2017年10月14日 原文
Lisa Cook、ミシガン州立大学経済学部
Trevon Logan、オハイオ州立大学経済学部
John Parman、ウィリアム・アンド・メアリー大学経済学部
概要:アメリカ南部における私的制裁、 リンチング がそのピークを迎えたのは1890年代であるが、いまだにそのインパクトは持続している。このコラムは人種隔離の新しい推計をリンチングの発生についてのデータに当てはめて、黒人人口比率の高い郡ほどリンチングが起こりやすかったというこれまでの発見、そしてさらに黒人人口の隔離が進むほどリンチング活動も増えていたという事を確認する。これらの発見は居住地の隔離が非都市部 (rural) において集団間の関係と、その関係に基づいた経済的社会的な結果にとって重要である事を示している。
増え続ける実証の証拠が、経済と社会的結果の両方についての人種民族的多様性と人種民族対立の重要なインパクトを物語っている。合衆国のコンテクストでは経済学者はたいてい、都市部での経済的結果についての人種民族的多様性の影響について注目するが、その結果はまちまちである。都市部エリアにおける多様性の経済的有益さを物語る研究もあるが(たとえばOttaviano and Peri 2006)、別の研究は多様性の上昇は社会的資本(Costa and Kahn, 2003)、公共財供給(Alesina et al. 1999)、そして経済成長率(Alesina and La Ferrara, 2005)の低下と関係していることを見出している。
この分野の文献の限界の一つが、歴史的深みの欠落である。民族的そして人種的分断は時間をかけて展開し永続的な効果を持ちうる本来的に歴史的なプロセスであり、発展の異なる展開から文化的な規範につながるものだ。アメリカの闇の歴史、リンチングというかたちをとる人種間暴力の長期的なインパクトを考えてみよう。それはほとんどの場合、白人の暴徒が黒人の犠牲者をターゲットにするというものだ。図1が表すように、リンチングは1890年代にそのピークを迎えた。しかし、そのインパクトは今日まで継続している(Messner et al. 2005)。アメリカの黒人が直面した差別と人種間暴力の長い歴史からのあるはっきりとした結果が合衆国における信頼レベルの現代でのギャップであって、黒人は他者を信頼するのが非黒人よりも24%も低い(Alesina and La Ferrara 2002)。こうした現代での信頼レベルは、20世紀初頭に最も高いリンチングのレベルを経験した州においてもっとも低くなっており、ミシシッピー、アラバマ、そしてアーカンサスなどが歴史的にリンチングの数が最も多く、そして今日において信頼のレベルが最も低い州に含まれる。そういった州はまた今日、平均所得と公共財が我が国の中で最も低いレベルでもある。リンチングとその他の歴史的な集団間対立のその有り様を理解することは、現在の態度、制度、政治、そして経済パフォーマンスを理解するのに決定的に重要である。
図1 年と犠牲者の人種によるアメリカ南部でのリンチングの数
Source: Project HAL (Historical American Lynching) database.
