タイラー・コーエン 「『ロシア 対 ナポレオン』 ~最大の英雄としての馬~」(2010年4月17日)

1812年から1814年までにロシアが戦争のために尽力する中で最も活躍した英雄と言えるのは、人間ではなく馬だった。ロシアがナポレオンを打ち負かす上で決定的な要因――おそらくは唯一の決定的な要因――となったのが馬だったのだ。
画像の出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/24440915

Russia Against Napoleon』(『ロシア 対 ナポレオン』)というのがドミニク・リーベン(Dominic Lieven)の新著のタイトルだ。副題は、「『戦争と平和』に描かれた戦役の真実」(「The True Story of the Campaigns of War and Peace」)。素晴らしい一冊だ。ほんの少しだけ引用しておこう。

1812年から1814年までにロシアが戦争のために尽力(じんりょく)する中で最も活躍した英雄と言えるのは、人間ではなく馬だった――色んな意味でそうだった――。そのことは、当時のヨーロッパ大陸で繰り広げられた戦争についてもある程度当てはまる。馬は、現代で言う戦車に相当する役割を果たした。運搬車に相当する役割を果たした。飛行機に相当する役割を果たした。自走砲に相当する役割を果たした。言い換えると、馬は、突撃して敵にショックを与える武器であっただけでなく、追跡にも偵察にも輸送にも使える武器であり、動く火力でもあったのだ。ロシアがナポレオンを打ち負かす上で決定的な要因――おそらくは唯一の決定的な要因――となったのが馬だった。モスクワから撤退するナポレオン軍を壊滅状態に追いやる上で中心的な役割を果たしたのがロシアの軽騎兵だった。ナポレオン軍が食糧を確保するのを防ぐだけでなく、ナポレオン軍に休息する暇を与えなかったのだ。ロシアの軽騎兵の圧倒的な優位性ゆえの結果だった。1812年にナポレオンが失ったのは、ロシアに侵攻するために引き連れていった兵のほとんどだけではなかった。馬もほとんど失ったのだ。ナポレオンは、1813年になると、新たに兵を募って人員をどうにか確保した。しかしながら、新たに馬を見つけるのは新たに兵を見つけるよりもずっと難しく、ナポレオンを大いに悩ましたのだった。

ちなみに、リーベンの前著である『Empire:The Russian Empire and its Rivals』(邦訳『帝国の興亡』)は、私のお気に入りのノンフィクション作品の一つだ。


〔原文:“Russia Against Napoleon”(Marginal Revolution, April 17, 2010)〕

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