スコット・サムナー 「フォード大統領の思い出 ~1975年に起きた二件の暗殺未遂事件~」(2024年7月14日)

暗殺という企て(くわだて)は、我々の細やかな神経にショックを与える。ランダムに起こる出来事だなんて信じたくない。そこで、(暗殺が企てられた理由についての)もっともらしい説明を探し求める。しかしながら、もっともらしい説明なんてないこともあるのだ。
画像の出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/28434872

1975年9月5日、リネット・「スクイーキー」・フロムがジェラルド・フォード大統領の暗殺を試みた。しかしながら、銃の引き金を引こうとしているところをシークレットサービスに制止された。

1975年9月22日、サラ・ジェーン・ムーアがフォード大統領を狙って銃を撃ったが、銃弾はフォード大統領の頭部を数インチほど外れた。

これら二件の暗殺未遂事件は、大きなニュースにならなかった。少なくとも、(このエントリーを読んでいる)読者が予想するほどには。どちらの事件も瞬く間に忘れ去られて、翌年(1976年)の大統領選挙に何の影響も及ぼさなかった。当時は政治的な分断が深まっていたかというと、そうじゃなかった。その一方で、政治的な暴力が今よりもずっと蔓延(はびこ)っていた。今とは大違いだ。今はどうなっているかというと、物理的な暴力(が伴う事件)はずっと少なくなっているが、言葉の暴力がずっと激しくなっているのだ。フォード大統領を狙った二件の暗殺未遂事件よりも、昨日の事件(トランプ前大統領の暗殺未遂事件)の方がだいぶショッキングに感じられるのは、そのため(物理的な暴力が稀になっているため)だ。

1963年から1981年までを振り返ると、暗殺(あるいは、暗殺未遂) の多さに気付かされる。ジョン・F・ケネディ(1963年)、マルコムX(1965年)、マーティン・ルーサー・キング(1968年)、ロバート・ケネディ(1968年)、ジョージ・ウォレス(1972年)、フォード(1975年に二度)、レーガン(1981年)。1981年以降はというと、アメリカの政界は比較的平和だった。ヨーロッパと大差なく。危険な銃文化の国として有名なことを踏まえると、過激な表現が我が物顔で闊歩している国として有名なことを踏まえると、妙な事実だ。

1963年~1981年の大半の時期は、政治的な分断は深まっていなかった。ベトナム戦争と人種暴動で国がいくらか割れた1968年を例外として。政治的な分断が暴力を引き起こしているようには見えない。

昨日の事件が起きた直後に、コメント欄で「あの事件は、お前――過激な表現を使ってトランプを批判するお前――のせいで起きたんだ」と非難された(過激な表現を非難する当人が、同じように過激な表現を使って民主党を攻撃するのはどうしてなんだろうと不思議でしょうがない)。

幸いなことに、乱暴な表現(言葉)が暴力を引き起こすことを裏付ける証拠はない。しかしながら、自分が信じたいことを信じるのが人間だ。実証的な裏付けがなくても。ポルノが性的暴行を誘発することを示す証拠がなくても、ポルノが性的暴行を誘発すると信じている人の考えは変わりはしないのだ。バイオレンス映画が犯罪を誘発するとかいう話にしても、その他のホットな争点の数々にしても、それは同じだ。自分が信じたいことを信じるのが人間なのだ。

暗殺という企て(くわだて)は、我々の細やかな神経にショックを与える。ランダムに起こる出来事だなんて信じたくない。そこで、(暗殺が企てられた理由についての)もっともらしい説明を探し求める。しかしながら、もっともらしい説明なんてないこともあるのだ。

(追記)1976年の大統領選挙の結末はどうなったかというと、現職のフォードは、ニュージャージー州、イリノイ州、カリフォルニア州で勝利したが、結果的には挑戦者のカーターに敗れた。

(追々記)この件(セオドア・ルーズベルト元大統領の暗殺未遂)については知ってたろうか?

(追々々記)1975年に起きた二件の暗殺未遂事件のどちらにしても、ニューヨーク・タイムズ紙の一面トップを飾ったのは確かだ。しかしながら、わずか17日後に二件目の暗殺未遂事件が起きたというのに、数日も経つと興味が薄れていった。9月22日に起きた二件目の暗殺未遂事件について、9月23日の段階では依然として一面トップで扱われていたが、26日の段階では扱いがだいぶ小さくなっている。特別捜査官が銃器の購入を手助けしようとしていたという重大な事実が明らかになったにもかかわらず、パトリシア・ハースト誘拐事件の続報の方が扱いが大きいのだ。


〔原文:“Memories of the Ford Administration”(TheMoneyIllusion, July 14, 2024)〕

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