アメリカの過去における暴力的人種対立の原因と結果を探るには、人種的多様性と対立についての既存の文献があまり研究してこなかった二つの方向へ向けて進む事が必要となる。
・第一に、都市部のコミュニティだけではなく、非都市部へ焦点を移すことが必要になる。
・第二に、人種集団の人口シェアだけではなくて、その地域的分布が強調されなければならない。
歴史的には、リンチングという形での人種的暴力はアメリカの非都市部コミュニティに特に集中していた。そこが、反少数派という態度、政治的態度、公共財供給、そして集団間対立(e.g. Tope et al. 2015, Kimmel and Ferber 2000)の間での複雑な繋がりを示し続ける地域である。さらに、こういった地域は過去そして現在も白人が多数派だったり黒人が多数派であったりの両方のコミュニティに渡っている。人種民族の細分化と対立についての文献の大半が注目してきたのは集団のシェアであったが、それだけではこういった人口の地域的分布の同定に失敗してしまう。しかし、集団間対立を理解するのに地域的分布は根本的に重要である。ある集団がいかに隔離されているかが、その集団が他の集団のメンバーとどの程度交流することがあるかを決定する。この交流が、集団間での緊張を和らげたり火をつけたりする。
我々のうちの二人による合衆国の居住地隔離の上昇についての最近の研究が、非都市部人口における集団の地理的分布を直接取り扱う方法を提供している(Logan and Parman 2017)。連邦政府の国勢調査の手書きのページが全部(100%)を利用できる事を使って隣人の人種の特定を行い、隔離の新しい指標を作り出した。これは地域ごとに隣人が異なる人種である家長の数を、ランダムに組み合わせが決まる場合の予想される数と比較することで隔離の程度を測っている。つまり、完全な隔離において予想される数と隔離のない場合に予想される数である [1]訳注:最初の「完全な隔離」が前の文章とどうつながっているのかよく分かりません。 。家計のレベルで定義されている事は、この指標が都市部についても非都市部についても同時に利用することが出来る事を意味する。よって初めて、隔離についての統一的な指標が出来上がった事になる。既存の文献において利用されてきた人種についての人口シェアを補完する隔離の指標を持つことの重要性は図2によって示されている。この図は1880年の南部の郡における黒人のパーセンテージと、その郡における隣人ベースの隔離の両方を表している。ミシシッピー川沿いの郡のような南部の一部の地域では人口内での高い黒人のシェアと高いレベルでの隔離の両方があったが、一般的には黒人の人口シェアと隔離の地域的パターンは非常に異なっている。
図2 1880年アメリカ南部での黒人人口の分布、黒人の人口シェア(左)、隣人ベースの隔離(右)
Source: Logan and Parman (2017).
三人の著者全員による別の論文において、我々はこの新しい指標の郡レベルでのバージョンを南部のリンチングについて利用できる最も包括的なデータと組み合わせて、黒人人口シェアとその人口の隔離についての両方が人種間暴力とどう関係しているかを調べてみる事にした(Cook et al. 2017)。そのリンチングのデータは1892年から1930年までに渡るが、我々の隔離データは1880年についてのものである。なので、我々は黒人人口の事前の隔離からその後の人種間暴力へのインパクトに注目しており、その暴力の発生が黒人、白人の移住地をどう変化させたかについてではない。
南部のリンチングについての先行する研究どおりに、我々は黒人人口のシェアが大きい郡ほどリンチングが起こりやすい事を発見した。これは図3に表されている。しかし、隔離についての新しいデータにより、我々は黒人人口の隔離もまたリンチング活動の予測について決定的に重要であることを示すことが出来た。隔離はリンチングと強く相関していたのである:隔離のその平均より標準偏差一つ分下から平均までの上昇は、黒人のリンチング犠牲者の予想数が2.1から3へと43%の増加とつながっている(図3)。より隔離が行われている郡ほど、リンチングがずっと起こり易かった。リンチングが起こったという条件の元で、より隔離が進んでいる郡ほど複数のリンチングが起こりやすかった。
これらの発見は、より隔離の進んだ郡は一般的に暴力や自警団的正義がより起こりやすい故の結果ではない。隔離は黒人犠牲者の出たリンチングと強い相関があるが、白人犠牲者のでるリンチングとは相関がない事を我々は発見している。居住地の隔離は人種間暴力とは強く相関しているが、人種内暴力とはほとんど関係がない。黒人犠牲者と白人犠牲者の出たリンチングに関するネガティブな結果についてのこの非対称性は、Cook (2014)の発見、つまり優位な特許申請の低下が前者とは関係があるが後者とはない事と整合的である。
図3 1882年から1930年の間の、黒人人口シェアや隔離が変化した時のリンチングによる郡の予想黒人犠牲者数
Source: Cook et al. (2017).
