●Tyler Cowen, “Can too much cultural similarity cause war?”(Marginal Revolution, March 5, 2014)
アコス・ラダ(Akos Lada)の研究論文(pdf)より。
同じ宗教を共有していたり、同じ文明圏に属していたり、人種が近かったりする国同士の間では、平和な関係が保たれるのだろうか? 本稿では、文化が似通っている国同士の間では、自国民が相手の国の魅力に感化されるのを防ぐために、戦争が勃発する可能性があることを論じる。本稿では、アセモグル&ロビンソン (2006) およびフィアロン (1995) のモデルを組み合わせた新たなモデルを構築して、文化が似通っていて政治制度が異なる国同士の間では、相手の国の魅力に感化された自国民が体制の転換を求めて立ち上がるのを怖れて、国の支配層が相手の国――自国民を感化する源泉――を武力で潰そうとする可能性があることを示す。文化が似通っていて政治制度が異なる国に感化されるのはどうしてかというと、経済成長率に違いがあるため(文化が似通っていても政治制度が違うだけで経済成長率に違いが生まれるとの了解が国民の間に広がるため)のようだ。モデルから導かれた仮説の妥当性を検証するために、1848年革命、2013年の朝鮮半島「核」危機、第一次世界大戦といったケーススタディーおよび過去2世紀の間に勃発した全戦争を対象にした統計解析も行っている。
ラダがワシントン・ポスト紙に寄稿しているこちらの記事では、ウクライナとロシアの関係について論じられている。一部を引用しておこう。
ウクライナの民主化は、ロシアの国民に対して一つのお手本となる可能性がある。文化が似通っていても、別の政治制度で国を運営できることを示すお手本に。歴史が示しているように、強力な軍事力を手にしている独裁者は、自国民が身近なお手本に感化されるのを放ってはおかないのだ。
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●Tyler Cowen, “Might this help explain Russia and Ukraine?”(Marginal Revolution, November 8, 2014)
ハーバード大学の優秀な院生であるアコス・ラダ(Akos Lada)の最新の論文で、戦争が起きる理由が探られている。論文のタイトルは、「誘引力の暗黒面」(“The Dark Side of Attraction”)。以下にアブストラクト(要旨)を引用しておこう。
国ごとの政治制度の違いが戦争を引き起こす原因になる、というのが本稿の主張である。圧制を敷いている独裁者は、近くにある国が異なる政治制度を採用していると、その国に魅せられた自国民がその国の政治制度を真似ようとして、体制の転換を求めて立ち上がるのではないかと怖れる。すると、独裁者は、その国に戦争を仕掛けて、自国民のお手本を破壊しようと図る可能性がある。そのようなかたちで戦争が起きる可能性が高いのは、独裁者に対して抵抗を試みる勢力と、近くのお手本となりそうな国との間で文化が似通っている――同じ宗教を共有していたり、人種が近かったりする――場合(文化が似通っていて、政治制度が異なる国同士の間において)である。それというのも、文化が似通っているために、彼我の違いを比べやすいから(それゆえ、自国民が魅せられる可能性が高いから)である。ロシアによるハンガリーへの侵攻(1849年)、第一次世界大戦(1914年~1918年)の起源(オーストリア=ハンガリー帝国によるセルビアへの侵攻)、イラン=イラク戦争(1980年~1988年)といった3つのケーススタディーを取り上げるが、いずれのケースでも以上のメカニズムが当てはまる。すなわち、自国民の反抗心を煽(あお)る着火剤となっている隣国に対して、独裁者が戦争を仕掛けたのであった。身近なお手本を破壊するために。
ラダのブログはこちら。ラダは、大局的にものを考えられる経済学界の新星の一人となる可能性を大いに秘めている。
宗教団体の法廷争いの件数はよく似た信仰同士・分裂した宗派同士が多くなるのと似たようなもんでしょうかね