タイラー・コーエン 「暗殺が引き起こす連鎖反応 ~第一次世界大戦と中東情勢~」(2018年4月14日)

あまりに複雑で入り組んでいる状況においては、ちょっとした出来事(小さな出来事)が連鎖反応を引き起こして大きなうねり(大きな変化)を生み出す可能性がある。

●Tyler Cowen, “The Middle East and Syria right now”(Marginal Revolution, April 14, 2018)


中東情勢をめぐってブルームバーグに記事を寄稿したばかりだ。その一部を引用しておこう。

歴史上の出来事の中には、ゲーム理論を使ってモデル化するのが比較的容易なケースがいくつかある。キューバ危機、冷戦時代の代理戦争の多く、北朝鮮の核危機などがその例だ。いずれのケースも、関係するプレイヤー(国、集団)の数が少なくて、それぞれのプレイヤー(国、集団)の内部の結束力がある程度強かったという共通点がある。

翻って、現在の中東情勢に目を向けると、関係する国の数が多いだけでなく、国家間での外交上の問題とそれぞれの国が内部で抱えている政治問題とが複雑に絡み合っている。現在の中東情勢と似たような状況に置かれていた事例を過去の歴史の中から探すとなると、あまり慰めになりそうにないが、第一次世界大戦にまで遡らねばならないだろう。

第一次世界大戦が勃発する直前の状況を振り返ると、互いに区別できて流動的な数多くの要因が絡み合っていた。オスマン帝国の崩壊、列強間の植民地獲得競争(帝国主義の隆盛)、バルカン戦争、ドイツとイギリスの覇権争い、不安定な同盟関係、弱体化して機能麻痺に陥っていたオーストリア=ハンガリー帝国、 (最終的にロシア革命を招来することになる)ロシア内部の複雑な政治情勢。

第一次世界大戦から何を学べるだろうか? 1914年に入って間もない段階で、戦争が起こる可能性はかなり高まっていたのかもしれない。たとえそうだったとしても、バルカン半島(のサラエボ)で起きた暗殺事件が、中央同盟国(同盟国)によるフランス/ベルギー/ドイツへの宣戦の引き金になろうとは思いも寄らなかったのだ。

しかしながら、あまりに複雑で入り組んでいる状況においては、ちょっとした出来事(小さな出来事)が連鎖反応を引き起こして大きなうねりを生み出す可能性がある。オーストリア=ハンガリー帝国に併合された領土を取り戻すというのが、フランツ・フェルディナント大公暗殺の動機の一つだった。暗殺事件後にオーストリア=ハンガリー政府はセルビア政府に対していくつか要求を突き付けたが、 セルビア政府はそれを撥(は)ね付けた。それを受けて、オーストリア=ハンガリー政府がセルビア政府に宣戦布告。そして、同盟関係を通じて戦火がヨーロッパ中に広がることになったのである。

当時においてもそれほど重要視されていなかった一件の暗殺事件が大戦の引き金となり、何百万人もの命が奪われるだけでなく、ヨーロッパのあちこちが破壊されることになった。どうしてそうなってしまったのかよく飲み込めない(理解できない)ようなら、ポイントを突いていると言える。ゲーム理論を使ってうまくモデル化できないような状況においては、たった一つのよからぬ出来事が非常に大きな意義を持ち得るのだ。どういうわけだかうまく説明がつかないかたちで。

是非とも全文に目を通されたい。

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