これまで,政治的二極化が近年になって高まっているのはインターネットのせいだと多大な非難が向けられてきた.だが,政治的二極化が全体的に高まる傾向は少なくとも70年代までさかのぼり,そこにインターネットはなんら有意な役割を果たしていないことをこのコラムでは論じよう.使用するのはアメリカのデータだ.さまざまな研究結果を見ていくと,わかりやすい物語による説明に安んじずにもっと奥深く見通すことの重要さが際立ってくる.政治的な感情を押し動かす要因をもっと深く理解することが重要なのだ.
いまも蓄積が進んでいる研究文献からは,アメリカの有権者のあいだにみられる政治的二極化は近年になって強まっていることがうかがえる(e.g. Abramowitz and Saunders 2008, Iyengar et al. 2012).1994年には,支持政党がある有権者でもう一方の政党を「非常に好ましくない」と思う人たちはおよそ 20% ほどだった.これが2016年までに 55% を超えるにいたっている.しかも,なんら減速するきざしを示していない (Pew Research 2016).1994年から2014年までの期間に,多岐にわたる政策問題について強く一貫したイデオロギー的見解をもつアメリカ人は2倍以上も増加した―― 10% から 20% 以上への増加だ (Pew Research 2014).
さらに,政治的二極化への関心もかつてなく高まっている.政治的二極化に関連した検索は2004年から調査されるようになった.これがもっとも高くなったのは,他でもなく,2016年11月の大統領選挙のときだった.Gentzkow (2016) の研究では,グーグル・ブックスの n-gram viewer から得た1950年から2008年までのデータを検討して,政治的二極化に関わる参照で同様の結果を見出している.
政治的二極化を説明するのに広く引用されている仮説ではこう考える:インターネットとソーシャルメディアが主要な要因だ.キャス・サンスティーンの次の引用は,その標準的な論述となっている (Sunstein 2007):
「インターネットのおかげで,人々は(…)自分の考えを裏付けてくれる大量の文章をとてつもなくかんたんに読めるようになりました(…).[そして]自分の考えと食い違う主張を展開する文章はなにもかも除外してすますのも,きわめてかんたんになりました(…).こうして自分のために自分で〔読むもの・読まないものを〕分別したことの大きな帰結が,「飛び地の過激思想」とでも呼べそうなものです.自分と似た考えの人たち同士が集まって飛び地をつくるとき,彼らはたいていいっそう過激で極端な地点にまで進んでいくのです.」
イーライ・パリサー (Pariser 2011) やサンスティーン (2001, 2009, 2017) による一般書では,インターネットが「フィルター・バブル」や「エコーチャンバー」として機能するという考えを詳しく述べている.
たしかに,自分と似た考えの情報源を個々人がオンラインで見つけ出していて,似た考えの者どうしの方がソーシャルメディアでつながりやすいことを示す強固な実証的証拠はある.これまでの研究では,オンラインでのさまざまな分断が示されてきた――さまざまな政治系ブログが張るリンクの分断 (Adamic and Glance 2005),ウェブサイト訪問の分断 (Gentzkow and Shapiro 2011),Twitter での政治ネタのリツイートの分断 (Conover et al. 2011),ソーシャルメディアでの記事の共有とクリックの分断 (An et al. 2014, Bakshy et al. 2014, Flaxman et al. 2016).また,Twitter で政治的に似た者どうしをお互いに好んでいることも示されている (Colleoni et al. 2014, Gruzd and Roy 2014, Halberstam and Knight 2016).
▼図 1: 媒体とやりとりの種別でみたイデオロギー的な分断
出典: Gentzkow and Shapiro (2011).
だが,オフライン情報源とオンライン情報源で比較した各種の研究では,分断度合いが両者で似通っているのを見出している.Gentzkow & Shapiro (2011) から引用した図1 を見ると,さまざまなウェブサイトの訪問に見られる分断の方が全国紙〔の読者層〕に見られる分断より小さい一方で、地域紙〔の読者層〕の分断よりは大きいことがわかる.Halberstam & Knight (2016) の研究では,Twitter での政治的ネットワークを検討して,Twitter での政治的ネットワークの分断度合いはオフラインの政治的ネットワークの分断と同程度であることを見出している.さらに,これはまだ示唆にとどまるが,インターネット上のさまざまな情報源での分断があっても,それはインターネットによって二極化が高まるのに必要でも十分でもないようだ.
▼図 2: 政治的二極化の標準指標,1972年~2016年
出典: Boxell et al.(近刊).
