●Tyler Cowen, “Sports economics puzzle of the day”(Marginal Revolution, April 30, 2004)
今週の話だが、招待を受けて(カナダにある)ウェスタンオンタリオ大学に行ってきた。大変楽しいひと時を過ごせた。とりわけ有意義だったのは、私を招いてくれたホストの一人であるジョン・パーマー(John Palmer)とミクロ経済学に絡む謎を交換し合えたことだ。パーマーは、経済学者兼アーティストで、(凡庸なる)ぺリシテ人解放機構(Philistine Liberation Organization)の創設者でもある。
パーマーとの会話で真っ先に話題になったのは、プロスポーツについて長年囁(ささや)かれている謎だった。「アメリカでプロサッカーの人気がいまひとつなのはなぜなのか?」というのがそれだ。
ボールがラインを割った(フィールドの外に出た)タイミングを見計らって(テレビでの中継中に)コマーシャル(CM)を差し込むのもそんなに難しくなさそうだし、アメリカにはサッカー場として使える土地もたくさんある。サッカーは、テレビで鑑賞するにはあまりに退屈なのかもしれない。でも、その件に関しては(手に持っている何やら物騒なモノを投げつけたりしないで冷静に聞いてほしいのだが)野球だって変わらないんじゃなかろうか? 野球はラジオ実況のおかげで人気に火がついたが、サッカーはラジオで実況し辛かったりするんだろうか? サッカーは「労働者階級」向けのスポーツというイメージが強すぎて、労働組合の力が弱いアメリカではウケにくいんじゃないかという仮説もふと頭をよぎるが、この仮説で押し通すのは難しそうだ。
私なりに一番自信がある答えは、こうだ。「アメリカ人は自分たちが世界で一番だとわかっている(あるいは、そう感じている)プロスポーツを好む」。野球は、アメリカが世界一だと思われている。フットボール(アメフト)は、アメリカが世界一だと思われている。バスケットボールは、アメリカが世界一だと思われている。アメリカ国内で人気のあるメジャーどころのプロスポーツのどれにしても、アメリカこそが世界一だと思われている。テニスが(人気が無くて)笑えない状況になっているのは、アメリカが世界一だと思われていないからだ。アメリカ国内でチェスの人気がほんの一時期だけ沸騰したことがあったが、そうなったのはボビー・フィッシャーがボリス・スパスキーを破って世界チャンピオンになった(アメリカ人が初めて世界チャンピオンになった)からだった。
「アメリカ人は自分たちが世界で一番だとわかっている(あるいは、そう感じている)プロスポーツを好む」とするなら、次のような予測が導かれるだろう。このままいくとプロバスケットボール(NBA)の人気(アメリカ国内での人気)は落ちる可能性がある [1] … Continue reading。
(追記)一つの国でメジャーになれるスポーツの数には限りがあるのかもしれないと指摘してくれたのはスコット・カニンガム(Scott Cunningham)だ。別の角度からになるが、ボブ・クロスビー(Bob Crosby)が次のように指摘している。
サッカーは、ホッケーとまったく同じ理由で、アメリカ国民から人気を集めにくくなっている。
サッカーでもホッケーでも、一番優秀な選手が試合で持ち前のスキルを存分に発揮するのが非常に難しくなっている。言い換えると、最高の選手と並みの選手のスキルの差がルールとかのせいで可能な限り狭められているのだ。
ホッケーの場合だと、(a) 審判がフッキング、スラッシング、ホールディングといった反則をとりたがらず、(b) リンクが馬鹿げたほど狭い設計になっている。そのため、選手一人ひとりのスピードやスキルの価値が損なわれてしまっている。選手の間に本来存在するはずのスキルの大きな差が狭められているのだ。
サッカーの場合だと、オフサイドルールが同様の効果を持っている。オフサイドは、スピードを制限するブレーキの役割を果たしている。スピードが制限されて得をするのは、足の遅い選手なのだ。
つまりは、サッカーにしても、ホッケーにしても、最高の選手と最低の選手のスキルの差を可能な限り狭める仕組みが埋め込まれているのだ。
アメフト、野球、バスケットボール、ゴルフは、同じような問題を抱えていない。選手一人ひとりの才能の違いが露骨にプレーに表れる。試合を観戦しているファンも、選手一人ひとりの才能の違いにすぐに容易く気付けるようになっているのだ。
References
↑1 | 訳注;原エントリーでは、プレドラグ・ストヤコヴィッチのプロフィールのリンクが貼られている(リンク切れ)。ストヤコヴィッチは、NBAでも活躍したクロアチア(当時はユーゴスラビア)出身のバスケットボール選手。NBAで海外出身の選手たちの活躍が目立つようになると、バスケットボールが一番強い国はアメリカだと断言しにくくなるかもしれない。そうなると、アメリカ国内でNBAの人気に陰りが出るかもしれない、というようなことを言わんとしているのだろう。 |
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