これらの結果は人種間対立の合衆国史に新しい光をあてるものである。これらは隔離が、1880年の南部人口の4分の3が住んでいた非都市部コミュニティにおける人種間暴力の重要な要因であることを示している。リンチングについての最も新しい文献は地域ごとの現象を強調するが、ここで我々はリンチングには人種隔離の地域ごとの違いが影響を与えていた事を見出した。居住地の隔離で測った田舎の社会的構成が対立と関係していたことは、非都市部に於ける民族や人種ごとの分断と社会的対立についての研究の範囲を広げる新しい発見だった。更に言って、より高い居住地の隔離は更なるリンチングと関連しているという我々の発見は、人種間暴力の底にある潜在的なメカニズムを我々が発見する助けとなり始めている。アメリカ南部のケースにおいては、居住地の隔離は黒人コミュニティを人種間暴力から逃れさせはしなかったし、人種間暴力を代替するものともならなかった。そうではなくて、人種隔離は人種間対立を悪化させていたようだ。これは、居住地の隔離と集団間の接触が集団間の対立に影響を及ぼすより一般的なあり方を理解するのを助ける重要な新しい発見である。
人種間暴力のアメリカ史についてのこの探求は現在の合衆国の人種間緊張の深い根っこをより良く理解するのを助けてくれる。しかしこれはまた、居住地の隔離は非都市部においては集団間の関係や、その関係に基づく経済的そして社会的結果について重要であるというより一般的なポイントも強調している。非都市部での居住地の隔離は20世紀の前半において非常に拡大したし(Logan and Parman, 2017)、今日においても国内全域でとても高いままであり続けている (Lichter et al., 2007)。非都市地域における人種・民族的ダイナミクスは現代の国内政治、公共財配分、そして公共政策において大きな役割を演じていることからして、非都市部の隔離がそのダイナミクスにどのように影響を与え続けているのかについての更なる研究は決定的に重要である。
参照文献
Alesina, A, R Baqir, and W Easterly (1999), “Public goods and ethnic divisions”, The Quarterly Journal of Economics 114(4): 1243-1284.
Alesina, A, and E La Ferrara (2002), “Who trusts others?”, Journal of Public Economics 85(2): 207-234.
Alesina, A, and E La Ferrara (2005), “Preferences for redistribution in the land of opportunities”, Journal of Public Economics 89(5): 897-931.
Cook, L D (2014), “Violence and economic activity: evidence from African American patents, 1870–1940”, Journal of Economic Growth 19(2): 221-257.
Cook, L D, T D Logan, and J M Parman (2017), “Racial Segregation and Southern Lynching”, Working Paper No. w23813.
Costa, D L, and M E Kahn (2003). “Civic engagement and community heterogeneity: An economist’s perspective”, Perspectives on Politics 1(1): 103-111.
Kimmel, M, and A L Ferber (2000), “‘White Men Are This Nation:’ Right-Wing Militias and the Restoration of Rural American Masculinity”, Rural Sociology 65(4): 582–604.
Lichter, D T et al. (2007), “National estimates of racial segregation in rural and small-town America”, Demography 44(3): 563-581.
Logan, T D and J M Parman (2017), “The national rise in residential segregation”, The Journal of Economic History 77(1): 127-170.
Messner, S F, R D Baller, and M P Zevenbergen (2005), “The Legacy of Lynching and Southern Homicide”, American Sociological Review 70(4): 633–55.
Ottaviano, G I P, and G Peri (2006), “The economic value of cultural diversity: evidence from US cities”, Journal of Economic Geography 6(1): 9-44.
Tope, D, J T Pickett, and T Chiricos (2015), “Anti-Minority Attitudes and Tea Party Movement Membership”, Social Science Research 51: 322–37.
References
↑1 | 訳注:最初の「完全な隔離」が前の文章とどうつながっているのかよく分かりません。 |
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