Frances Woolley, “The Beer IneQuality Index”(Worthwhile Canadian Initiative, July 19, 2015)
よくありがちなカナダ人のアメリカ産ビールに対する意見は、水っぽくてアルコールが弱いというものだ。しかしアメリカのビール醸造所は世界最高のビールをも生産している。アメリカ全土の地ビール醸造所の中に見事な品質のものが出てくるのだ。
アメリカについて驚愕するべきことは、国内の格差、もっと正確にいうと、ビールの品質の不均等さのレベルである。ドイツやベルギーといった国々、そしてスカンジナビア諸国も一般に、ビールの品質についてはそこまでばらつきはない。
問題は、なぜかだ。ビール品質の不均等は、他のものの格差の結果だろうか。例えば、収入や富の格差といった。それとも収入格差を生み出す力は、ビール品質の格差をも生み出しているのだろうか。これは擬似相関だろうか。単にアームチェア実証主義者の観察は間違っているということなのだろうか
収入格差によるビールの品質不均等説は、言うだけなら簡単だ。一部のひとびとは貧しい。彼らは安いビールを欲しがる。安いビールは必然的に質が悪い。一部のひとびとはお金持ちだ。彼らは高品質のビールを欲しがり、それに見合った金額を払う用意がある。なので、理論上は、収入格差はビール品質の格差を生むということがいえる。経験的観察においては、アメリカはカナダを含む他の富裕国に比べて大きな収入格差がある。一方、スカンジナビア諸国では収入格差もビール品質格差も世界最低レベルだ(データはここ)。というわけで、収入格差はビール品質の不均等を生み出す。証明終了。
この説は尤もらしく聞こえるし、多少の真実もあるだろう。問題は、すべてのひとがビールを飲むわけではないということだ。イギリスを例にとってみよう。ビールは伝統的に労働者の飲み物だ。上流階級は、芝の上でピムスまたはジントニックを嗜む。もし富裕層がビールを飲まないなら、上位1%の富裕層に収入の増加が集中してもビール品質のばらつきには何も影響がない。
需要側要因のビール品質のばらつきは、ビール飲みの好みと収入のばらつきを反映しているのであって、社会全体のばらつきを必ずしも反映しているわけではない。実際に、アメリカの何が凄いかというと、収入格差よりも、飲酒のデモクラシーということになるのかもしれない。富裕層も貧困層もみんな同じように、苦労して稼いだお金で買ったビールで、一日の終わりを締めくくる。
別の説は、ビール品質の不均等は収入格差と同じ要因から生じているというものだ。一般的に、低い税率、低い労働組合組織率、規制の欠如だ。
ドイツを例にとってみよう。ドイツではビールの品質は比較的厳しく規制されている。この規制の水準は、政府の民間企業に対する適切な役割というものをドイツがどう見ているかの表明でもある。政府はビジネスを守る。ビジネスは労働者を守る。平均的な労働者は十分な生活水準で暮らし、収入格差は比較的少ない。(このコンセンサスは崩壊し始めているかもしれないが、それならドイツのビール産業も傾いているであろう。)
カナダはどうだろう。真剣なビール好きなら知っているだろうが、カナダの主なビールは労働組合が強い企業が作っている。カナダ産ビールはアメリカ産ビールよりも税率が高い。これはカナダのビール価格を押し上げる効果がある。アメリカのビール生産者は質を悪くして量を多くすることで稼ごうとする、安くて水っぽいビールが大量に出回ることになる。この戦略はカナダではうまくいかない。税金と労働コストがそんな激安のビールを生産することを可能にさせないのだ。代わりにカナダのビール生産者は、品質にこだわることで競争する。アルコール量、フレーバー、などなど。ビール品質の不均等は全体として低下し、税金、再分配、労働組合組織率といった力が収入格差を減らす。(労働者への賃金増加を通した労働組合組織化による格差是正の影響は、労働組合員と非組合員の賃金差によって作り出される格差助長効果を上回っていると、実証研究でわかっている。わかりやすいが重大なカナダの収入格差についての分析は、こちら。)