On “Capitalism, Alone”: A conversation
Saturday, December 26, 2020
Posted by Branko Milanovic
この記事は、ブルガリア語版『Capitalism, Alone』〔邦題『資本主義だけ残った――世界を制するシステムの未来』西川美樹訳、みすず書房、2021年〕の出版に際して、セガ新聞に寄せたインタビュー記事だ。ブルガリア語での記事はこちら。
1. ユーゴスラビアで育ち、ベオグラード大学で博士号を取得したことは、あなたの世界観やあなたの研究にどのような影響を与えてきたと思いますか。
私に影響を与えたのは、主にユーゴスラビアの非同盟外交政策だったと思います。イデオロギー的な動機から学校で教えられたことの中にも、非同盟、つまり反帝国主義や反覇権主義(これはソ連のこと)に重点を置いたものがありました。このおかげで、私たちは世界の非ヨーロッパ圏にも心を開き、関心を持つことができたのです。全員に同じ影響があったわけではないでしょうが、私は10代の頃ですら、とても政治的でとても「第三世界主義(Tiermondiste) [1]訳註:米ソに与しない国々の団結を推進する考え方 」的でした。私が知る限り、セルビアや旧ユーゴスラビアの他の地域の学校では、今では同じような考え方が見られず、残念に思うことがあります。現在は、欧州連合(EU)という形のヨーロッパ中心主義が支配的で、ヨーロッパ以外への関心が抑圧されています。
2. あなたは所得格差に関する研究で最も有名です。今回の『資本主義だけ残った』はより広い範囲を扱っていますが、格差研究の中でどのように位置付けていますか?
『資本主義だけ残った』が、より広い範囲を扱っていて、より政治的であるというのはその通りです。この本は、所得格差に関する私の長年にわたる関心と研究に、マルクス主義、共産主義の意義、そして(前の質問で部分的に説明したような)国際的な問題に対する、これまた長年にわたる(しかしあまり人目につかない)関心が組み合わさったものです。そのため、私にとっては何ら新しいことではなく、自然な進化でした。『資本主義だけ残った』を書くのはとても簡単だったんです。しかし、より広範な政治的・社会的問題に対する私の関心をあまり知らなかった多くの人にとっては、これが目新しく映ったようです。
また、格差に関する重要な研究は、社会的・政治的分析と同時に行われなければならないということも述べておきます。ピケティはそのことをとてもよく示していると思います。
3. あなたの本の主要なポイントの一つに、資本主義の世界支配が、我々を新たな「分裂」、つまり欧米のリベラル資本主義と中国に代表される政治的資本主義との間の新たな「分裂」に導いたということがあります。両者を隔てるのは何でしょうか?
非常に一般的な言い方をすれば、歴史が両者を分けています。これが、私の本の中でアメリカと中国を単純に対比させていない理由の一つであり、他の多くの本でもそうしています。私は、政治的資本主義と中国に関する章の最初の部分(この本の中で最も重要な部分の一つかもしれません)で、私が考える共産主義の世界史的役割を定義することによって、中国の政治的資本主義の起源を説明しようとしています。
あるいは、もっと抽象的な言い方をすれば、リベラル資本主義と政治的資本主義を分けているのは、人類の歴史があまりにも濃密で複雑であるために、たった一つの政治システムを適応させることができないという事実だと思います。資本主義の支配の有り様が示すように、私たちは皆、利潤や金銭的利益という言語に対する共通理解はあるでしょうが、政治権力に対して全く同じ考え方を有しているとは思えません。
4. バルカン半島諸国は、グローバル経済の中で、また、リベラル資本主義と政治的資本主義の分裂の中で、どのような位置を占めていると思いますか? バルカン地域は、いつも諸外国の背中を追いかけ、いつも遅れをとる運命にあるのでしょうか?
バルカン半島は歴史的に周縁地域でした。ローマ帝国時代、ビザンツ帝国時代、オスマン帝国時代、産業革命時代、そして今日に至るまでそうだったのです。今後もこの状況は変わらないと思います。しかし、世界には多くの周縁地域があり、そうした地域は往々にして、中心地域を別の角度から見ることができます。そうすることで、周縁地域は、中心地域が見落としているものを明らかにし、理解することができるのです。バルカン半島は、西ヨーロッパ、地中海世界、そしてイスラム世界が交差する場所にあります。立地をうまく利用する方法を知っていれば大きな強みになります。また、周縁地域だからといって、豊かになれないわけではありません。オーストラリア、ニュージーランドは歴史的にも、また今日でも間違いなく周縁地域ですが、豊かな国家です。
バルカン諸国には、現在、政治的資本主義に近いと思われる国がいくつかあります。念頭にあるのはトルコ、モンテネグロ、セルビアですね。しかし、私は政治的資本主義がリベラル資本主義に比べてあらゆる領域で劣ると思わせるような序列を作っているわけではないことに注意してください。政治的資本主義がリベラル資本主義よりも上手くいく状況もあるのです。
5. あなたの本『資本主義だけ残った』は、まさに新型コロナウイルスのことが世界で知られるようになった時期に出版されました。これを受けて、もし明日この本が出版されるとすれば、あなたはこの本に何か付け加えたり、変更したりするでしょうか?
