移民受け入れを支持する人間として,ぼくは懐疑的な人や批判的な人に耳を貸すようにつとめてる.どんな国にも,自らがのぞむならどんな人間でも招き入れる権利がある――あるいは,入国を拒否する権利がある.移民の流入で自分たちの文化が変わってしまうのを人々が心配しているなら,それは完璧に許容されるべき態度だ.
ただ,それと同時に,移民流入制限派の人たちは移民受け入れにともなう経済的な害悪をあれこれとたくさん主張している――賃金低下,政府財政への負担,などなど.それでいて,そういう主張はずっと証拠と矛盾しつづけている.
たとえば,多くの証拠から,移民流入は――低技能移民の流入ですら――現地生まれの人たちの賃金や雇用の見通しに悪影響を及ぼしていないことが明らかになっている〔日本語版記事〕.最近出た Michael Clemens & Ethan Lewis の論文を見てみると,この研究はとても「きれい」な対象選定手法を使っている――無作為のビザ抽選だ! その研究結果が支持している結論は,こういうものだ:
アメリカ企業は,農業以外の低技能職種ではたらく外国人労働者向けビザの割り当て枠の制限に直面している.政府はこのビザ割り当て枠の一部を無作為抽選で企業に割り振っている.本研究では,2021年と2022年にこの抽選に参入した企業へのビザ割り当ての限界的な影響を評価する.新規の調査と事前分析計画を用いた.低技能雇用の移民雇用を増やす認証を外生的に得た企業は,産出(弾力性 0.20-0.22)と投資(1.5-2.1)と利益率(0.15)を顕著に増やしている.この政策に関連する職種では産出における外国人と現地人の代替弾力性が非常に低い(0.8-2.2).このため,現地人の雇用に生じる影響は全体でゼロかプラス,農村地域ではプラスとなっている.
なぜこうなるかというと,理由は単純で,移民流入はたんに労働供給ショックであるだけじゃなくて,プラスの労働需要ショックでもあるからだ.なにしろ,移民はたくさんモノを買う.すると,それを産出する労働力が必要になるわけだ.でも,おそらく,他にも理由はある.Alessandro Caiumi & Giovanni Peri の新しい論文を見てみよう.これによると,移民流入は現地生まれのアメリカ人がよりよい仕事につく助けになるそうだ:
本研究の計算では,2000年から2019年にあいだに,移民流入によって,比較的に教育水準の低い現地人労働者の賃金に +1.7%から 2.6% というプラスの有意な影響が生じたという結果が得られた.このプラスの影響は,現地人と移民の補完関係による.また,大卒の現地人の賃金にはなんら有意な影響は生じていない.さらに,本研究の計算では,大半の現地生まれ労働者の雇用率を高める影響が生じているという結果も得られた.
さらに,Mark Colas & Dominik Sachs の2020年論文では,この技能向上効果だけでも,低技能移民が引き起こすのが知られている地方政府のリソース消費分を上回りうることが示されている.もちろん,短期的にはリソース負担が生じるけれど,その一方で,間接的・長期的な財政への恩恵は長期的にしか生じない.それでも,移民制限派の主張よりも多くの経済的恩恵を移民受け入れがもたらすという証拠がここにまたひとつ見いだせる.
文化的な理由で移民受け入れに断固反対という人たちは,またしても George Borjas の昔の研究を引っ張り出してくるだろう.その研究の主張は,移民受け入れには恩恵があるか無害だっていううずたかく積み上がった証拠とまっこうから食い違ってるんだよ.こうしてどんどん証拠が積み上がってくるなかで,移民制限派の抗議はますます虚しくなってきている.
[Noah Smith, “The harms from immigration just keep failing to appear,” Noahpinion, May 10, 2024]