戦争以来、最も高いレベルにある。エリート内の内輪揉めは共和国を引き裂いている。既に少なくとも1人の犠牲者が生まれている(私の投稿である怒りの日々 [2]Days of Rage 参照)。全体として事態は私の想像より早く瓦解している。だが政治的暴力の急増においてはこれが当然だ。それは地震のようにゆっくりと、そして大いに予想可能な形で圧力が高まるが、実際に揺れるタイミングについて何らかの正確性をもって予想するのは極めて困難(おそらくは不可能)だ(こちらにある私の説明参照)。
10年前に行なった、2020年代初頭に暴力の急増がピークに達するという私の予想は、構造的でゆっくりと展開していく原動力に基づいている。最も基本的な構造的人口動態圧力は労働力の過剰供給で、それは大衆の困窮化と(タイムラグをおいて)エリートの過剰生産を推進する。これらのトレンドは既に、かつて我らの最初の不和の時代(こちらのグラフ参照)に達していたレベルにある。だがこれらのトレンドは作られるのも低下するのも数十年かかる。では私はどうやって危機の時期が2020年代初頭であると正確に示すことができたのだろうか?
素早く動く原動力の一つは人口動態、つまり20歳から29歳までの人々の数だ。彼らは革命や内戦時に相争う双方の先兵を供給する典型的な年齢グループだ。現在、我々はこの「ユースバルジ」のただなかにいる(ただし2020年以降は低下を始める)。
もう1つの重要な要素は経済だ。資本主義社会における経済成長のダイナミクスは非常に複雑である。そこには一連のサイクル、というか好不況の反復があり、これらの「サイクル」には定まった期間は存在しない。代わりにそれらは、数年(景気循環)から数十年の範囲に及ぶ、「特有の」タイムスケールで働く傾向がある。最も重要な長期サイクルの1つはコンドラチェフの波と呼ばれるもので、ロシアの経済学者であるニコライ・コンドラチェフが最初に記述した。多くの経済学者は40~60年ごとに繰り返すこの「K波」の実在を信じていない。だがコンドラチェフは1930年代に循環的なパターンに気づき、以来我々は彼が立てた仮説通りに発生するさらに2つのK波を経験した。実際これは、後の歴史によって立証された珍しい経済予測の1つである。
我々は今、現在のK波における(時に『冬』と呼ばれる)負の局面を生きている。それは経済成長の停滞、生産投資に対する企業の意欲低下、高い失業率、及び広く悲観的なムードと結びついている。ロシアの研究者たち(コロタエフ、アカエフ、その他など)によると、現在のK波は2020年代の半ばか後半に向きを変えるそうだ。つまり今後5~10年は「冬到来」となる。
また私が「父と息子」サイクルと名付けた政治的暴力の50年サイクルもある。前回の急増が1970年頃だった(1920年頃と1870年頃の急増がそれに先行している)ため、次の山は2020年前後に来るはずだ。
アメリカの社会システムが(歴史的には通常、革命か大きな内戦に至る)最大のストレスを受ける時期は2020年代初頭であることを、これらの原動力及び私が10年前に考慮した他の原動力は指し示していた。しかし私は、危機に対して金融経済が果たす役割については明確に考慮してきていない。
だからこそスティーブ・キーンの最近の本、Can We Avoid Another Financial Crisis? は、興味深く啓蒙的であった。
スティーブは「異端の経済学者」(つまり主流からはほぼ無視されている)の1人だ。彼の出発点はハイマン・ミンスキー(専門家から大いに無視されているもう1人の経済学者)の理論にある。だがミンスキーの理論は私には大いにうなづけるものだ。それについて1段落で説明してみよう。
主な動的原動力となるのはGDPに対する私的債務(企業と家計が負っている債務合計)の規模だ。現在、この指標は米GDPの150%に達している。何がまずいのか。
実際には私的債務が増えると、信用の拡大が経済成長を推進するため、しばらく物事はうまく行く(建築ブーム時の新規住宅建設を考えてほしい)。しかしやがては積みあがった債務の返済コストが消費を押し下げ始める(住宅ローンへの支払いが増えるほど、他の物を買う金が少なくなる)。消費の落ち込みは製品の過剰生産と企業の利益減少をもたらし、投資の採算が取れなくなる。信用は崩壊し、企業は破産するか労働力を減らし、少ない雇用はさらに少ない消費につながり、そして(政府の支払いを大規模に増やさない限り)経済は下向きのトレンドへ、長期にわたる恐慌の「死のスパイラル」へと入り込む。
転換点の正確なタイミングを予測するのは極めて難しい(地震に似たダイナミクスの別の例だ)。だがスティーブ・キーンは2007~2008年の世界金融危機を予想したとても数少ない経済学者の1人である。
もし世界金融危機の主要原因の特定についてスティーブが正しいのだとしたら、続く数年の間に起こりそうなもう1つの危機に関して彼が本で述べていることに耳を傾けなければならない。残念ながら悪い知らせだ。GDPに対する私的債務の額はなお極めて高いレベルにある。
スティーブ・キーンのミンスキーモデルは、構造的人口動態理論が基礎を置く他のモデルと上手く適合するのではないか、と私は推測している(『推測』にとどまっているのは、まだ実際の方程式を調べていないからだ)。一般的に、金融危機は構造的人口動態危機において繰り返される特徴であり、その理由について私は理解していると思う(ただしこの件は将来の投稿まで保留すべきだろう)。
Can We Avoid Another Financial Crisis? は重要な本だと考える。楽観的な内容ではない。スティーブ・キーンが正しいのなら、近い将来において労働力の過剰供給は弱まらないだろう。つまり大衆の困窮化は増大を続け、より政治的に野心のあるエリート志望者の拡大、さらに広まる両極化、そして政治的暴力が推進されることを意味する。つまり今の予測は、陰鬱なものである。