最新論文で,共著者たちと私は,インターネットと政治的二極化の関係を検討するのに直接的なアプローチをとった.全米選挙研究 (American National Election Studies) の調査データを利用して,オンライン情報へのアクセスが異なるさまざまな人口集団に見られるそれぞれの二極化傾向を比較した (Boxell et al. forthcoming).政治的二極化をはかる特定の数値に調査結果が偏りにくくするために,私たちは標準指標をつくりだした.これに含めたのは,これまでに先行研究で用いられてきた8つの計測値で,たとえばイデオロギー的な一貫性の計測値 (Abramowitz and Saunders, 2008) や党派的選別の計測値 (Mason, 2015) などを利用している.図2 を見てもらうと,1972年から2016年までの私たちの標準指標の傾向が示してある(1996年が 1 の値となるように指標化してある).この期間に政治的二極化が安定して上昇している傾向が見てとれ,インターネットの隆盛に対応する傾向の分岐点らしきものは見当たらない.1996年以前の傾向だけでも,政治的二極化の説明にインターネットが限定された役割しか果たしていないらしいことがうかがえる.
さらに,下の図3 に示されているように,〔インターネットが普及していった〕1996年から2016年の期間を見ると,二極化の進み具合は年配の年齢層(65歳以上と75歳以上)の方が若年層(18歳~39歳)よりも急速だ.また,もっと制限をゆるめて人種や教育水準といった他の人口統計変数も考慮に入れたインターネットアクセス予想の数値を用いると,1996年にもっともインターネットアクセスをしにくかった集団の方が,1996年にもっともインターネットアクセスをしやすかった人口集団よりも二極化が大きく進んでいたことが見てとれる.
図3: 年齢層別に見た政治的二極化,1996年~2016年
出典: Boxell et al.(近刊).
インターネットやソーシャルメディアへの直接アクセスが政治的二極化を後押しする主要な要因だったなら,これと逆の傾向が予想されるだろう.2016年に,選挙ニュースをオンラインで見ただろう見込みは,若年層(18歳~39歳)の方が熟年層(65歳以上)よりもおよそ2倍も大きい.しかも,ソーシャルメディアは若年層より熟年層の方が利用率が低い.それにも関わらず,こうした年配の集団でこそ政治的二極化の変化は最大になっているのだ.こうした事実を踏まえると,「現代の政治的二極化を後押ししている主要な要因はインターネットやソーシャルメディアだ」という物語をつくりあげようとすれば,年齢集団のあいだで大きな漏出効果があるか,あるいは年齢集団でインターネットアクセスへの反応が異質になっている必要があるだろう.
こうした研究結果はインターネットやソーシャルメディアが政治的二極化に影響していることを除外しない.それどころか,インターネットが小さな影響を及ぼしているかもしれない証拠もある.Lelkes et al. (2017) の研究では,おそらく外生的であろう優先権 (right-of-way) 立法〔ブロードバンド接続に行政が助成を出す制度〕に州ごとでばらつきがあるのを利用して,ブロードバンド接続の普及によって調査対象の地域で情動的な二極化がほどほどに増大していると論じている.だが,この研究でも次のように述べて主張を和らげている――「ブロードバンド接続が党派的な悪意を高める唯一の原因であるとは我々は思わない.それどころか,主要な要因ですらないかもしれない(…).情動面の二極化が増加しはじめた時点は,インターネット利用が広まるのより少なくとも20年は前にさかのぼる.」 さらに,こうした研究結果は年齢集団ごとに見られる情動面の二極化が異なっていることを説明しない.
2016年の大統領選挙の結果をインターネットやソーシャルメディアのせいだと非難する同様の物語もある.選挙後に,フェイクニュースやフェイスブックが自分の失敗に一役買ったのではないかとヒラリー・クリントンは述べた (Ingram 2017).私たちの論文では,インターネットが2016年選挙におよぼした影響を比較するのに,さまざまな人口統計集団での投票先の割合を比較している.この比較では,インターネットをあまり使わない傾向のある人口統計集団に比べてインターネットをよく使いがちな傾向のある集団からの支持票が,これまでの共和党候補よりドナルド・トランプにより多く投じられていたという証拠はなんら見出されていない.それどころか,私たちの推定値は逆のパターンを示唆している――インターネット利用の傾向が強い人たちや実際のインターネット利用者からの支持をめぐってはトランプはむしろ苦戦していたらしい.Hampton & Hargittai (2016) も,ソーシャルメディアを利用しているトランプ支持者の割合とさまざまな人口統計集団別で見た得票率のちがいを検討して,これと同様の結論にいたっている.
今日のアメリカには政治集団どうしに大きな分断がある.そうした分断はいまのところ弱まる様子がない.政治的二極化の隆盛やポピュリストの大統領候補の成功を理解しようとするときには,インターネットやソーシャルメディアについつい関心を向けたくなる.だが,人口統計集団別の基本的な傾向は,そうした現象の説明にインターネットが大きな役割を果たすという物語を支持していない.メディア消費が伝統的なメディアからもっと新しいプラットフォームへと移行していくなかで,その利用や政治領域への影響を今後も注視すべきではある.だが,こうした結論を変える証拠が現れるまで,フェイスブックのフィードやグーグル検索エンジンに替わるなにかが私たちの政治的問題を解決してくれるだろうと期待しないでいた方がいい.
(著者のレヴィ・ボクセルはスタンフォード大学で経済学を研究している博士課程大学院生.)
参照文献