おそらく一つの部分以外は変更しません。私は、豊かな国でのユニバーサル・ベーシック・インカムの実現可能性について、かなり批判的でした。『資本主義だけ残った』で行った主張を今でも信じています。しかし、今日私たちが経験しているような緊急事態においては、全ての人々に安定した所得の保証があれば(たとえそれが低額であっても)助けになるでしょうし、新たな賃金支援策について、いちいち政治的判断を下す必要がなくなるであろうと認識しています。ユニバーサル・ベーシック・インカムがオートマティックに作動することは利点となるでしょう。
6. あなたは本の中で、いわゆる「地球の環境収容力」が誤りであると主張しています。現代資本主義が私たちを重大な地球の生態学的危機に導く危険性は無いと本当に思っているのですか?
私はいわゆる「テクノ・オプティミスト(テクノロジー楽観主義者)」です。インセンティブと「罰」、補助金と税金を適切に組み合わせれば、環境汚染や二酸化炭素の排出を抑制し、主要なテクノロジーをより環境に優しいものに変えられると信じています。ですから、通常の経済的手段以外には何も必要ないと思います。問題はそのような政策を実行するために十分な政治的支援が得られるかどうかなのです。
7. あなたは最新の記事の中で、トランプを「新自由主義の最終到達点」と呼んでいます。トランプの大統領としての評価をどのようにまとめることができますか?
「新自由主義」を、政治を含むあらゆる活動の商業化を正当化するイデオロギーと定義するならば、トランプはこのイデオロギーを完璧かつ完全に体現しています。トランプは、政治家という職業を、他の職業と同一視して、職業従事者自身の収入を最大化することが主目的(にして義務)である考えています。実際、彼はトランプ財閥のトップとして行動するのと同じようにアメリカ合衆国の大統領として行動したのです。彼はお金を稼ぎました。国民を自分の従業員として扱いました。その意味で、彼は新自由主義の最終到達点なのです。
この〔トランプが国家を商業的に経営しようとした〕点に気づかない多くの人々は、彼の大統領としての役目を、不適切な言葉(「ファシスト」や「ポピュリスト」など)を用いて誤解してしまうに違いないと思います。
8. トランプ時代が終わりを告げようとしている今、アメリカではいわゆる「正常に戻る」が流行っていますが、あなたは疑念を示していました。なぜでしょう?
バイデンは、クリントン=オバマ型の政府として理解されているような「正常」への回帰を願っているのだろうと思います。しかし、そうした大統領の役目、特にクリントン政権下のそれは、福祉国家の後退、中流階級の衰退、そしてトップ1%の経済的・政治的権力の増大であったことを認識しなければなりません。バイデンはまたもや、トランプの出現を許したのと同じ状況を復活させるでしょう。もっと強い明確な過去との決別が必要だと私は思います。しかし問題は、新政権がそれを進んで行うかどうか、そしておそらくそれ以上に、議会がそれを許すかどうかです。アメリカの大統領は、いくつかの外交政策の面で実際に大きな権力を持っているため、海外から見ると選挙で選ばれた国王のように見えます。しかし、国内政策では、大統領ははるかに制約を受けています。ですから、私はあまり楽観的ではないのです。
〔訳注:本サイトの『資本主義だけ残った』に関するエントリは以下となっている。
ブランコ・ミラノヴィッチ「『資本主義だけ残った』:フランス語版出版に際して、マリアンヌ紙によるインタビュー」(2020年9月11日)
ブランコ・ミラノヴィッチ「『資本主義だけ残った』ギリシャ語版出版記念インタビュー」(2021年1月16日)
ブランコ・ミラノヴィッチ「『資本主義だけ残った』の著者が明かす四つの重要な裏テーマ」(2019年9月24日)
ブランコ・ミラノヴィッチ「『資本主義だけ残った』よくある批判への回答:アリッサ・バティストーニの書評について」(2021年5月14日)
ブランコ・ミラノヴィッチ「『資本主義だけ残った』世界の芸術家の役割」(2021年2月8日)
ブランコ・ミラノヴィッチ「『資本主義だけ残った』 いくつかのマルクス主義的論点:ロマリック・ゴダンの書評への返答」(2020年10月4日)〕
References
↑1 | 訳註:米ソに与しない国々の団結を推進する考え方 |
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