Paul Krugman, “The Pound Poses a Problem for an Independent Scotland,” Krugman & Co., September 12, 2014.
[“Scotland and the Euro Omen,” September 9, 2014; “Day of IMFamy,” August 30, 2014.]
スコットランド独立にとってポンドは大問題だ
by ポール・クルーグマン
イギリスから独立するかどうかに関するスコットランドの国民投票に関する先日のコラムで言った論点をここで言い直してみたい.できれば,さらに明瞭にしたい.
スコットランドが独立を宣言すれば,既存の経済・金融のあり方に大きな混乱が生じるだろう.オックスフォードの経済学者サイモン・レン=ルイスが言うように,職業的な経済学者たちの意見で優勢なのは,「この混乱によりスコットランドは悪化することになるだろうが,議論の余地はある」ってところだ.ただ,独立運動が言ってる主張はそれとちがう.
彼らが有権者たちに語ってるのは,「混乱は生じない」って話だ――具体的には,スコットランド人はイギリスポンドを使い続ければいい,そしたらなにも問題なんか生じないんだと,彼らは言っている.
歴史のまさにこの時点で言われるとびっくりしちゃう主張だ.経済学者たちは(ぼくの元同僚で友人のピーター・キーナンを元祖として)長らくこう論じている――財政の統合ぬきで単一通貨を共有すると問題が起こる.ユーロ創設は,この理論の実地検証になった.で,その結果ときたら,いちばん手厳しいユーロ批判者の想像よりもはるかにわるかった.ユーロをもった欧州がいまやってることは,1930年代の西欧にもおとってる.
独立したスコットランドがイギリスポンドを使ったとしたら,おそらく,状況はいっそうひどいものになるだろう.欧州がこのところそこそこ安定してきたのは,欧州中央銀行総裁のマリオ・ドラギが債務国を支援したおかげだ.でも,ドラギ氏がこれをやれたのは,彼がドイツだけじゃなく欧州全体に責任を負っているからだ.独立スコットランドがイギリスポンドを使い続けるなら,イングランド銀行がどんな政策をやろうと,まったく口出しができないまま,その好意を頼みにするしかなくなってしまう.
独立に関してそこそこ文献を読んだけど,この危険を理解してるものはひとつもない.スコットランドの有権者たちがいますべきなのは,これまでの経験にじっくりと目を向けることだ.北海の対岸で,国家から通貨が切り離されたとき,どんなことが起きたか,よく考えるべきだ.独立の背中を押すようなしろものじゃないよね.
© The New York Times News Service
ぼくらが汚名のうちに生きる日
国際通貨基金に寄稿した2本の文章がネットにあがってる.1つ目は,マンデル・フレミング講義の文章で,自国通貨で借り入れる国でギリシャ式の危機が起こる可能性(の欠如)について述べてる.2つ目は,ノーベル賞受賞者たちが寄せた短いノートだ.
マンデル・フレミング講義の結論を引用しておこう:「変動相場制の債務国が危機に対して脆弱だという主張には,まったく具体例が示されていない.なぜなら,実はこれが意味をなさないからだ.単純なマクロ経済モデルからはうかがい知れるのはこんなことだ――金利のゼロ下限にある状況でアメリカのような国が通貨への信認をなくしたたとき,なにか効果があるとしても,それは拡張的な効果になるはずだ.それに,歴史の教訓に訴えることもできない:架空の危機シナリオに似た事例は稀で,そのわずかな実在の事例も,ギリシャ式の危機が,ギリシャと大違いの通貨制度のもとで起こりうるという考えを支持しない.」
「『これほど大勢の影響力ある人々が指示している通説がそんな基本的な論点で間違っているなんて,ありそうにない』と思うかもしれない.だが,それなら先例があるし,きっとこれで最後というわけでもないだろう.」
© The New York Times News Service
訳註:2本目の短文の原題 “Day of IMFamy” は,ルーズベルト大統領が真珠湾攻撃を受けて日本に宣戦布告した「汚名の日」(“Day of Infamy”) 演説にひっかけている.