Paul Krugman, “Standing Up for Liberal Principles,” Krugman & Co., August 1, 2014.
[“The End of the Cringe,” The Conscience of a Liberal, July 25, 2014.]
リベラルの原則を旗幟鮮明に打ち出す
by ポール・クルーグマン
先日,民主党の政治ストラテジストであるダグ・ソスニック (Doug Sosnik) が,『ポリティコ』におもしろい文章を書いていた.「左翼」がいかにして民主党を支配しつつあるのか,というのがその主題だ.もちろん,彼が言う「左翼」はアメリカ以外の大半の西洋民主国家では中道派のことだし,もしかすると中道右派かもしれない.今日の進歩派のアイコンたちは――たとえばマサチューセッツの上院議員エリザベス・ウォレンは――テディ・ケネディみたいな旧式のリベラルよりも右ってことになるはずだ.
ただ,民主党の物事へのアプローチ方法にかなり大きな変化が起きているって点では,ソスニックは正しい.それをぼくなりに言い表すなら,こんな具合:彼らは,ポスト・レーガン時代の卑屈な姿勢をなくしてる.
長い間,歴史の趨勢は自分たちの側にあると思っていたのは共和党だけじゃなかった.民主党の多くも,同じように感じていたように思える.1980年代の古い漫画にこんなのがある.民主党が,自分たちの新たな政治綱領を掲げていて,そこに並んでいるのは――富裕層減税,貧困層への手当削減,強力な防衛力だった.それのどこが共和党の政治綱領とちがうんだって質問への答えは「共感だよ,ぼくらの政策の犠牲になった人たちに配慮してるもの」
ところが,事情は変わってきてる.それにはソスニック氏が挙げてる理由もあるし,他の理由もある.なんといっても,民主党は過去6回の大統領選挙で世論の支持を5回も受けている.
ばかげたこともあったしいろいろと難題もあったけれど,それでも民主党はこれまで何世代にもわたって追求してきた国民皆健康保険の実現に向けて,大きな前進を果たしている.民主党のシンクタンクのネットワークは,資金提供こそ右派の組織ほど潤沢じゃないけれど,対立勢力を知的に圧倒してる.
それに,ソスニック氏がおおむね明瞭に書いているとおり,右派の狂乱ぶりは穏健左派にとっていくつかの点で助力になっている.
この間まで,「中道派の」民主党員は,事実上,妥協を推し進めていた:格差を問題に取り上げるな,民営化について悪くいうな,さもないと右派が怒り出すぞ,なんて言ってた.ところがいまでは,なにをどうしようと,ニューディールの遺産をまるごと破壊しないでいるかぎり,民主党員であるって事実だけで,「おまえは無神論者のムスリム共産主義野郎だ」なんて非難を浴びせかけられることになるのは明らかだ.
今年後半の選挙で共和党が圧勝すれば――政治の地図がすごい優勢になってるなかで上院で僅差の勝利を収めるのではなくて,その政治の地図を劇的に動かすような勝利を収めれば――またあの卑屈な姿勢が戻ってくるかもしれない.だけど,週がめぐるごとに,そんな事態はますますありそうになくなってきてる.2016年には,政治の地図は民主党有利になるだろう.
情勢がどうなるか,誰にも確かなことはわからない――もしかすると,カリフォルニアのシナリオが全米にまで広まることになるかもしれない.つまり,有権者がもっと多様になり,右派の狂乱ぶりがまざまざと明らかになって,民主党が圧倒的な過半数を手にすることになるかもしれない.あるいはもしかすると外生的な出来事によってバランスがふたたび共和党優位にかたむくかもしれない.もっとも,趨勢はその逆に見えるけどね.ただ,これは起こりそうにないとぼくが思ってることがある.ホワイトハウスに新たなクリントンがおさまったとしても,あのクリントン時代が再来することはなさそうだ.リベラルたちが立場を明らかにすることを恐れていた,あの時代の再来はね.
© The New York Times News Service